計画的な犯行
脱衣所を出て、庭が一望できる長い長い廊下を歩き、2つ目の角を右に曲がり、
「
とかかれたプレートが掛かっているドアがみえてくる。そのドアを通り越し、次にあるドアの前に行く。そこには
「
とかかれたプレートが掛かっているドアがある。
っていっても、この家は和風だから私の部屋と紅亜の部屋は障子で遮られているだけで、つながっているんだけどね。
なぜ私たちの部屋の入り口は障子ではなくドアなのかというと、この家は使用人も何人か住んでおり部屋がたくさんあるので、間違えて入らないよう分かりやすくするために設置したのである。
ちなみに、使用人の部屋も、お父さんとお母さんの部屋もそれぞれドアにしてあって、どのドアにもそれぞれの名前のプレートが掛かっている。
つまり、プライベートルームは分かりやすくしてあるだけである。
部屋の前に立った私は、横にいる胸が大きい二人に声をかける。
「部屋、ついたよ・・・・・・?」
「そうですね、雪柳様は何がお好きですか?」
「わ、私は、ふつうに甘すぎない物が、す、好きです」
「では、そのようなものをご用意させていただきますね」
「い、いえ、迷惑ですし・・・・・・」
「迷惑だなんて、遠慮しないで大丈夫ですよ」
「あ、ありがとうございます。で、でも今日はもう夜遅いので」
「それもそうですね。では、明日用意させていただきます」
しかし、私の事なんて無視して会話をする二人。
二人は、脱衣所を出てからずっとお菓子について話をしている。
私も会話に入ろうと声をかけたが、私が声を出した瞬間に雪柳さんが、クラクションの音に反応した猫のように、びくっと驚いたため会話にはいるのをやめた。
そこで、私は察っする。
雪柳さんに嫌われたな・・・・・・、と。
「あ、雪柳様、お部屋につきましたよ」
「そ、そうですか。あ、ありがとうございます」
雪柳さんは可愛らしく、ぺこっ、っとお辞儀をしながら言う。
「いえ、とんでもないです。雪柳様は律儀ですね」
使用人は雪柳さんの頭を撫でながらいう。
そして撫でられた雪柳さんは、
「・・・・・・ひゃぅ!?ありがとうございます!」
と、ラズベリーのように顔を赤らめながら嬉しそうな顔をする。
どうやら彼女は使用人の事を気に入ったようだ。
その証拠に、
「あ、あの!その・・・・・・」
「どうなさいました、雪柳様?」
「お、お名前を、お聞きしていいでちゅか!?・・・・・・あっ」
「ふふっ、そんなに緊張しなくてもいいですよ」
「す、すいません・・・・・・」
「大丈夫です。今のは私にとってご褒美なので」
「ご、ご褒美・・・・・・?それってなんですか?」
「な、なんというピュアガール・・・・・・」
「ご、ごめんなさい、もっと勉強してきます」
「いえ、しなくて大丈夫です。いつまでもこのままでいてください」
「えっと、は、はい?」
「ありがとうございます、約束ですよ?」
「ま、守れるようにがんばります。で、そのお名前を・・・・・・」
「あぁ、私は
「か、神崎さんですか。ありがとうございます」
と、私の横でこんな会話をしていた。
使用人、こと神崎は人に名前を教えることはめったになく、この家でも名前を知っている人は数少ないのだが、雪柳さんにはすんなりと教えてしまった。
そう、神崎は無類の可愛い子好きの19歳なのである。だから、すぐに教えたのだろう。
私は、そんな二人の会話を聞きながらドアを開け部屋に入った。
部屋は和風。縦横6メートルほどの正方形で、床は畳、壁は障子と欄間で、今入ってきたドアがある部分、もう一面は縁側があり、そこには大きな窓がついている。もちろんカーテンなど無く、障子がカーテンの代わりに設置されている。内装は、本棚、勉強机、テレビ、冷蔵庫、ピンクのカーペットの上にあるこたつ、座椅子があるぐらいだ。
このとき雪柳さんは目を見開いて部屋中を見回したが、なぜか私と目が合った瞬間に下を向いてしまった。
私は悲しかったが、自分が招いた結果なのでなんとか堪えて、
「こ、ここに座っていてください」
と言って、座布団をおく。もちろん神崎の分も。
しかしそんな私の声が聞こえなかったかのように、
「雪柳様、こちらにお座りください」
といって、予備の座椅子を持ってきて雪柳さんと神崎はこたつに入る。
私は本当に泣きそうになった。
ここまで私を無視するほど怒ってしまったのかと。神崎も私を無視する理由は無いはずなのに。
だがここで泣いたらバカにされると思い、私はそれを隠すため
「お茶を入れてきます・・・・・・」
そう言って、流れ出る水のように静かに部屋から出ていった。
私は台所に着いた。
そして、お茶を
私は
たしかに雪柳さんの胸とお腹を沢山さわった。でも、それしかしていないはず。あ、でもタオルで腕を動かせないように結んだから痛かったのかな。でもそんなにきつく結んだわけじゃない。あと、なぜ神崎まで私を無視するのか。雪柳さんに嫌われるのはしかたない。でも、神崎には何もしていない。本当にわからない。
もしかしたら、可愛い可愛い雪柳さんにあんな事をした私が許せないのだろうか。もしそうだとしても――――っ!
