第8話 参加意思

SNSや掲示板を閲覧してみると、政治的な話題が多いことに驚いた。

投票率は低かったはずだ。

それまで自分の周囲で政治的な活動をしている人間の話も聞いたことがなかった。

せいぜいが政治討論番組を見ての感想や、政治家のスキャンダルに対する不満を口にするシーンを見かけるだけで、

政策や政治思想に関する具体的な議論を聞いたことがなかった。

だけどネットの世界では、政治談議があふれ返っている。

驚きだった。

この人達はリアル世界では何か政治的な活動をしているのだろうか。

ただ不満を口にしているだけではないのか。

それなら僕と変わらないレベルだ。


この頃、K-POPが流行っていた。

TSUTAYAやGEOには韓流ドラマの専門コーナーができていた。

少し前には拉致問題が大きなニュースにあっていたし、そのあとに竹島問題が外交問題にまで発展したこと災いしてか、

北朝鮮や韓国に対する不満の声が多かった。

わからないでもない。

文句の一つも言ってやりたくもなるだろう。

ただ、それに付随するかのように、日本で暮らす在日朝鮮人韓国人にも不満をぶつける書き込みが多いことに驚いた。

911の後に流行りだしたフリーメーソンや、世界で裏で牛耳るという300人委員会などの、

陰謀系の書籍や評論家に人気が出ていたこともあって、

在日が日本を裏で牛耳っているだとか、韓流コンテンツは日本を洗脳するためのツールであるといったような、

トンデモ論も、面白おかしく論じられていた。


中には、大学などでよほど専門的に勉強していなければ知り得ないであろうと思われる朝鮮の歴史を持ち出し、

その史実をもとに功名に作られてはいるが、デマとしか思えないような書き込みも多く見受けられた。

この手のデマは、一見すると真実であるように錯覚させられる。

しかしよく読み直してみると途中から論理が破たんしていたり、または飛躍していたりする。

結論ありきの論理に、都合のいい真実を見つけてきて、それを当てはめて無理やり文章を繋ぐとそうなる。

読んでいて不快だし、文章としも見苦しい。


だけどその手の文章は受けていた。

後には称賛する書き込みが続いていた。

感化される者も多かった。

在日朝鮮人韓国人たちの横暴な真実を知ったので、これからは彼らを敵視するという類のコメントだ。


実に馬鹿馬鹿しいものだった。

自分の日常生活で知り得なかった真実とやらを、ネットの書き込みで知ったので、

それを日常生活に持ち込もうというのだ。

単純な連中だと思った。


ただこれらのやりとりはネットの至る所で横行していて、排外運動とまではいかないまでも、

抗議運動に直結する大きな流れにはなっていた。

それに、この手の抗議運動は自由参加できるものが主であり、都心や地方都市で毎週末企画されていたほどだった。


主義主張や目的には関心のない僕は、一度参加してみようと思った。

過激な経験はできないだろうけど、抗議運動に参加したことのない僕にとっては、

手ごろなものに思えたからだ。

参加自由というもいい。

特定の団体に所属しなくても済む。

しばらく一人一党で様々な主義主張を持つ運動に参加してみるのもいい。

週末に行われる抗議デモに参加することにした。

そのデモは在日朝鮮人韓国人に対する優遇策を廃止しろという趣旨のものだった。

その優遇策がどういったものなのかは知らないし、興味もなかった。

在日の人達に対しても、特に意見もない。

ただ抗議運動を経験してみようという好奇心があるだけだった。


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