数え

9741

数え

 乾いた風が通る荒野。

 勇者カズトはただ1人、この荒野で佇んでいた。

 彼の前方50メートルには、この世界を支配せんとする魔王に遣わされた、魔物が大群でこちらに向かってきている。


『勇者カズトよ……』


 何処からともなく、低い声が聞こえてきた。

 これは魔王の声だ。だが、やつの姿は何処にもない。おそらく魔術を駆使して、自分の声をカズトに向けて飛ばしているのだろう。


『貴様の人生もここまでだ。この無数の軍勢を前にひれ伏__』


「『焔王の咆哮』!!』


 魔王が言い終わる前に、カズトは魔法を発動。右手から放たれた火炎の弾が魔王軍に襲いかかる。火炎弾が命中した魔物1体とその周辺にいた魔物4体……合計5体の魔物が灰となり、荒野の空に消えた。


『……我が話しているのに攻撃するとは、無礼な奴め。貴様の親は貴様に礼儀を教えなかったようだな』

「マイナス5」

『……ぬ?』

「今、俺が倒した敵の数だ」

『それがどうした。その程度、痛くも痒くもない』

「どうやら、理解していないようだな。いいか? この数秒で、5体の兵を失ったんだ。分かるか? この数秒の間で、5体だぞ、5体」


 カズトは指を広げて、5という数字を強調する。


「魔王、さっきお前は無数の軍勢と言ったな。けっ、大ボラ吹くなよ」


 カズトには嫌いな言葉がある。

 無数、無限、天文学的数字。

 その類いの言葉が、彼は大っ嫌いだった。


「どんな物にだって、限りがある。 人類の数、国の資金、宇宙の星。無数なんて言葉は、数えるのが面倒になった怠け者が使う言葉だ」


 カズトは剣を構える。


「お前の兵が何体いるかは知らねが……今この場で、てめーら全員絶滅させてやるよ!!」


 そう叫びながら、カズトは敵軍に向かって走り出した。






 太陽が地平線に沈む頃。

 無謀にも思われるこの勝負、勝ったのは……。


「10万7065体……無数にはほど遠かったな。俺を倒したいなら、億単位の兵で来やがれってんだ」


 10万7060の死体を背に、1人の勇者が呟いた。

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