学園長再来
私は、紅葉さんにキスをした。
でも、紅葉さんはすぐに倒れてしまった。
私は訳も分からず困惑することしかできなかったが、神崎さんはそれを予想していたかのように、サッとしゃんで正座をし、紅葉さんの頭が落ちてくるところに
私は、神崎さんの素早い動きに驚きを隠せないでいた。
「雪柳様、お嬢様を運ぶのを手伝ってもらえますか?」
しかしそんな私を気にすることなく、神崎さんは助けを求めてくる。
「は、はい!」
私は紅葉さんを眠らせてしまった・・・・・・、いや、倒してしまった張本人なので断る事なんてできるはずがなく、すぐに返事をして駆け寄る。
「私はお嬢様を運ぶので、雪柳様はお嬢様に声をかけ続けてください」
「はい?」
私は予想外の言葉に聞き直す。
「ですから、お嬢様に声をかけ続けてください」
てっきり私も紅葉さんの足などをもって一緒に運ぶものだと思っていた。
しかし私のやることは、神崎さんの腕でお姫様抱っこされている紅葉さんに声をかけるだけ。
だから神崎さんだけに任せるわけにはいかない! と思い、
「いえ、わ、私が運びます!」
そう言って神崎さんの目の前まで接近する。
すると、神崎さんは急に近づいてきた私にびっくりし、右足を一歩引いた。
だが、それに合わせて私も左足を一歩前へ出す。
今度は左足を引いた。だから私は右足を出す。
そんなことを繰り返していると、
トンッ
と神崎さんの背中の方から軽い音がなる。
そう、私はついに神崎さんを壁の方に追いやったのだ。そして背の高い神崎さんに目線を合わせるため、一生懸命背伸びをしながら言う。
「私が紅葉さんを倒してしまったので私が運びます!」
神崎さんはそんな私の真剣そうな顔に負けたのか、
「はぁ、分かりました。でも、助けが必要になったら言ってくださいね」
お願いを
「あ、ありがとうございます!」
私はそう言って、神崎さんの腕の中で幸せそうな顔をしながら眠っている紅葉さんを受け取った。
「・・・・・・っ!」
私は驚いた。
だって紅葉さんがすごく重かったから。
「大丈夫ですか~?雪柳様~」
なぜか神崎さんは挑発するように、得意気に言ってくる。
「だ、大丈夫です・・・・・・」
私は自分が運ぶと、言ったのだから最後までやらなければいけないと思い、余裕を装うために笑顔で言う。
そんな私を見て神崎さんは後ろを向いて、
「では、先に行ってますね~」
と言って、歩いていってしまった。
「あ、まって・・・・・・!」
無意識のうちに私の口から神崎さんを止めようとする言葉が出てくる。
「え~、なんですって~?」
神崎さんは、まだ挑発するような言い方をしてくる。
「い、いえなんでもありません!」
私は大きな声でそう言って、長い長い廊下を歩こうとする。
しかし一歩前進しただけで私の腕は悲鳴を上げた。
もう限界!
