第5話 EP誕生
「具体的に言うと私はips細胞を活用して人間のすべてのパーツを創り出し
有機アンドロイドを創ろうと決心したのだ。」
有機アンドロイド??、諸星氏は簡単にいうが、僕には具体的にそのイメージがわかなかった。
「まあ、唐突に有機アンドロイドといわれても、どういったものなのか想像しにくいだろう、できるだけ分かりやすく説明するから、もう少し年寄りの長話にお付き合いいただけるかな?」というと諸星博士は肩をすくめ、こちらに了承を求めてきた、僕はいまさら話を尻切れにされるのはたまったものではなかったので、一も二もなく頷いた。
「結構、では続きといくか、当時私は軽障害者を支援してくれる理想のパートナーを創り出そうと決意し、そのために動き出したところだった、そして最初に目をつけたのが当時科学界に無限の可能性を漂わせていた『ips細胞』だった、幸運なことに『ips細胞』の発見者である京都大学の某教授とその関係者は『ips細胞』を様々な分野で活用し役立ててほしいという考えから個人で『ips細胞』の特許を取らず、さらに一部の企業や国や団体に『ips細胞』が独占されるのを防いでくれていた、彼らの頑張りがあったからこそ、私はEPの開発を始めることができたんだ、と、話が少し横道にそれたな、すまん、元に戻そう、私が『ips細胞』に目をつけたところからだったな、そのすぐ後にこれも運良く当時私の通っていた大学が
『ips細胞』の研究を行っていたことを知ってな、なんとかその研究の担当教授の研究室に所属できた私はそれから一心不乱に『ips細胞』の活用研究に没頭した、博士課程の頃には『ips細胞』の発見者である某教授の研究チームにも加わり共同研究もし、『ips細胞』技術の発展に私の持てるすべての力をささげた、そしてそのかいあって二年前ついにたった一パーツを除いて人体を構成する99%のパーツを創り出すことに成功した、つまり、有機アンドロイドとはその名の通り『ips細胞』を使い創り出した『本物の人間と同じ有機物でできた肉体を持つアンドロイド』のことだ。
が、『ips細胞』を用いてもたった一つだけどうしても創り出せないパーツがあった、灰谷君、そのパーツとはなんだと思うね?」
諸星博士からのいきなりの問いに少し驚きながらも僕は考える、人間の体のパーツは一つずつ分解して考えればそう複雑なつくりや機能のものは数えるほどしかない、加えてその中でも『ips細胞』で創り出せないほど複雑なつくりと機能を有したものとなると……、僕は数分考え一つの答えを述べた。
「脳ですか?」
「正解だ」
諸星博士がゆっくり頷きながら答えた。
「そのとおり、脳だけはどれだけ実験を繰り返しても完璧に創り出すことができなかった、悔しいが脳の構造は途方もなく複雑で、その機能はあまりに多岐にわたる、現代の科学技術でも『ips細胞』で人間の脳を完全に複製することはできなかった。」
諸星博士は悔しさを滲ませながらそう言ったので、僕も少し悲しい気分で博士に問い返した。
「では、結局博士が目指した軽障害者の夢のパートナー足りうる有機アンドロイドは完成しなかったんですね」とすると博士は頭を振ってから「いや、完成した」といったので僕はたまらず聞き返した。
「ちょ、待ってくださいよ、博士、今自分で『ips細胞』で人間の脳を複製することはできなかったって言いましたよね、だったら有機アンドロイドの肝心要の脳はどうしたんですか??」
「うむ、確かに『ips細胞』で人間の脳を複製できなかったのはかなりの痛手でだった、私も失意に打ちひしがれたよ、しかし、私にはそこで諦めるという選択は思い浮かばなかった、だから必死で探した『ips細胞』に頼らず人間の脳を創り出す手段を、そして、見つけたのだ、それはくしくも当時『ips細胞』と双璧をなす無限の可能性を秘めているとうたわれていた研究分野だった。」
博士のその言葉で鈍い僕にも博士が何の技術に目をつけたかわかった、当時『ips細胞』と双璧をなす無限の可能性を秘めているとうたわれていた研究分野で、人間の脳の代わりになるものを創り出せる可能性があるもの、博士と僕の声が重なった。
「つまり、人工知能(だ。)(ですね。)」
博士がモニターの向こうでにやりと笑った。
「そうとも、人工知能つまりAIだ、『ips細胞』での人間の脳の複製はかなわなかったが、当時凄まじい速度で進歩していたAI技術がその穴を見事に保管してくれた。
私は独学と考えうるあらゆる伝手をたより、ついに人間とのあらゆるコミニケションに対応するこどができる思考のトップダウン型AIを完成させた。
そしてそのAIを有機アンドロイドの脳として使用し、試作機として三体の有機アンドロイドを完成させた。
そのうちの一体が今君の目の前にいるEP №3だ。」
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