第6話 破壊の衝動

自分の中に芽生え始めた危険なもの、それを発散する術を始めていた。

活用といってもいい。

不満と怒りは僕にとってのエネルギーの源になるはずだった。

それを誰かに、何かにぶつけてやりたい。

方法は何だっていい。

理不尽なやり方でであろう、不正なことであっても、違法行為でさえないのなら常識や道徳的に反するものでもかまわない。

手段は何だっていい。

ただ発狂したかった。

暴力的な行為を望み始めていた。

それなら格闘技を習い始めてリングに上がるという方法もある。

空手や柔道もいいかもしれない。

ただそれらの方法は時間がかかりそうに思えた。

試合に出られるようになるまでに半年、一年、もしかしたら2年。

とてもそんなに待てない。

今日明日にでも始めたかった。

参加するだけで戦う相手と活動の場を同時に得られるような、

僕でも簡単に始められ、それでいて過激に、行動的で、熱狂できるもの。

他にも条件はいくらでも沸いてきた。

その中で特に滑稽に思えたものがあった。

安全だ。

破壊的な衝動を満足させられるような過激で暴力的な行動を求めながら、自分の身の安全は確保したいという、姑息な考えだ。

リスクを冒さずにそんな事が出来るはずがない。

自分が非現実的な妄想に犯されてしまったサイコパスにでもなったようだった。

正常な判断力を失ってしまっていたのかもしれない。

少し冷静に考え直した。

横になり目をつむった。


ふと、以前目撃したことのあるデモ隊を思い出した。

集団で大声を張り上げながら行進していた人たちだ。

見かけた時には不思議な光景に思えた。

平日の昼間にデモへ参加している数百人の人たちの職業はなんなのだろうと疑問視した。

それに、デモや街頭演説といったものが、世の中に影響を与えるとも思えず、

趣味か暇つぶしの類だろうと決めつけていた。


大学に通っていた頃にも、駅前で、街宣車といわれる車の上から、

マイク片手にがなり立てている人たちを見かけたことがしばしばあった。

演説は、幾人かの市会議員を糾弾するもののようだったけれど、地響きしているのではないかと思えるほど喚き散らしていた。

内容は覚えていない。

ただ必死になって訴えていたのは覚えている。

名指しで抗議をされる側にしてみれば、たまったものではないだろうという印象だった。

内容よりもプレッシャーを与え、相手に嫌がられるようにする、抗議とはそういうものなのかも知れない。


政治的なことにはまるで無頓着な僕は、成人してからも選挙にさえ行ったこともない人間だった。

市民運動や選挙活動といったものには無縁な過ごし方をしてきている。

右翼と左翼の思想の違いも知らなかった。

市民運動といわれるものに参加している人たちの動機や目的も理解できない。

だけどそんな事はどうだってよかった。

僕の内面でドロドロとした、それでいてピリピリしてくるこの感覚を紛らわせるための、

いい捌け口になるかも知れない。

それに何より、これまでに見かけた抗議運動には必ず警察の警備がついている。

望んでいた安全の確保は警察がやってくれる。

「過激派」と言われるものを耳にしたこともあるくらいだから、僕の希望に沿う暴力的な活動もきっとあるはずだ。

しかし、その場合警察にはどう対処するのだろうか。

合法的な活動と非合法な活動があるのかも知れない。

興味がどんどん膨らんできた。

同時に僕も妄想も膨らんだ。

幕末の志士や革命家といったものが連想されてきて、何だかちょっとかっこいいかも知れないと思い始めている。


僕でも参加できる団体があるだろうか。

参加する事を前提にもっと具体的に調べてみようと思い、ノートパソコンを立ち上げた。


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