第3話

『オレはいろんな魚を喰った。フナ・コイ・ハヤなど・・・・・・。

味はどれも同じだ。生臭くて血の味しかしない。

でも、釣れているうちは良かった。

10日ほど通っていると、途端に釣れなくなった。

まさか喰い尽くした事はないだろう。

それより、魚のほうが警戒しているんじゃないだろうか?

毎日のように、仲間が姿を消していくことに

危険を察知したのかもしれない。

 それでもオレは3日間、しつこくため池に通った。

だがそれは徒労に終わった。

丸3日間何も喰ってないと、頭が朦朧もうろうとしてきた。

そろそろ次の手を考えなければならない。

他の生き物だ。生きてる奴、生きてる奴、生きてる奴・・・。

できたら魚よりでかい奴。魂はでかいほどいい。

ネコや犬だったらいいなと思った。

しかし、オレの住んでいる街では、動物の管理が行き届いていて、

野良猫や野良犬など、めったに見かけない。

それによしんばいたとしても、野良猫は素早くて捕まえることは不可能だろう。

野良犬だって、いざ喰おうとしたら当然暴れるだろう。

そしたらこっちも大怪我するかもしれない。

小型犬で捕まえやすい奴・・・・・

オレは血のめぐってない頭で必死に考えた。


 いた―――。

オレの住んでいるこのアパート。オレの2部屋隣に、

30代のOLとおぼしき女性が住んでいた。

たしか彼女はミニチュアダックスフンドを飼っているはずだ。

彼女が出勤する時、玄関口で寂しそうに鳴く犬の声を聞いたことがある。

ドッグフードとかあらかじめ置いていくのだろう。

 これはチャンスだ。ミニチュアダックスフンドだったら、

そんなに力もないし、何とか喰えるだろう。

オレは作戦を決行した。

 彼女はいつもの時刻―――朝7時半頃、玄関の扉を開ける音がする。

オレは自室の玄関越しに、耳をそば立てていた。これもいつものように、

悲しげなミニチュアダックスフンドの、たとえ一時でも

ご主人様との別れを悲しむ鳴き声が聞こえる。


「お留守番頼むわよ。ポピー」

彼女はいつものことだと慣れているのか、

その声に飼い犬のような悲嘆ひたんさは感じられなかった。

彼女は玄関の鍵をかけると、ハイヒールの靴音を鳴らしながら出て行った。

 しばらくの時間を置いて、オレは彼女の部屋のベランダに向かった。

柵は難なく越えられた。

ベランダに面しいている大きな窓はサッシだが、

オレの部屋のものと同じなので、どのへんにサムターンがあるのか、

どうすれば空くかはわかっていた。

アルミサッシの鍵側の部分にガムテープを貼る。

タオルで包んだ金槌を、そのねらった部分に

叩き付けた。2度目でガラスは割れた。すると異変に気づいたのか、

ポピーが駆け寄ってきた。

最初はご主人様と思ったのか、のどで鳴くような甘ったれた鳴き声を

出していたが、ガラス越しに見えるオレに気づくと、

猛犬のようにえ出した。

 オレは身を縮め、あたりの様子を見た。このアパートは3方向を、

安物のコンクリートブロックで囲まれている。

1階部分はほとんど外部から見えない。

それに他の住人が起きてくる気配も無い。今のうちだ。オレは仕事を急いだ。

 ガラスには細い鉄線が入っている。

これも用意したペンチで切断することにする。

空いたところから手を突っ込む。サムターンに手が届いた。一気に回す。

その瞬間だった。ポピーがオレの手を噛んだのだ。軍手越しだったが、

けっこう痛かった。

しかし、今のオレには飢餓のほうが何倍も切迫していた。

手の痛みぐらいなんとも無い。

 オレは一気に扉を開けると、部屋の隅でおびえながらも、

敵意むき出しでうなっている

ミニチュア・ダックスフンドを見つけた。

 不思議なことに、犬は逃げようとしない。

ただ不審な侵入者に向かって低くうなっているだけだ。

今がチャンスだと思い、背負っていたスポーツバッグから、

バスタオル数枚と数メートルのナイロンひもを取り出した。

 そのバスタオルごとミニチュアダックスフンドを取り押さえる。

吼えられるとまずいから、口にはバスタオル越しにナイロンの紐で

ぐるぐるまきにする。

でも、あまり手荒にすると途中で死んでしまうかもしれない。

殺してしまったら、何の意味も無い。

 オレは呼吸できるくらいに紐をゆるめてやった。

犬は4本の足をじたばたさせてもがいたが、

ミニチュアダックスフンドだけあって、短い足は特に障害にはならなかった。

ナイロンの紐で体を巻くと、まるで巨大な芋虫いもむしのようだ。

オレはミニチュアダックスフンドをスポーツバッグに入れると、

彼女の部屋を後にした。』

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