第2話

娘が家に、彼氏を連れてきた。


松本陽太

24歳

会社員


どこにでもいるような普通のヤツ。

真剣に交際してて結婚を考えてる。

彼なら娘を任せてもいいと思った。


しかし……


松本陽太に。

私の娘は殺された。

七人殺しの殺人鬼に。

娘はバラバラに殺された。

俺はヤツを絶対に許さない。

俺がヤツを捕まえて殺したかった。


俺は警察官だった。

しかし、親族という理由で、捜査から外されてしまった。

俺は、警察内部の友人に捜査情報を教えてもらっていた。

指紋、映像、GPS、購入記録。

手掛かりは数多く残っていた。

しかし、誰も捕まえられない。


ヤツは七人殺した。

七人。

父親、母親、弟、恋人、先生、小説家、アイドル。

そしてヤツは唐突に死んだ。

自殺だった。


遺された手記には、心を知りたいとか、愛を知りたいとか、ふざけた理由が書かれていた。


なぁ、殺人鬼。

松本陽太くん。


お前は愛など、どこにも無いと言ったな。

娘はまだ21だが、お前と、お前なんかと、結婚したいって言っていたぞ。


結婚したら子供は2人。

自分も仕事を続けたい。

家事は手伝ってもらう。

両親と一緒に住みたい。


沢山俺に話してくれたぞ。

それは愛じゃなかったか。

本心がどうだろうと。

なにを思ってようと。

口にした気持ち。

一緒にいた時間。


それだけじゃ、愛とは呼べないか?

そんなもの確かめてどうするんだ?

なんてな。俺もお前と同じなんだ。

お前が死んで俺の復讐は終わった。

本当はもう、終わりにしたかった。

憎み続ける事に、疲れ果てていた。


俺はもう、どうだっていい。

家庭など、どうだっていい。


ふと、警察の友人が言っていた「KAKUYO」というサイトが気になって覗いて見た。

警察官が総力をかけて探したという隠された掲示板はいとも簡単に見つかった。


そこにあったのは妻の気持ちだ。

本当の気持ち。


妻は家事と育児に疲れきっていた。

友人と呼べる人も一人としてなく。

毎日毎日家事を黙々とこなしてた。

毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎。

それこそ気の遠くなる時間。

妻は私の帰りを待っていた。


妻からの愛情は少しも残っていなかった。

家庭をかえりみなかった、自分のせいだ。




……あ……


あの事がバレていた。


妻も「KAKUYO」のサイトを見て、俺の秘密を知っていた。


麻薬の密輸組織から多額の賄賂を貰い、彼らの犯罪を見逃したこと。

その金で女を買い漁ったこと。

気に入った女がいると、ヤク漬けにして、言う事を聞かせたこと。


自分でも最低だと思う。

でも、仕方がなかった。

警察官なんて毎日毎日毎日毎日毎日、命懸けで市民を守るんだ。

それくらいしないと割に合わないだろ。

だから、これくらい、なぁ?




あ、裕子、おかえり。どこに行って……

ああああああああああ!!

お前、なんで包丁なんて持って?

なんでだよ!お前が?俺を?

殺すのか?

殺せるのか?


あ、ウソ!ウソです。ごめんな!

ごめん、ごめん、ごめん、ごめ!

痛い、痛い、痛い、痛いいいい!

ウソウソウソウソウソウソウソ!

お前もあのサイト、見たんだな!


クソッ!

クソッタレ!

ふざけんな!

みんな同じだ!

悪い人間ばかりだ!


……ああ……

ああ、死にたくない。

死にたくないよぉ。


……ごめ……

……ごめんな……

……本当にごめん……


俺、もっと真面目に生きればよかった。


俺は真っ当な生き方をしてこなかったから、娘が死んでも素直に悲しめなかったんだ。

お前達を心から愛する事ができなかったんだ。


俺も誰かを愛したかったし、

愛してもらいたかったんだ……

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KAKUYO クレイジーメガネックス @crazy_meganex

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