KAKUYO

クレイジーメガネックス

第1話

私の人生は、もう終わりだ。

今までに七人の人間を殺してきた。

殺した理由は特に無い。

ただ殺したかったから殺したのだ。

ただ知りたかったから殺したのだ。

人間という物を。

人間の中身を。

人間の心を。

知りたかった。

分からなかった。

分かち合いたかった。

その為に人間を殺した。


七人。

父親、母親、弟、恋人、先生、小説家、アイドル。

それぞれみんな私の大切な人たちだった。

私は彼らをバラバラにした。

胸を裂き、心臓を取り出した。頭を割り、脳味噌を掻き出した。腹を破り、内臓を引きずり出した。

バラバラに、ぐちゃぐちゃにした。

そのどこにも心は無かった。


私はどこにでもいるようなごく普通の人間だ。

ごく普通の家族がいて、友達がいて、恋人がいて、当たり前のように悩みがあり、楽しみがあり、心があった。


きっかけはほんの些細なことだった。

私が興味を持ったのは「KAKUYO」というサイトだった。

このサイトには都市伝説のような噂があった。

このサイトのどこかに掲示板が隠されている。

そこには世界中の人間の感じてきたこと、思ったこと、その全てが記されているという。

そして私は見つけてしまったのだ。

決して繋がる事の無い心の奥の扉を

そこにあったのは本物だった。

私が父に抱いていた畏怖を。

私は父が恐ろしかったのだ。

父は警察官だった。人当たりがよく誰に対しても明るく真面目だった。家族に対しても良き父であったと思う。

父は完璧だった。

父には無いのだろうか、不安や、悩みや、嘘や、欺瞞は。

そこにはいつもまっすぐでいてくれた父に対して、私は何と愚かで、ねじまがった考えでいたかが書かれていた。

そして父に対する思いとは別に、そこには父の心の中も書かれていた。

父は完璧ではなかった。

父には愛人がいたのだ。

仕事で帰りが遅いとき。

父は愛人の所にいたのだ。


なにより許せなかったのは。

母と結婚したとき。

私が生まれたとき。

弟が生まれたとき。

家族になったとき。

父の心はここには無かったのだ。

父の心は私たち家族よりも愛人の所にあった。

私はそれを見て今まで感じたことの無い激しい感情に襲われた。


私はそのまま自分の部屋から出ると、両親の寝ている寝室に行った。

その後はただ感情の赴くまま父を殴った。殴って殴って蹴り飛ばした。

父が目を開ける前に目を潰した。父が口を開く前に喉を潰した。

私はもう何も見たくなかったし、何も聞きたくなかった。

枕もとにあった花瓶を父の脳天に振り下ろすと父は動かなくなった。

母は突然の事に何が起こったか分からずにただ呆然としていた。

父を信じ、愛していた母を見ると余りに不憫に思えた。

私は母の首を絞めた。


父と母が物を言わなくなった後、私の心はひどく落ち着いていた。

私は台所から包丁を持ってくると二人をバラバラにした。

そこから私の人間に対する研究が始まった。

翌日の朝、友達のうちから帰ってきた弟を金属バットで殴り殺した。

弟には全てを話した。

気の弱い私は弟にだけは唯一強気でいられたのだ。

だから私は泣きじゃくる弟に両親の死体を見せた。

しかし、弟は私のような気持ちにはならなかった。

弟は本当に両親の死を悲しみ、そして私を怨んだ。

弟はベッドに置いてあった包丁で私を襲ってきた。

私は用意してあった金属バットで弟の頭を割った。

弟が私に襲いかかって来る事は、想像できていた。

私は、例のサイトで弟の心の中を読んでいたのだ。

弟は私のいう事を聞き私の理解者だと思っていた。

弟は陰気で頭の悪い私のことを、馬鹿にしていた。

弟は父に似て、自分の正義を絶対だと思っている。

きっと私の心を理解してくれないだろうと思った。


それから自分の部屋にこもり例のサイトを見ているといろいろな事が分かった。

大半は知りたくなかった事だ。私は人間の愛を信じていたし、誰に対しても優しく平和でありたいと思っていた。しかしそのようなものはどこを見ても無かった。

大切に思っていた恋人の心の中にも無かったし、私が愛だと感じていた心の中にも無かった。

私は恋人を殺した。

私を導いてくれた先生ならきっと答えを知っているのではないかと思った。

私は先生を殺した。

私の尊敬する小説家ならきっと私の気持ちを分かってくれるのではないかと思った。

私は小説家を殺した。

百万人を魅了するアイドルならきっと私たち一般人に無い特別なものを持っているのではないかと思った。

私はアイドルを殺した。

七人殺した。

その誰の中にも心は無かった


世の中の人全てが恐ろしかった。

人のことを悪く思う人間。

自分勝手な人間。

嘘をつく人間。

人間は醜い。

沢山の人間の心のサンプルを見てきた。

私にはもう、例のサイトを見なくても大体の人間の心が読めるようになっていた。

世界中の人がどのように考え、どのように行動するかが読めるようになってきた。

私のことは誰にも捕まえられない。

私は人間を殺し、ばらばらにし、中身を出し、心を探す。

終わらない自分探し。

いつか見つかるだろうか。


しかしそれももう終わりが見えてきた。

私の人生は、もう終わりだ。

私は気付いてしまった。

私が心を読めるように。

私の心も読まれている。


私の心。

人のことを悪く思い、自分勝手で、嘘をつく、

醜い心。

知られたくない。

私は父親に畏怖を抱いていた。

私は母親に哀れみを抱いていた。

私は弟に劣等感を抱いていた。

私は恋人に猜疑心を抱いていた。

私はきれいな人間でいたかった。

私はもう死ななければならない。


死にたくない。死にたくない。死にたくない。

死にたくない。死にたくない。死にたくない。

死にたくない。死にたくない。死にたくない。

死にたくない。死にたくない。死にたくない。

死にたくない。死にたくない。死にたくない。

死にたくない。死にたくない。死にたくない。

死にたくない。死にたくない。死にたくない。

死にたくない。死にたくない。死にたくない。


………さようなら

私は死んだ。

心を読まれる事に耐えられずに死んだ。

「KAKUYO」というサイトは実在する。

あなたが今見ているサイトはなんだ?

私は殺された。

あなたに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る