「あ、あの! 神崎さん、助けてください!」
私はついに神崎さんに助けを求める言葉を告げた。
「ふっ、その言葉を待っていましたよ・・・・・・」
神崎さんはゆっくり私に近づいてくる。そして私のぷるぷるとふるえている腕から紅葉さんを受け取って、ひょいと持ち上げる。
私は一安心する。このまま歩いていたら、紅葉さん自身と、紅葉さんと神崎さんの信頼を落としてしまっていた気がしたから。
「はぁ・・・・・・はぁ、あ、あの・・・・・・紅葉さんって体重どのくらいあるんですか・・・・・・?」
私は息を切らしながら聞いてみる。
「おやおや、女性の体重を聞くのは失礼ですよ?」
「べ、べつに女同士だから・・・・・・はぁ、い、良いじゃないですか・・・・・・」
「そうですねぇ、たぶんお嬢様の体重は、雪柳様と同じぐらいだとおもいますよ」
「え? だって、す、すごく重かったじゃないですか・・・・・・? 同じなわけ――――」
「雪柳様、一つ良いことを教えてあげましょう。人っていうのは、意識がなかったり眠っていたりすると、すごく重く感じるのですよ」
「な、なんでですか?」
「理由は、抱っこされるとき起きていたら、人はそこから落ちないようにしがみつくため抱っこしている側の負担がすこし減るのです。しかし、寝ていると負担がすべて抱っこしている人へくるので重く感じるのです」
「な、なるほど・・・・・・。じゃ、じゃあ最初に教えてくれてもよかったじゃないですか!?」
「いえ、雪柳様のお嬢様のためにがんばっている姿を見てみたかったので」
「むぅ、か、神崎さんって本当は良い人なのに、時々いじわるをするんですね・・・・・・」
「ええ、だっておもしろいですからね」
神崎さんはいたずらが大好きなようだ。
「さて、早く朝食を食べに行きますよ?」
そういって、何事も無かったかのように歩き出す。
「あ、まってください!」
私は、おいていかれそうな雰囲気を感じ、小走りで神崎さんについていく。
「そうそう。最初に言ったとうり、ちゃんとお嬢様に声をかけ続けてくださいね?」
「はい・・・・・・」
私は、なぜ寝ている人に声をかけなければいけないのか分からなかった。
しかし、できることはこれぐらいしかないため、
紅葉さ~ん、起きて~、朝ですよ~
など、いろいろな声をかけ続けた。
しばらく歩いていると、神崎さんはいい匂いのする部屋の前に止まった。
私は察する。ここが朝食を食べる部屋なんだと。
「雪柳様、もうつきましたので声をかけなくてもいいですよ?」
「あ。は、はい」
私は結局ここまでずっと声をかけ続けていた。しかし紅葉さんが起きる気配は全くと言っていいほど無い。
「雪柳様、今までご苦労さまでした」
「え? わ、私全然紅葉さんを起こすことができなかったですし、なにも・・・・・・」
「いえ、この
「か、過程・・・・・・?」
「はい、過程ですーーーー」
神崎さんはそう言いながら、障子を開ける。
するとそこには、湯気が立っているおいしそうな料理が沢山並んでいた。もちろんすべて和食だ。
私的には白いご飯の横にある、お味噌汁が一番おいしそうに思える。
白味噌でとかれた熱いお湯の中に、
しかし、私はもっとすばらしいものに目がいく。
「むうぅぅぅぅぅぅぅ~」
謎のうめき声のような声を上げながら、前のめりに料理をのぞき込んでいる可愛い紅亜ちゃんに・・・・・・。
「あ、あの紅亜ちゃんは何を・・・・・・?」
小声で神崎さんに聞いてみる。
「あぁ、紅葉お嬢様は、早く朝食をたべたくてああやって料理をのぞき込んでいるだけです。 いつもの事ですので気にしなくて大丈夫です」
「いつも・・・・・・?」
「はい。 この家はご主人様、紅葉お嬢様、紅亜お嬢様の家族が全員そろってから食べ始めるというルールがありますので、起きるのが早い紅亜お嬢様はいつもこうやって唸って、食べたいという感情を一生懸命抑えて待っているのです。 あれです、えさを待っている犬だと思ってくだされば大丈夫です」
「あぁ~、やっぱり紅亜ちゃんは可愛いですね!」
「はい、実に可愛らしいです。どうしてこの家はこんなにも可愛いお嬢様が2人もいるのでしょうね。 毎日毎日辛いです。 可愛いという感情が胸に溜まりすぎて」
紅亜ちゃんが可愛いという話をしたあと、私は神崎さんに案内されて紅亜ちゃんの横に座った。
すると、紅亜ちゃんは私に気付いて
「あ、ゆきなやぎだぁ~!」
といって、喜んで私の胸に飛び込んできた。
紅亜ちゃんの飛び込む衝撃が思ったより強かったため少し痛かったが、まだ力加減が分からない年だし可愛いから気にしず紅亜ちゃんの頭を撫でてあげた。
しかし、そこに神崎さんがやってきて、私の紅亜ちゃんなでなでタイムは終わりを告げる。
「紅亜お嬢様、いつものようにお願いします」
「え~、またぁ?」
紅亜ちゃんは嫌そうな顔をして神崎さんに文句を言う。
いつものようにってなんだろう。そんな疑問が胸に残ったが私が聞こうとした矢先、紅亜ちゃんは紅葉さんの横まで、とてとてと可愛く小走りで向かった。
そして、しゃがみ込んで紅葉さんの耳元で
「おねえちゃんおきてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
と大きな声で叫ぶ。
私は、紅亜ちゃんってこんなに大きな声が出せるんだ・・・・・・、と驚きながらも紅葉さんの様子を見てみる。
しかし紅葉さんは
「ん~・・・・・・?」
と言うだけで目は開かない。
私はなぜか、そんな紅葉さんが気になって、紅葉さんを挟んで紅亜ちゃんの前にしゃがみ込む。
すると今度は
「おねえちゃん! おねえちゃん!」
と紅葉さんを揺すりながら起こす。
しかし紅葉さんは起きる気配がない。
「おねえちゃん、おなかすいたからおきてよぉ・・・・・・」
紅亜ちゃんはすこし落ち込んだような声で紅葉さんの耳元でささやいた。
すると、紅葉さんは目をカッと見開いて
「はっ・・・・・・!?ごめんね紅亜ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
紅葉さんも紅葉さんで、大きな声を出しながら起きあがった。
しかし、ゴツッ、と鈍い音がなった。
「あうっ!」
同時に、私のおでこのあたりに大きな痛みが走った。
さらに目の前にいる紅葉さんもおでこをおさえ、
「うぅ~・・・・・・」
と涙目になりながらうずくまっている。
そう、私たちはおでことおでこをぶつけてしまったのだ。
どっちが悪いかはわからない。紅葉さんの顔をのぞいていた自分が悪いのか。
それとも急に勢いよく起きあがった紅葉さんがわるいのか。
神崎さんはすぐに
「お二人とも大丈夫ですか!?」
と駆け寄ってきてくれたのだが、紅亜ちゃんはうずくまっている私たちを見て
「ふたりとも、だんごむしみたーい!」
と手をぱちぱちとたたきながら笑っていた。
どうやらダンゴ虫みたいな私たちがおもしろかったようです。
まったく、笑い事じゃないんですけどね。でも、紅亜ちゃんは可愛いから許します!
私たちは徐々に痛みが引いてきておでこを押さえなくてもいい状態になってきた。
そして前を見る。
「あ・・・・・・」
そこでちょうど紅葉さんと目が合う。
私は謝るべく、ちょっとだけ後ろに下がって
「ご、ごめんなさい!」
と土下座をしながら深々と謝った。
だが、紅葉さんは
「え?何が?」
と返してくる。
どうやら状況が分かっていないようだ。
「神崎、何があった・・・・・・の?あれ、神崎は?」
なぜか神崎さんはこの部屋にいなかった。
いつのまにこの部屋からいなくなったのだろう。私たちは全然気付いていなかった。
が、
「かんじゃきはね、さっきいそいでへやからとびだしていったよ?」
紅亜ちゃんは神崎さんが出て行ったところを目撃していたようだ。
「まったくどこに行っ――――」
「お嬢様ぁぁぁぁぁぁぁぁ! 雪柳様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
紅葉さんの言葉を遮るように、大きな声を出しながら神崎さんが部屋に入ってくる。
私、紅葉さん、紅亜ちゃんの3人は、びくっ! っと同時になった。
そして神崎さんは紅葉さんのもとへ急いで駆け寄っていく。その手にはノートパソコンほどの大きさの救急箱が握られていた。
そして勢いよく救急箱のふたを開け、中から
しかし絆創膏では意味がないだろう。だって血が出ているわけではなく、赤くなっているだけなのだから。
これは神崎さんなりの応急処置なのだろう。あと、慌てていたから正しい判断ができていないのだろう。
私はその2人の様子をぼーっと見続けていた。
すると、紅亜ちゃんが救急箱に近づき、絆創膏を取り出し始める。
紅亜ちゃんもどこかを怪我していたのだろうか?
そんな疑問が私の脳裏を横切った。
でも紅亜ちゃんは私の下に駆け寄ってきて、
「ゆきなやぎには、くれあがはってあげる~!」
そう言ってくれた。きっと神崎さんのまねをしたかったのだろう。
私は嬉しかった。紅亜ちゃんに手当をしてもらえるなんて夢にも思っていなかったから。
あと少し心配でもあった。だって、絆創膏についている紙をはがすときにすごく手こずっていたし、絆創膏のテープ部分が何度もくっついてしまい、新しいものに何度も変えていたから。
でも最終的には成功し、
「はいどーそ!」
と貼ってくれた。私は痛みが引いていくのを感じる。
絆創膏のおかげで治った? いいや違うんです。紅亜ちゃんのハンドパワーで治ったのです。
髪の毛がちょっとだけ絆創膏と一緒におでこにくっついてしまっていたが、私は気にしない。
だって紅亜ちゃんが貼ってくれたんだよ? 1回はがしてまた貼り直すわけにはいかないでしょう?
すると神崎さんが私の所にやってきて、
「さて、気を取り直して朝食にしましょう」
と私を最初に座っていた座椅子の下にまた座らせてくれる。
だが、私は疑問を残したままだった。
なぜ、紅亜ちゃんが紅葉さんを起こすのかという事。いや、姉妹だから当たり前。 でも、私が聞きたいのはそこじゃない。今回は私がキスをしたため紅葉さんが倒れ、眠ってしまった。しかし神崎さんは紅亜ちゃんに
「いつものように」
といった。私がいつも眠らせてしまっている訳ではないに、なぜいつものようにといったのか。私は気になったため聞いてみることにした。
「あ、あのすみませ――――」
「で、これどういう状況なの?」
『あ・・・・・・』
私の言葉と紅葉さんの言葉が重なる。どうやら紅葉さんはこの状況について知りたいようだ。
「あ、お先にどうぞ、です」
「いえ、雪柳さんが先でいいわよ?」
「いえ、私はあとでも。紅葉さんの質問ならすぐに答えられそうですし・・・・・・」
「そうなの? じゃあ状況を教えてくれる?」
「あ、はい」
私の質問は後回しにし、まずは紅葉さんの質問に答えることにする。
だから私は説明をする。
「えっと、わ、私がそ、その・・・・・・」
「どうしたの?」
どうしよう、紅葉さんの顔を見つめていたっていうの、なんかすごい恥ずかしい・・・・・・。あと、紅葉さんは私がほっぺにキスをしたことを覚えていないのだろうか?
そんなこんなで私はもじもじとし、説明ができる状態ではなかった。
すると神崎さんは私の前に立ち、
「お嬢様、雪柳様では言いにくいこともあるかと思いますので私が説明します」
といってくれた。やっぱり神崎さんは優しい人なんだなと安心する。
「えっとですねぇ、まずお嬢様に雪柳様がキスしたのは覚えていますか?」
「・・・・・・っ」
紅葉さんはそれを聞いて顔を赤らめる。どうやら覚えていたようだ。
「そんなに顔を赤くして、どうやら覚えているようですねぇ~。それでですねお嬢様は倒れたわけですよ。そしたら雪柳様がお嬢様を運びたいといったんですよぉ。あのときの雪柳様といったら、ふふふっ、一生懸命すぎて・・・・・・くくっ」
「もぉ!そんなにからかわないでください!」
私は恥ずかしくなってきて、神崎さんにむかって叫ぶ。
「これは失礼しました。あのときの雪柳様が可愛すぎて可愛すぎて・・・・・・。すいません、本題に戻りましょう。結局、雪柳様の力ではお嬢様を運ぶことができず、私がここまで運んだのです。そして紅亜お嬢様に、いつも通り起こしてほしいと頼み起こしてもらおうとしたわけです。しかし、なぜか雪柳様もお嬢様の下まで行って、顔をのぞきはじめたのです。そのときの距離感はたしか30センチほどでしたねぇ~」
「え!?そ、そんなに近かったですか!?」
「えぇ、近かったですよぉ? ねえ紅亜お嬢様?」
「ん~? ふたりともちかかったよ! キスできるぐらいいだった~」
「き、きす・・・・・・」
キスという言葉を聞いて、紅葉さんと私の顔は真っ赤になる。
「ね? そしてお嬢様が起きあがった勢いがとても強く、雪柳様のおでことお嬢様のおでこがぶつかったわけです。どうですか、理解できましたか?」
「ま、まあ理解できたわ。あ、ありがとう・・・・・・」
紅葉さんは下をむいて小声でお礼を言った。
「あれれ~? お嬢様、なんでそんなに顔を真っ赤にしているのですか~?」
神崎さんは紅葉さんに挑発をする。なんで根はいい人なのにこんなにもいじわるをするのだろうか?
