第2話

『オレは仕事を探した。

やっと深夜の配送会社の倉庫整理の仕事にいた。

だが、もらった安月給のほとんどは食費に消えた。

家賃や光熱費まで食費にまわした。

でも、食っても食っても空腹はおさまらない。もう食料を買う金も無い。

猛烈な空腹を抑えるために、水道の蛇口に口をつけ、がむしゃらに水を飲む。

腹がダブダブになるまで。

ああ・・・もうダメだ・・・この世の終わりだ・・・オレにっとては・・・。


ふと水槽の2匹の金魚を見た。オレはうまそうだと思った。

ためしに一匹を手ですくい上げた。そのまま―――生きたまま食った。

むのは抵抗があった。それで丸呑まるのみにした。

それでも口の中は生臭なまぐささでいっぱいになる。


だが―――変化があった。これまでにない変化が。


 あれほど何を食っても満たされなかった空腹感が、

ほんの少しだがやわらいだのだ。

魚だ。オレは思った。魚を食えばいいのか。オレは近所のスーパーに行って

サバの煮付けの缶詰を買って、さっそくアパートに帰って食ってみた。

 だが変化無し・・・だめだ。やはり空腹感は満たされない。

オレはまた水槽を見た。金魚はあと一匹いる。

その金魚は前に喰ったヤツより一回り大きい。その金魚を手ですくった。

手の中で暴れる金魚は、まさに生きている。

命が手を伝わって、そこに確かにあった。

 オレはその最後の金魚を口に放りこんだ。さすがにでかいだけあって、

一口では飲み込めない。仕方が無い。

オレは腹が減ってるんだ。飢えているといってもいい。

 オレは金魚を噛み砕いた。口の中で臓物と骨とが血に混じりあって

ものすごい生臭さを飛散させた。でも、飢えのほうが勝った。

オレは金魚を飲み込む。するとどうだ、

空腹感がやわらぐじゃないか・・・・・。


 オレはようやく理解した。飢餓をやわらげるには、

生きたものを生きたまま喰えばいいのだ。

そうすれば、飢えることはないのだ。

 だが、何を喰う?何を生きたまま喰う?

毎日金魚ばかり喰うわけにもいかない。

腹いっぱい喰うとしたら、何十匹喰えばいい?まず、

オレにそんなにたくさんの金魚を買う金も無い。

もっと効率良く、金もかからない方法はないか?

そうだ、釣りだ。魚を釣ってそのまま喰えばいい。

オレはさっそく釣具店に行った。

一番安い釣竿つりざおとエサのゴカイを買った。近くのため池に行く。

釣り針にゴカイを突き刺し、糸を垂らした。

ゴカイは生きたままだ。このミミズに似た生き物を見ていると、

無償に食欲が湧く。

オレはふと思った。こいつらも生きている。グロテスクな姿をしているが、

喰えないことはないだろう。

 オレは1匹手に取ると口に放りこんだ。

するとそいつはオレの舌に噛み付いてきた。

その痛みと食欲で、オレはゴカイを噛み砕いた。泥を喰うと、

きっとこんな味がするんじゃないかと

いうような味がした。口の中いっぱいに生臭さとジャリジャリという

食感が広がる。

 とりあえず喰ったものの、たった1匹では腹の足しにもならない。

それにこいつはエサだ。

本命は魚だ。喰ってしまえば魚を釣ることはできない。

しばらく待つと魚がかかった。釣り上げると、20センチほどのフナだった。

生きているうちに喰わねばならない。

釣り針からそのフナを引きちぎるようにもぎ取ると、

まだ暴れているフナをフィッシングナイフでうろこを削ぎ落とし、

背びれ、胸ひれ、尾びれを切り落とした。

そのまま頭から喰らいついた。頭蓋骨は相当の硬さだった。

でも飢えのほうが勝った。

オレは頭を噛み砕くと、内臓ごと肉にかぶりつく。

 5分ほどで喰ってしまった。確かに飢えが和らいだ。

オレはまたエサのゴカイを釣り針に付けると

糸をたらした。


その日は1日で、5匹釣れた。まずまずの釣果ちょうかだ。

もちろん、5匹ともすぐに喰った。

生きたままで・・・・・・。

あくる日も、そのあくる日もオレはため池に通った。確かに釣れた。

多いときなどは、大物を8匹も釣ったこともある。だんだん面倒臭くなって、

鱗も落とさずヒレもそのままで、オレはかぶりついた。

口の中を骨やヒレが刺して来て、口の中は、血だらけになったが

オレは噛み砕いた。しまいには、口の中の血が、オレのものなのか

それとも魚の血なのかわからなくなってきた。

まあ、そんなことはどうでもいい。

空腹さえ満たせればいいんだ。』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます