-3- 不思議なペンダント
お店には上機嫌な人が三人いる。その一人は、
「今日は良いものが手に入った」
と、仕入れから帰ってきた大将。早物とはいえ形のよい鮎が手に入ったとのこと。
その鮎に串打ちをし、今、二尾塩焼きにしている。
残りの二人は、大口の仕事が決まり英気を養いに来た、純一さんと奥さんの優子さんだ。
Prrr....Prrrr....
洗い終わった食器を片付けていると、電話が鳴った。
「はい、つくしです」
私は電話の受話器を取りそう言った。
「あ、すいません。私、田崎と申します。昨晩ひじきの煮物の話をしていた者ですが」
「はいはい、昨日はありがとうございました。どうされましたか?」
昨晩の、例の男性からの電話だった。
「そちらに、シルバーのペンダントって忘れ物でなかったでしょうか?開けると中に写真が入っている」
「あ、それでしたら、昨日お座りになられていた椅子の足元に落ちていましたよ。失礼だとは思いましたが、中身拝見させていただきました。セピア色の…」
「そうですそうです。亡くなった姉の唯一残っている写真なんです。あってよかった。それで、不躾なお願いで申し訳ないのですが、少しの間お預かりしていただいてもよろしいでしょうか?」
「大丈夫ですよ。大きなものでもないですし、お預かりしておきますね」
「本当ですか、助かります。来週中にはお伺いできると思いますのでよろしくお願いします」
田崎さんはそう言うと、電話は切れた。
「昨日のお客さんか?」
と、大将に聞かれる。
「はい。忘れ物なかったですか?って、あの写真の女性、亡くなったお姉さんだそうです」
「形見の写真ってわけか。うちで落として一安心ってところか」
焼きあがった鮎から串を抜き、1/4にカットしたすだちと
「なになに?なにか面白いことでもあったの?」
梅酒のソーダ割りのグラスを持って、優子さんが尋ねる。
「辰さん曰く、この辺りで『ひじきの煮物』を食べ歩いている男性の方がいて、昨日うちにもいらしたんです。で、その方の座っていた椅子の足元に忘れ物があって」
私がそこまで言うと、純一さんが話に入ってきた。
「あ、その人なら俺も知ってる。隣町の居酒屋で数回見た。ここにも来たんだ」
「なんでも、亡くなったお姉さんが作ってくれた味を食べれるお店を探してるそうですよ」
鮎の身を半身食べ終えた優子さんが、今度は話に入ってくる。
「その気持ち私もわかる。私も、死んだばあちゃんが漬けてくれた白菜の漬物の味が忘れられなくて、漬物屋さんいっぱいハシゴしたことあるもん」
一つ大将が咳払いをすると、
「とみ、ここにいないお客さんの話はそこまでにしておけよ」
そう釘を刺され、私は黙って自分の仕事へと戻った。
・・・・
・・・
・・
・
今日も色々あって忙しかった。お風呂に入り一日の疲れを癒やした私は、洗い髪をドライヤーで乾かし終えると、お店の二階にある自室の布団の上で寝っ転がっていた。
私の枕の横には、田崎さんの忘れ物のペンダントロケットがある。どういう訳なのか、すごく気になってしまい部屋まで持ってきてしまった。
床から拾い上げた時、このペンダントロケットからは暖かくて優しい霊力を感じた。おばあちゃんと共に修行をしていた際に、依頼者の方が持ってくる遺品の中にこんな気分になるものは一つとしてなかったのに。
「亡くなったお姉さんの味。か」
辰さんも優子さんも思い出の味があるといった。私も、お母さんが作ってくれるオムライスの味が無性に恋しくなるときがある。だから、食べられなくなっても、もう一度食べたいと思う気持ちはよく分かる。
布団の中でゴロゴロしていると、日中の疲れからだろう、瞬く間に睡魔に魅了されてしまったようで、気づけば静かに寝息をたてているのであった。
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