「なんでもないわよ!」
「ほんとですかぁ~?」
「ほんとよ! はいっ次、雪柳さんの質問!」
「え? あ、は、はいっ!」
「ちょっと~、話を逸らさないでくださいよ~」
「はい、神崎のことは無視!雪柳さんはやく言って!」
紅葉さんは何をそんなに恥ずかしがっているのだろう?ちょっと私も気になってきた。
しかし、ここでこれ以上問いつめたら紅葉さんはさらに顔を真っ赤にして、どうかしてしてしまうのではないかと思ったため、やめて自分の質問を言うことにする。
「わ、私の質問はたいしたことはないのですが、い、いいですか?」
「大丈夫!神崎の話を終わらせてくれるならどんな質問でも答えてあげるわ!」
「わ、わかりました!言いますね」
「どうぞ!」
「えっと、こ、今回は私がキスをしたから紅葉さんが倒れてしまった訳じゃないですか」
「そうですねぇ~、雪柳様の
神崎さんはまたも、挑発してくるように言ってきた。
「あの、えっとご、ごめんなさい・・・・・・です」
「いや、別に謝らなくても大丈夫ですよ?」
紅葉さんは神崎さんと違って普通に許してくれた。
「あ、ありがとうございます。で、ですね、さっき神崎さんが紅亜ちゃんに『いつものようにお願いします』って言ったじゃないですか? いつもって、毎朝紅葉さんは倒れたりしてるんですか?」
「ぶふっ・・・・・・!」
神崎さんはなぜか吹き出すように笑った。もしかして私、なにかおかしいこといったのかな?
「えっとですねぇ、ふふっ、お嬢様は――――」
「ちょ、ちょっと神崎、言わないでよぉ!」
「え~何ですかぁ~?」
「そ、そんなの恥ずかしいからに決まってるじゃない!」
恥ずかしい・・・・・・?紅葉さんが恥ずかしくなるようなことって何だろう?
「えっと、無理にってわけじゃないので、こ、答えなくて良いですよ?」
「うっ・・・・・・」
「ほらほらぁ、雪柳様がしりたそうですよぉ~?大好きな人の質問に答えなくていいのですか~?」
「わ、わかってるわよ!ちゃんと言うわよ!」
「じゃあ私が言いますねぇ~。えっとぉ、おじょ・・・・・・んぐぅ!」
「私が言うから大丈夫よ!?」
そういって、紅葉さんは神崎さんの口をふさぐ。
だがその行動は、紅亜ちゃんという可愛い生き物の所為で意味をなくす。
「おねえちゃんはいっつも、い~っつも、にどねをするからくれあがおこしてあげてるんだよ~?」
「ちょっと、紅亜ぁぁぁぁ!!」
二度寝・・・・・・?
