目を覚ます

午前4時、古びた時計はその時間を差している。外気温はマイナス10度。寒さなどとうに慣れた。だが、私の古傷は時折痛みだす。

 テント内はいくらか温かいが寒冷地にいる以上それにも限りがある。

 私が最初に目を覚まし荷物の準備をしていると、テント内にいた他の二人も起き出し準備を行い始めた。

 「辛いな。早く帰って温かいシャワーでも浴びれたなら良いのに」一人はそうぼやく。私はそんな彼に言う。

 「この任務が無事に成し遂げることだな」

 彼はわかってるよと一言言って準備を進める。防寒用の装備を身に付け、自動小銃の弾薬を確認。銃は耐寒性のあるものを用いているため動作などは問題ないはずである。

 装備確認後、雪山を登り始める。距離にして4キロほどの移動だ。

 防寒対策がいくらなされていても、寒さは体を襲い体温を下げようとする。体を動かし続けなければ体温は奪われていくだろう。

 今頃他の班も私達と異なったルートで目的地へと向っているはずだ。

 歩きながら私は考える戦争とは一体何のために行われるのか。

 私にはまるで分からない。だが司令部の言うことに従わなければ軍法会議に掛けられることは避けられない恐らく末には死刑である。

 国のためと言いながら他国を攻撃。その結果多くの犠牲が両国にかならず出る。人間同士争って意味はあるのかと己に問う。様々な考え方が存在している以上は争いは絶えないだろう。だが一つの意見として議論することのほうが有意義に感じる。血を流して「彼は国のために尽くした」と言われおしまいでは死にゆく者たちは本当にうかばれるだろうか。

 これもまた個人の意見に過ぎず、この考えを述べる場は今後与えられることはない。

 目的地A地点に到着。敵のテントが無数に見える。第一に私の班及び他班が至近距離から発砲。それに伴い、この周辺を囲う仲間(スナイパー)が狙撃。この作戦で殲滅する。

 敵兵は凍った湖の上にテントを張っていた。その為、絶好の的でもある。この凍った湖は頑丈そのものであり割れることは無さそうだ。だが爆薬に関しては取扱に気を付けなければならない。

 私の班はゆっくりとテントに近づく、気づかれぬように。そして無事配置が完了。定刻通り午前六時だ。

 私の班が最初に射撃を開始。他班も射撃を同じく開始した。銃声が鳴り響く中、異変に私は気がついた。

 スナイパーによる発砲の音は聞こえず。テント内からも人は誰も出てはこないのだ。私は瞬間、撃つのを止めた。それは私の班のみならず、他班も同じだった。

 私はゆっくりとテントに近づく。

 そこで私が目にしたものはダイナマイトの山だった。

 「罠だ!」そう叫び。急ぎテントから離れようとした時、大きく爆発した。

 体は吹き飛ばされ。痛みが体に走る。それだけではない。湖の氷は砕け私の体は湖へと吸い込まれてゆく、痛みは徐々に感じなくなる。感覚も徐々に失われてゆく、そんな時だ。走馬灯のように夢のことを私は思い出す。

 暖かく、春を迎えた東洋の国。平和な暮らし、変化のない美しい日々。

 暗い暗い湖の底へ沈みながら、思う。

 「今年は花見の場所取りはしなくていいな」と。

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夢夢 冷凍氷菓 @kuran_otori

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