急に私の手に激しい痛みが走った。私はあまりの痛さに、急須が倒れないように添えていた手をみる。手はさくらんぼのように赤くなっており、少し腫れている。
そう、私は考え事をしすぎてお湯が急須から溢れていることに気付かず、火傷をしてしまったのだ。
私はすぐに蛇口をひねり冷たい水を出し、冷やした。心も手も痛くて今度こそ涙がこぼれそうになった。
しかしちょうどそこに、神崎ではない使用人が通りかかった。その使用人は私にのもとへ来て、
「お嬢様、どうなさいました?」
と聞いてきた。私は一生懸命、涙を堪えながら火傷をしたことを伝える。するとその使用人は、顔を真っ青にして
「救急箱を取りに行ってきます!」
といって走り出していった。私はその間もずっと手を冷やしていた。
使用人は、ドタドタと走りながら戻ってきて、私に手当をするために救急箱から薬と絆創膏、包帯を取り出す。その使用人は手当が上手で、的確に薬を塗って、包帯も綺麗に巻いてくれた。さらに、お茶を入れ直してくれる。私は、
「ありあとう!」
と一言だけお礼を言う。
使用人は、二コッと優しい笑顔を見せ救急箱をもって去っていく。
心が弱っているときに優しくされた私は涙が滲み、目尻に少し溜まる。でも、すぐに袖で拭き取り、お盆にお茶の入った急須と、なんのデザインも無いごく普通の湯飲み茶碗を三つ乗せ、こぼさないようにゆっくりと部屋に向かった。
部屋の前に立つと中から二人の会話が聞こえてきた。しかし、声が小さくて何を話しているのかはよく分からない。私は一度お盆を床に置き、旅館の
入って私が、
「お茶持ってきたよ?」
と言ったときに雪柳さんと神崎は、私の方こそ見なかったが、すこしあたふたしてまたすぐに談笑を始める。
私は、
まだ、私を許してくれていないんだろうな
と思いながら二人がいる、こたつまでゆっくり歩きしゃがんでお茶を湯飲み茶碗に入れようとした。
ちょうどそのとき、雪柳さんと神崎は同時に声をあげた。
「も、紅葉さん!その手・・・・・・!」
「お、おおおお嬢様、な、なななぜ包帯をっ?!」
私は急に声を出した二人に驚きながらも、台所でおこった出来事をはなす。
「――――たいしたことじゃないよ?ただ、考え事をしててお湯が手にかかっただけで。手当してもらったから大丈夫」
「大丈夫じゃないでしょ?!」
「そうです!もしお嬢様に何かあったら!」
『・・・・・・あ』
珍しく雪柳さんが声を荒げた。私はそれに驚く。しかし、なぜか二人とも同時に、あ、と一言発して顔を見合わせ下を向く。
私は訳が分からなく、
「どうしたの?」
ってきいてみる。
しかし、二人はまた私の言葉に反応しずに会話を始めだす。
これが私の心と涙腺を砕くきっかけとなったのだろう。私の目からついに大粒の涙がこぼれた。
「な、なんでそんなに私のこと無視するの!?」
私は、二人に問う。二人は私の言葉で、会話をやめ顔を合わせた。そして、私の目をじっと見つめてくる。
二人とも何か言いたそうだった。でも、話してはくれない。
「うっうっ・・・・・・ごめんなさいっ・・・・・・!私が悪かったからっ、ひっく・・・・・・もう許してください・・・・・・お願いだから・・・・・・っ」
私は涙で顔をくしゃくしゃにしながら深々と謝った。もう、どんな顔を見られても、どんな恥ずかしい姿を見られても何も思わない。
それよりも、悲しく辛いという感情の方が強かったから・・・・・・。
やはりというかなんとういか、雪柳さんは、小さな手を大きく広げ始めた。これはきっと、今までのお返しとして私にビンタをするんだなと解釈する。私は下をむいて目を閉じ、歯を食いしばった。