「ああ、もう言うわよ! そう、私はいつも二度寝をするから紅亜に起こされるの! わかった? 雪柳さん!?」
「は、はい。わかりました・・・・・・です」
照れ隠しのつもりなのかな。紅葉さんはいつもより大きな声で、叫ぶように私に教えてくれた。
「はい、解決ね! もう質問は無い!?」
「な、ないです」
「あぁ、二度寝してることが人に・・・・・・、ましてや雪柳さんにバレるなんて。恥ずかしい・・・・・・」
そういって紅葉さんは、床に手をついて、ぺったんと沈んでしまった。
そうとうショックだったのだろう。そんなに気にしなくてもいいのに。だって私も・・・・・・、
「わ、私もほぼ毎日2度寝してるので気にしなくても良いと思います!」
「え・・・・・・? 雪柳さんも二度寝するの?」
「は、はい・・・・・・、私、朝弱くて・・・・・・」
どうしよう、恥ずかしい・・・・・・。
私は今、紅葉さんの気持ちをよく理解した。二度寝をしてることが人に知られるのがこんなにも恥ずかしいなんて知らなかった。
「雪柳さんも二度寝をするんだ、よかった・・・・・・」
「ゆきなやぎもにどねするんだ~。これからはくれあがおこしてあげるね!」
「雪柳様も二度寝をするんですね。残念です・・・・・・」
ん? なんか神崎さんだけおかしくない? なにが残念なんでしょうねぇ。
にしてもいつでも紅亜ちゃんは可愛いなぁ。これからは起こしてあげる、だってさ。家が違うから起こせるわけがないのにね。
これが天然幼女ってやつかな?
これで私と紅葉さん、それぞれの問題が解決した。するとここで、
「ねぇかんじゃき~、おとーさんまだこないの~? くれあおなかすいたぁ!」
「たしかにご主人様、今日はおそいですね。何をなされているのでしょう?」
「じゃあ私が呼びに行ってくるわ」
紅葉さんはぴんと手を挙げて立候補した。
あ~、学校のクラスに真面目そうに手を挙げるこういう子、いたなぁ~。
まあ、友達がいなかった私はただ見てただけなんだけどね。
「じゃあ、お願いしますねお嬢様」
「うん。ちょっと待っててね雪柳さん?」
「は、はい」
そう言ってゆっくり立ち上がり、障子を開けて出て行った。
私たちは紅葉さんと、三日月学園の学園長こと、三日月
「ねえお父さん本当にその格好で行くの?」
「ああ、この格好で行く」
「なんで? ただ朝食を食べるだけじゃん!」
そんな紅葉さんと学園長の会話が聞こえてきた。だが声が遠い。きっと歩きながら話しているのだろう。
「いや、だってな・・・・・・」
声がだんだん近づいてきて、ついにこの部屋の前で止まった。
学園長はいったいどんな服装なんだろうか。逆にいつもはどんな服装なんだろうか。いやでも、いつもは今、私も着ている浴衣だろう。
あれほど紅葉さんがあわただしくなる服装だ。きっと変な服装をしているのだろう。なんで服を変えているのかは分からないけど・・・・・・。
そして障子が開いた。紅葉さんと学園長の姿がはっきり見えるようになる。
紅葉さんの服装は変わらず浴衣。学園長の服装はなんと、スーツだった。
「きょ、今日はどうされたんですかご主人様?」
「おと~さん、なんかくろいふく!」
やはり、学園長は三日月家のなかでもなかなか見ない服装なようだ。
紅亜ちゃんは黒い服と言った。そう、紅亜ちゃんはそのままの事を言ってくれたのだ。
だって学園長は、真っ黒なスーツを着ていたのだから。
だれもがわからない。なぜ、こんな格好なのか。私は考えてみた。今日は何か特別な日なのだろうか。それとも、学園長よりも位が高い偉い方が来る、もしくは来ているのだろうか。
そんなことを考えていた。
しかし私が考え事をしてるとはしらない学園長は、私の目の前、といっても2メートルほど離れているんだけど、そこで立ち止まり腰を下ろし正座をする。そして
「ようこそいらっしゃいました、雪柳めぐみ様」
学園長は私に向かって土下座までしながら言った――――。
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