第6話   かめさんの秘密

 きっと、小学校に上がるころのこと。

 ぼくは、一匹の「かめさん」を買ってもらいました。

 しばらくお家においたあと、父から

「お池に帰してあげようね。」

 と言われました。

 そこで、当時の自宅から自転車で10分程度のところにあった池に

 「かめさん」を、父といっしょに放しに行きました。

 (この池は、今も、もちろんありますが、今行こうとすると、まるまる 一日かかってしまいます。)

 当時は、周囲の木々がうっそうと茂っていたような気がいたします。

 ぼくは、池の淵から、「かめさん」を放しました。

 すると、「かめさん」は(僕の意識の中では)後ろを振り向いて、手を振って「ばいばい」して、池の中にゆっくりと消えてゆきました。


 それから60年近く。

 しかし、『鶴は千年、亀は萬年』と言います。

 きっと、あの「かめさん」は、まだお池の中で生きているに違いありません!

 もし、ぼくが訪れたら、きっと大きな「かめさん」になって、ぼくを出迎えてくれるのではないでしょうか。


 ああ、故郷に帰りたいなあ。

 そうして、お池の淵に立って、「かめさん」を呼ぶのです。

「おおい、ぼく、帰ってきたよお!」とね。


 あ、「かめさん」に名前つけていたかどうか、

 忘れちゃいました。









 







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