第7話 様々な運動体
ネットで調べてみると、自由参加できる抗議デモや街宣が、いたるところで予定されていた。
僕が住んでいる市内だけをみても、週末に10数件がヒットした。
団体もかなりの数あるようだった。
黒塗りの街宣車の前で、機動隊員のような制服を着て集合写真を載せているサイトは、
いわゆる街宣右翼と呼ばれているものなのだろうと分かる。
だけどヘビメタのような風貌をした全身入れ墨まみれの集団が、舌を出したり、中指をおっ立てながら平和を訴えている画像を発見した時には、ちょっと理解に苦しんだ。
他にも、アニメキャラのコスプレをしながら夫婦別姓を実現しようというものや、
グローバル資本主義に反対する爺さん婆さん達まで、
実に多種多様な市民運動があるようだった。
彼らはざまざまな呼ばれ方をする。
右翼、民族派、新右翼、左翼、リベラル派、極左、保守などが一般的だが、
それぞれがさらに細分化され系列化しており、そのカテゴリーごとのセクトごとの名称や異名もあるようだった。
この時期にはネットから発生するフラッシュ・モブといわれる抗議運動が盛んになっていた頃で、
特にネット右翼と呼ばれ始めていた定義しにくい種類の人達が、まるでイベントの告知でもするかのように、
気軽に抗議運動を企画していた。
思想や所属は問わず、ただその抗議運動の企画に賛同してさえいれば、誰でも参加できるカジュアルな運動だった。
彼らの中には撮影担当者が必ずいて、抗議模様を生中継したり、動画サイトにアップし、
すさまじい勢いでアクセス数を稼いでいた。
抗議スタイルは地味に思えた。
日の丸を掲げシュプレヒコールを叫びながら練り歩く。
どのデモ隊でもやっている事だった。
中にはトラメガを手に、過激な発言をする者もいたものの、だからと言ってその過激な内容を実行に移す覚悟は感じられない。
主催者も参加者も、普段は地味な存在としか思えないような、ちょっとダサい人達で占められている。
それになぜか弱弱しい人達ばかりが目につく。
日の丸を掲げていなければ、オタクの地位向上を叫ぶ運動に見えなくもない。
彼らをさらに調べていくうち、僕は何とも言えない警戒心というか、懸念と言おうか、
上手く説明できないが何か嫌なものを感じ取っていた。
空気のようなものと例えればよいのだろうか、彼らがアップしている動画からはどれも宗教色がにじみ出ていた。
動画から感じる雰囲気を僕の直感がそう解釈しているだけだったので、このときには上手く言葉に表せなかった。
参加者たちの属性や階層を分類すれば、みな同じカテゴリーに属しているのではないかと思える。
本当にネットから参加してきた不特定多数の一般参加者なのだろうか。
この疑問は、話が先に進むにつれ自然に理解できるようになってくるので、
後に任せようと思う。
ただ、彼らの運動スタイルでは自分の怒りや不満を解消するだけの激しい活動にはなり得ないだろうと判断し、この時は一旦選択しから除外していた。
次を探した。
情報収集を進めていくと、暴力的なのはやはり街宣右翼だった。
過激な思想と目的を持つのは極左と言われる人達だ。
この二つに絞り、自分が参加できそうな団体を探し始めた。
しかしそれは甘かった。
ネットから一般参加者を募るような運動とは違い、この2つは参加してくる相手を選んだ。
右翼団体の多くは、入会条件として面接と論文提出を定めていた。
たぶん論文よりも面接に重きを置いているように思えた。
自分たちの主義主張に共感して入会を希望しているのかを見るのだろうし、
続くかどうか、裏切るしそうなやつがどうか、そういう見極めもしたいのだろう。
それが僕には敷居を高く感じさせた。
中には協賛会員といって、毎月の会費を支払い、新聞を購読するだけの会員制度を設けている団体もあったけど、僕は激しい活動がしたかった。
なので右翼団体への入会は諦めることにした。
上下関係も厳しそうな感じだったので、人間関係が下手な僕にはどうせ無理だったに違いない。
次に、極左と言われる過激な団体を調べてみた。
これがややこしい。
左翼、新左翼、極左の違いも知らない僕にとって、
革マル派だの、中革派、ブントだの、何のことかさっぱりわからない。
Wikipediaを読んでみても違いがわからなかった。
検索では大学の自治会が多くヒットした。
そういえば僕が通っていた大学にもなんとか同盟を名乗る学生たちがビラを配ったりしていたことを思いだした。
団体のホームページは見つけられるものの、入会希望のアイコンがない。
学生運動が主流なのだろうか。
それともどこの誰とも分からない人間の参加は望んでいない、排他性的な運動体なのだろうか。
極左といわれる人達には、警察にマークされているという事情もあって、やたらスパイに警戒する習性があるようで、警戒心が高いという記事や書き込みをいくつも目にした。
どこの馬の骨とも分からないような人物をネットで誘い入れるという安易な方法で、人を集めているようではなかった。
まさに僕のような人間だ。
思想もなにもなく、ただ暴れてみたいから参加したいという人間。
責任者、主催者にとってはもっとも遠慮願いたいタイプなのだろう。
ツテもコネも何もない赤の他人の僕が、ネットから参加する術はないようだった。
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