貪欲に描写される少女の肢体は、作中の芸術家のみならず、読む者をも爛れた熱で巻く。
官能の悦び、女に触れる感動…無論これは、芸術家からは、遠く隔てられた麻薬である。芸術家は美を求め、美は対象の観察のなかにしかないから。芸術家は客観のなかに閉じこもる。
しかしこの作品では、芸術家は檻を破り、尚且つ、美を捨て去ることも、己の官能にのみ酔うこともしない。官能の果ての美を発見してみせる。つまりこの作品は、芸術を足蹴にしながら反芸術小説へは踏み外さず、むしろ芸術の秘奥へと潜り込もうとする試みである。
芸術家小説は数あれど、このような作品は、稀である。