心を決めた数秒後、ついに私の頬に雪柳さんの手と思われる柔らかい感触がきた。
しかしその手は勢いが全く無く、痛くもかゆくもなかった。
不思議な感覚だった。まるで、綿毛を頬に優しく添えられたような感覚。
私は目を開け、手を添えてきた主を見る。しかし、涙でぼやけて顔をしっかり見ることができない。でも、雪柳さんだという事は認識できる。そして彼女は私の頬を撫でながら言う。
「紅葉さん、別に私は怒ってないですよ?」
「ぐずっ・・・・・・ふぇ?」
私はびっくりし、変な声がでる。
だって、今まで小声で、たどたどしいしゃべり方だった雪柳さんが優しく、普通のしゃべり方をしたのだから。
「だから、もう泣かないでください」
雪柳さんは、私の頬や目に沢山溜まっている涙を指で拭いながら言う。
涙を拭われた私は、もうぼやけることが無く、周りを鮮明に見ることができるようになる。
そして私は、目の前にあるもので安心する。
それは雪柳さんの優しく、安心する最高の笑顔だ。そこで私は、懐かしい感覚に陥った。昔、お母さんに甘えた時にみた笑顔そっくりだったから。
だからだろうか、気付いたときには私の顔は雪柳さんの膝の上に埋まっていた。子供が泣いたときにお母さんの下で泣く時のように・・・・・・。
そんなことをされた雪柳さんは、
「え!?」
っと、戸惑ったような感じだったが、すぐに私の頭を撫で、
「大丈夫ですよ~」
と、まるでお母さんのように優しくしてくれる。私は、嬉しくて嬉しくてそこでもっと泣いた。
神崎は、ずっと二人を優しく見守っている。
私は5分ほどずっと泣いて、落ち着いた。雪柳さんの撫で撫でもあったから落ち着くのが速かったのだろう。そして、顔をあげて聞く。
「な、なんで私のことをその・・・・・・無視してたんですか?」
「えっと、神崎さんに言われたからです」
「え?」
「ゆ、雪柳さん!それ内緒ですよ!」
「えぇ!?そうだったんですか!?ごめんなさい!」
衝撃の事実に驚いている私をよこに、二人は言い合いをする。
「えっと、じゃ、じゃあ神崎の命令で雪柳さんは私を無視してたって事?」
「無視っていうか、話しかけられても応えちゃダメって・・・・・・」
「それを、無視って言うんです!」
「はっ……!?す、すいません」
どうやら雪柳さんは、自分のしていたことがどういうことか気付いていなかったらしい。
でも、それで雪柳さんに悪意は無かったことが分かった。
そして私は確認する。
「じゃあ、嫌いになったわけじゃ無いっていうことですか?」
「え?嫌い?何をですか?」
「わ、私をです・・・・・・」
「私が紅葉さんを?」
「・・・・・・はい」
「何を言ってるんですか?私が紅葉さんを嫌いになるわけないじゃないですか」
雪柳さんはなんの乱れもない純粋な心で、あたりまえです、みたいな感じで言う。
その言葉に私は安心する。
「わ!?紅葉さん、なんでまた泣いてるんですか!?」
「え?」
私は雪柳さんに言われ、目のあたりをさわる。
どうやら安心しすぎて無意識のうちに涙が出てしまったようだ。
「ありがとう・・・・・ありがとうございますっ・・・・・・!」
私は、雪柳さんの広い心に感謝し、なんどもお礼を言う。
「え?あ、はい?」
雪柳さんは、なぜお礼を言われているのか分からない様子だった。
「あ、あの、神崎さん?」
神崎は、急に雪柳さんに話しかけられて、びくっ、っとなる。
「も、紅葉さんから謝罪の言葉をいただいたんですが・・・・・・、私はどうすれば?」
ん?
