第4話 EP計画概要 その2[
「でだ、私がips細胞の活用研究に没頭していった理由なんだが、これも非常に個人的なことでな、先ほど話の中で『この障害のせいでこの社会の中で生きずらかった』と言っただろう、その頃からすでに私は何十年とスタンスの変わらない現行の軽障害者支援に疑問を持っていた。つまり、「重度障害障害者は手厚く支援するのに、軽障害者はほぼ無支援」というやり方に対してだ。まあ健常者からしてみれば『障害が重い方を手厚く支援するのはあたりまえだろう?』と考えるのが一般的かもしれないが、私と同じ軽障害者の君なら、これから話す私の考えに完全に共感はできずともある程度理解はできるだろう。それでは話を始めよう、まず私がこの考えを持つ最初のきっかけになったのは、財政の逼迫から障害者への支援金を少しでも減らしたいと考えた我が国のお偉方が『障害者自立』を高らかにうたい始め、それまでも決して十分とは言えなかった我々、軽障害者への支援を実質ほぼ無支援にしようと動き始めたころだった、私は我が国のお偉方の一連の動きを見て思ったのだ、『支援金自体は軽障害者一人を支援するよりも重度障害一人を支援するほうが費用がかかる、しかし、重度障害者は歩くことも、話すことも、意思疎通すらできないという人も珍しくない、だからこそ、彼、彼女らの存在は国が丁重に保護しなければならない、もしそれを怠れば全国の障害者団体から何をされるかわかったものではない!、しかし、軽障害者ならば職の斡旋さえすれば働けるのだから、現金系の支給などなくてもよい』ということかと!!。私は初めてこの考えに至ったとき、抑えようのない憤りと深い悲しみに打ちひしがれた……なあ、灰谷君いったい何人の軽障害者が健常者がだれもやりたがらないようなきつい労働を強いられ、
しこたま罵られた挙句、心を病んでいったんだろうな……。」
そこまで話した後、その問いを僕に投げかけてきた、この時、僕はこれまでの諸星氏の話の内容に見事に釣られていた、そう、そのとおりなのだ、今国が軽障害者に対してしてくれることなど『障害者自立』を笠に着た職の斡旋のみだ!しかも、
斡旋する職の質、就職してからの支援などはほとんど考えていない、最近この国の首相が「新たな雇用を大幅に増やした」と自慢げに演説していたが、ではその増えた雇用の質はどうなのだ?、例え雇用が大幅に増えようと増えた雇用が労働基準法やコンプライアンスを逸脱、あるいは本当にぎりぎり守れているだけの劣悪な雇用、苛烈きわまる労働であった場合、そんなものは本心では誰も欲していない、が、資本主義では基本自らの労働力を使って賃金を得ないと生きていけない、
結果、健常者の誰もが忌避する劣悪な雇用、苛烈きわまる労働に従事させられるのはほとんど軽障害者である、しかし、当然ながら我々とて望んで劣悪な環境で苛烈な労働をしたいわけではない。劣悪な環境で苛烈な労働をするしか選択肢がないから、涙を呑んでそれに甘んじているだけである、何でもいいから雇用の数を増やせばいいというものではない、大切なのはより良い条件の雇用を増やし、苛烈一辺倒の『労働』から心と体に余裕をもって働ける『仕事』にシフトしていくことではないのか?、僕が思考の海に没入しそこまで考えたところで、僕は諸星氏の声で再び現実に引き戻された。
「だから私は決めたんだ、この過酷な社会の中で生きにくさを抱えながら懸命に生きている軽障害者のために、彼らを支え、ともに悩み、ともに歩んでくれる理想のパートナーを創ろうと、それが私がips細胞の活用研究に没頭していった理由だ。」
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