第4話

『オレは自室に戻ると、ポピーを浴室に運んだ。

ミニチュアダックスフンドはまだ暴れていたが、

包んでいたバスタオルを取るとすこしおとなしくなった。

4本の足と、口はナイロン紐で結んだままだ。

顔を隠しているタオルも、まだ取っていない。

喰う時に見つめられるのは、やはり苦手だ。

オレは石鹸で泡立てると、犬の腹回りに塗りつけた。

ヒゲそり用のT字かみそりで犬の体毛をった。

ポピーは気持ちいいのか、おとなしくしている。


 オレは喰う順番を決めていた。犬が死なないように喰わねばならない。

生命線である肺と心臓は最後にして、

大動脈も避けるようにして喰うことにする。

オレは台所から包丁を持ってきた。ゆっくりと犬の腹にあてがう。

包丁の切っ先を1センチほど突き刺す。

ポピーははねるように、ビクンと身をのけぞらせた。

そのまま真一文字に腹を切り裂く。

ポピーはまた身をのけぞらせる。その反動で、切り裂いた腹部が開いた。

どっと内臓が吐き出される。オレはその様子を見て、

子供の頃夏祭りで買った。水風船を思い出した。

ヨーヨーのようにしこたま遊んで飽きが来ると、

オレはその元気の無くなった水風船を針で刺したものだ。

すると弾けるように飛まつを上げて、水が飛び出た。あの瞬間を連想させる。

そう、あの瞬間―――。


 胃袋、小腸、肝臓、大腸など、臓物が一気にぶちまけられる。

こんな小さな犬に、これだけ多くの内臓がおさまっていたとは信じられなった。

血液は思ったほど出なかった。以前なら、グロいと感じるはずだが、

飢えにさいなまれている、今のオレにとっては、赤や紫などの色彩に彩られた

内臓や、むせ返るような血の匂いはとても魅惑的なものとしか思えない。

オレは我慢できず両手で、それらの臓物を掴むと、文字通りむさぼり喰った。

うまい―――もうオレの食欲は止まらなかった。


ポピーは暴れることなく、自分の内臓を口いっぱいにほお張る、

オレを見つめていた。

ふと、オレの脳裏に、数年前有名投稿動画サイトで見た、

ハイエナが小鹿を生きたまま、

はらわたを食っている映像が浮かんだ。

そうだ、オレはハイエナだ。今、生きたままの小鹿を喰っているのだ。

 あらかた喰うと、最後に肺と心臓が残った。

心臓は早鐘のよううに脈打っている。

その動きに呼応するように、だが対称的に、肺は緩慢かんまんに伸縮を繰り返す。

 オレはここで初めてミニチュアダックスフンドに哀れみを感じた。

苦痛を与えてすまない。そう思うと早く楽にさせたほうがいいと考えた。

 オレは口をめいいっぱい開け、犬歯をむき出しにし、

肺と心臓にかぶりついた・・・・・・。


その日の夕方帰宅した隣のOLは大騒ぎしていた。

ベランダの扉のガラスが割られて、

ペットの犬が姿を消していたのだから無理も無い。

彼女は警察にも通報し、警察官が2人ほど来ていたようだ。

いずれ、鑑識などが来て現場検証するに違いない。

風呂場にあったポピーの死骸しがいは血の匂いなどが漏れないように、

ゴミ袋を3重にしてその中に入れ、きつく縛った。

風呂場の血はシャワーで念入りに洗い流した。

たしか、ルミノール反応は塩酸に弱いはずだ。

オレは、塩酸を含む洗浄剤を、バスルームの隅々までに流す。


それはともかく、子犬1匹ではせいぜい2日くらいしか空腹を抑えられない。

もっと大きな生き物を喰わねば・・・。

オレはカーテンを開けて、アパートの前の通りを見た。

その通りは決して広くは無かったが、幹線道路の裏道に当たっていて、

けっこう人通りも多い。

夜になれば、街灯がまばらに灯るだけだ。

あのミニチュアダックスフンドのように、

人間をさらえないか―――。オレはそう考え始めた。

人間ならその肉の量は、子犬の比ではない。

3日以上は空腹を抑えられるはずだ。

だが、大人をターゲットにするにはリスクが高すぎる。

小柄な女性か子供・・・。

それならなんとかなりそうな気がする。』

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