なぜか、雪柳さんはいつものしゃべり方に戻った。
「え、雪柳さん、どういうことですか?」
「えっと、神崎さんに・・・・・・」
「わぁぁあああ!雪柳さんストップですぅ!」
「は、はい!」
神崎は慌てた様子で大声をだす。
だが、私は神崎がなにか関係しているなと思い、威圧をかけることにした。
「神崎、本当のことを言って?」
「・・・・・・っ!」
神崎は私に話しかけられ、ゆっくり私の方を見る。そして、なぜかゆっくり近づいてくる。
「お嬢様!私を説教しようとしている姿、可愛すぎです!!」
そう言って、急に抱きついてくる。
だが、私はそれに動じず冷静に神崎の弱いところ、脇の下をくすぐって引き離す。
「そんな事しても無駄よ。はやく白状しなさい」
「うぅ・・・・・・、お嬢様が可愛いのは本当ですけど、嫌われたくないので白状します」
「・・・・・・っ」
「ほめられて顔を赤くするお嬢様も可愛いですよ~」
「なっ・・・・・・!うるさい!」
「あ~、可愛いですね~いいですね~。最高です!」
「は、はやく言いなさい!!」
「はいは~い」
神崎は適当な返事をし、悪気もなさそうに軽く説明を始める。
「えっとですねぇ、まず二人がいちゃいちゃしているところを見て実は私興奮したんです。可愛い女の子がエッチな事してる!って。だから本当は私が、声をかける10分前ぐらいからずっと見てたんですよ~」
『・・・・・・え?』
衝撃の事実に私と雪柳さんは同時にどん引きする。
そんな二人なんて気にしず、神崎は説明を続ける。
「でも、ご主人様に早くお風呂から二人を出してと言われていたのは事実だったので声をかけたんです。
で、湯気でよく見えてなかった雪柳様の顔をしっかり認識したとき、この子にいろんな事したいと思ったわけです。まず体を触ってみたいと思い、浴衣の着付けをしてあげようとしたんです。しかしそこでお嬢様が、私がやる、って言い出したものですからびっくりしましたよ。でも、なんとか理由をこじつけて私が着付けをすることに成功したときは嬉しかったです。で、着付けをするとき雪柳様のお体を、沢山堪能させていただきました。ごちそうさまです」
「え・・・・・・えぇぇぇ!?」
雪柳さんはやはり、そんな意図があったなんて知らなかったようだ。
そして、自分の体を守るようなポーズをとる。しかしそれが裏目にでる結果となる。
「雪柳様、可愛らしい白い下着が太股の間からのぞいていますよ?」
「え!?あ、んっ!」
神崎の言葉に雪柳さんは顔を真っ赤にして、浴衣をおさえて下着がみえないようにする。
「まあまあ、女同士なんですからそんなに恥ずかしがらなくても。
では、続きを話しますね。で、着付けが終わったとき私は雪柳様にこう言ったのです。
『お嬢様をこのまま甘やかしてしまうと再度同じ事を繰り返す可能性があるので、反省させるため、しばらくの間お嬢様の言葉に反応しないようにがんばってください。私もそうしますので』
とね。でもそのとき雪柳様は
『そ、そんなのダメです!』
って言いましたよね?あれ、最高に萌えましたよ。
でも、私が一生懸命お願いをして最終的には承諾してくれたんですよね。そして、お嬢様がお茶を入れに部屋を出ていったときに、
『雪柳様、もしお嬢様が謝り許しをお願いしてきたら、どうか許してあげてください。そして、お嬢様が安心するような言葉をかけてあげてください』
と雪柳様にお願いしたのです。そしたら、お嬢様が急に入ってきてびっくりしましたよ。あと、手を怪我してるって知ったときも心臓が止まるかと思いました。そのときの雪柳様の反応といったら・・・・・・、可愛すぎて忘れられません」
「あ・・・・・・あぁ」
雪柳さんは神崎の言葉に完全にどん引きし、腰を抜かしていた。
そんな雪柳さんの姿を見て神崎は、
「ふっ・・・・・・」
と、笑う。その表情は、やり遂げたという顔に見え、また悲しそうな顔にも見えた。
「お嬢様、こういうことです。しばらくの間、変な態度をとってしまい申し訳ありませんでした」
「そう、教えてくれてありがとね。正直に言ってくれたから今回は見逃してあげるわ」
「お嬢様のその広い心に感謝します。さて、お嬢様も泣きやみ落ち着いたので、私はそろそろ自分の部屋にもどりますね」
「わかったわ。お休み、神崎」
「はい、おやすみなさいお嬢様。雪柳様もおやすみなさい」
「ひっ!?お、おやすみなさい・・・・・・」
そう言って神崎は部屋を出ていった。その、背中はどこか寂しそうだった。
長年一緒にいる私だからこそわかる。だから私は
「あの、ちょっとまっててね?」
と雪柳さんに一声かけて、雪柳さんの反応も聞かずに部屋をでて神崎を追いかける。
神崎は運動はあまり得意じゃない。だから、すぐに追いつけるだろうと思っていた。しかし、神崎はなかなか見つからない。やっぱり人を探すのに広い家は不便だ。かくれんぼをする分にはいいんだろうけど。
しかも夜ということもあり、黒いスーツを着ている神崎は探しにくい。だから私は家中を走り回った。
でも見つからない。
すこし休憩しようと私は、縁側にすわった。お風呂に入ったときに見えていた月は、雲に隠れてもう見えなくなっていた。だから、さっきに比べ周りは暗い。
だが、庭には灯りが少しあるため真っ暗というわけではない。そこで私はキラッとひかる何かを見つけた。気になって近づく。
手が届く位置まで来て手を伸ばしてみる。すると、プニッという感触の物に手が当たった。何だろうと思い目を凝らしてよく見てみる。
でもよく見えないため、また手で探る。
すると今度はサラッとした髪の毛のような物に手が当たる。
その下のあたりをさわってみるとプルッとした何かにふれた。その瞬間、
「お嬢様、胸、髪、唇の順にさわるとは・・・・・・、いったいどんなプレイですか?」
急に神崎の声が聞こえてきた。
「神崎!?どこにいるの?」
「ここです」
その声が聞こえたとたん、目の前にまぶしい光と、スマホを持った神崎が現れた。
「やっぱりこのスマホ、ライトが明るすぎますね」
「きゃぁぁぁ!!」
急に現れた神崎に私はびっくりする。
「お嬢様、うるさいです。もう夜遅いのですよ?」
「あ、ご、ごめんなさい」
「で、お嬢様どうされたのです?」
「あぁ、あなたに言いたいことがあって――――あ、そのストラップ・・・・・・」
私は神崎の持っているスマホについているストラップを見て思わず声が漏れる。
「ああ、これお嬢様からもらったものですよね?綺麗なのでずっと大切にしています。なによりもお嬢様が初めてくれた、大切な物なので」
「神崎・・・・・・覚えてくれてたのね」
「当たり前じゃないですか。可愛く愛らしいお嬢様からもらったものです。忘れるはずがありません」
「あ、ありがと・・・・・・」
「はい!」
「で、でもそれが暗闇にいた神崎を見つける元になるなんて思ってもみなかっったわ。プレゼントしてよかった・・・・・・」
「あ、このストラップで私を見つけたのですか?」
「そうよ。それについているキラキラのやつが光を反射して、ここに導いてくれたの」
「そうなんですか、このストラップだけポケットから出ていたんですね・・・・・・」
「そ・れ・よ・り・も!」
「だから、夜遅いですから大きな声はお控えください」
「あ、忘れてたわ。うん、分かった」
「わかってくだされば大丈夫です。で、なんですか?」
「そうそう。神崎、さっきわざと雪柳さんに嫌われるようなしゃべり方したでしょ?」
「・・・・・・なぜそういえるのです?」
「長年一緒にいるんだから、それくらいのことは分かるわよ」
「そ、そんなことないですよ~?」
「嘘ばっかり・・・・・・あなた嘘つくと、すこしだけ声のトーンが上がる癖があるのよ」
「え?そうなんですか?」
「そうよ、だから私に嘘をついたって無駄よ」
神崎の癖はよく分かっている。だから、私をだまそうとしても無駄なのだ。
「はぁ~。わかりました、正直に言いましょう」
「うん。どんな理由であろうと私はあなたを嫌ったりしないわ」
「ふふっ、お嬢様は優しいですね」
「ええ、いいから早く言って」
「はい、それでは――――」
神崎は雪柳さんに嫌われようとした理由を包み隠さず私に話してくれた。
要約すると、私が雪柳さんの胸を揉んでそのまま二人を何もしずに放置していたら、私は雪柳さんに嫌われ、久しぶりに人に興味を持った私が、成長しないままひとりぼっちでいると思ったから、神崎は自分に対する雪柳さんの評価をあげてから最後に一気に落とすという方法を使い、私と雪柳さんを仲良くさせようというものだったらしい。
私は泣きそうになった。神崎は自分を犠牲に、私を気遣ってくれている優しすぎる人だということに感激をうけたから。
「な、なんでそんなことしたのっ?あ、あなただって、雪柳さんが可愛くて大好きなんでしょ・・・・・・?」
「はい、大好きですよ」
「じゃあなんで!?」
「それよりも、どんな人よりもお嬢様が大好きだからです!だから、お嬢様には幸せになってほしい、もっともっと楽しい人生を送ってほしい、そう思っているからです!」
「神崎、あなたって人は・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁん!」
「お嬢様、そんなに泣かないでください。私は平気ですから、ね?」
「で、でもぉ・・・・・・!」
「私はもうすぐ二十歳になるのです、そ、そんな簡単には泣きませんからっ!」
私は結局泣いてしまった。神崎だって辛いはずなのに、私のために私のために・・・・・・。
ちょうどその時、雲に隠れていた月が顔を出し周りを明るくする。神崎は灯りを後ろに座っていたため影の都合上、顔がしっかり見えていなかったが月の明かりで顔が露わになる。
なんだ、やっぱり神崎も悲しいんじゃん・・・・・・
神崎の綺麗で美しい瞳からは、音もなくただ一直線に涙がこぼれていた。
だがその顔は美しかった。自分の判断で私を守り、私を幸せにできるという自信に満ちあふれた顔だったから。
神崎、あなたは美しい人。だから、私にそんなに構わなくてもいいんだよ?
そんなことを思いながら、二人で泣いた。
しばらくの間、二人で月を見上げながら心を落ち着かせるため抱き合った。
「さぁお嬢様、そろそろ雪柳さんが退屈していることでしょう。お部屋にお戻りください」
「じゃあ、神崎も一緒に私の部屋に来て・・・・・・」
「・・・・・・残念ながらそれはできません。今行くと雪柳様が怖がると思うので」
「私が説得する・・・・・・」
「無理でしょう。あれだけ怯えていたのだから・・・・・・」
「大丈夫、私が――――」
「お嬢様!」
神崎は私の言葉を遮り、大きな声を出す。
「私も、いま雪柳様にあったらどんな風に接したら良いか分からないので今日はもう・・・・・・」
「・・・・・・わかったわ。じゃあそろそろ戻りましょ。神崎、お休み・・・・・・」
「はい、おやすみなさい。
そういって私たちはそれぞれの部屋に戻った。
部屋に戻ると、雪柳さんは乱れた浴衣をなおしている最中だった。そして、私を見つけるなりこういう。
「あ、あの、浴衣を直そうとしたらよけいに乱れちゃって・・・・・・。な、なおしていただけませんか?」
「えぇ、いいですよ」
私は雪柳さんの乱れた浴衣を直すべく近づく。
「じゃあ後ろを向いてください。あと腕を広げてくださるとありがたいです」
「は、はい!」
私はゆっくり浴衣に手をつける。しかし雪柳さんは
「あ、あの!さっきみたいなことは、し、しませんよね・・・・・・?」
風呂であったことを警戒しているようだ。
だから私は
「何もしませんよ、大丈夫です」
神崎のように優しく、安心させるような声で言う。
この言い方は雪柳さんに利いたようで、
「あ、ありがとうございます」
と言って、大人しく腕を広げてくれた。
「ところで、雪柳さん?」
「はい・・・・・・」
「あの、その・・・・・・、うぅ~・・・・・・わ、私が泣いてたときっ・・・・・・!いつもと違うしゃべり方をしてたじゃないですか。あれは本当のしゃべり方なんですか?それとも演技なんですか?」
「え?いつもと、ち、違うしゃべり方・・・・・・?」
「えぇ、いつもだったら『わ、わかりました』みたいに、しゃべる前にその言葉の先頭にあることばを言ってからしゃべるじゃないですか?でも、そのときはなんかお母さんみたいな、安心する普通のしゃべり方になってたから」
「え、わ、私そんなしゃべり方になってたんですか・・・・・・?」
「はい、なってました」
「ご、ごめんなさい記憶にないです・・・・・・」
「じゃあ、無意識のうちにそういうしゃべり方になってたってこと?」
「た、たぶんそうだとおもいます」
「ふ~ん」
雪柳さんってまだまだ謎が多い人。これからが楽しみだ。
「な、なんですか?」
「いえ、何でもないです。さあ、浴衣の乱れ、なくなりましたよ?」
「わぁ~、ありがとうございます!」
「いえいえ。ではそろそろ寝ましょうか」
「は、はい。そろそろ私も眠くなってきたので」
「ですよね。では布団を――――あ」
「ど、どうしたんですか?」
「
「え!?」
「ごめんなさい雪柳さん。今、別の部屋から持ってきますので」
私は布団の予備がおいてある部屋に向かおうとした。しかし、
「あ、あの!わ、私、紅葉さんと一緒の布団で大丈夫です!!」
と予想外のことを言ってきた。
「・・・・・・え?」
もちろん私は呆気にとられる。
「す、すいません!嫌だったら大丈夫ですので・・・・・・」
雪柳さんは顔を赤らめながら一生懸命言ってくる。
私はそんなお願いを断るわけが無く、
「大丈夫です!大丈夫じゃないわけがありません!一緒に寝ましょう!」
と、逆にこっちがお願いをするように言う。
「あ、ありがとうございましゅ!」
雪柳さん。あなたはよく噛みますね。
あと、噛んだからって毎回毎回顔を赤らめないでください。
可愛すぎて、おそいそうになってしまいます。
「では、一緒に寝ましょう」
「はい!」
そういって、二人で協力して布団を敷き、枕は座布団を折り畳んで早急に作り一緒に布団に入った。
すると、二人とも向かい合う形となった。私たちは恥ずかしくて無言になったが、急におかしくなって二人同時に笑い出す。そして、雪柳さんが
「この布団、紅葉さんの匂いがしますぅ」
といって、にこっとした。
私は恥ずかしかった。もしへんな匂いだったらどうしようと思って。だから、念のため聞いてみる。
「わ、私の匂いってどんなのですか?」
「えっとですねぇ、甘くて、おいしそうで・・・・・・あ!和菓子みたいな雰囲気の匂いです~」
「そ、そうですか。こ、この匂い好きですか?」
「はい~、私、和菓子が大好きなので、この匂いも大好きです~」
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
「あと、さっきはごめんなさい。私、紅葉さんを嫌いになる事なんて絶対・・・・・・ない、ですからぁ~・・・・・・」
「は、はい。私も絶対になりませんから!」
「すぅ~・・・・・・すぅ~・・・・・・」
彼女からの返事は無く、そのかわり寝息が帰ってきた。
雪柳さんはそうとう疲れていたのだろう。頬を突っついても全く起きる気配がない。
「今日はお疲れさまでした。おやすみなさい」
私はそう言って、電気を消した。
でも、障子を透けて入ってくる月光はどうしても防げなかった。
しかし、その月光がいい仕事をする。ちょうど、雪柳さんの顔を照らしたのだ。
そして目に入る可愛らしい唇。私は、その唇にキスをしたくてしかたなかった。
でも、もしそれで目覚めさせてしまったら迷惑なので、雪柳さんの顔がない反対を向いて寝ることにした。
でも、今回は衝動が抑えられなかった。私は雪柳さんの顔の方に顔を向け、
ちゅっ
っと短いキスをした。
雪柳さんは・・・・・・なんの反応もしなかった。
「ごちそうさまです」
そう言って私はそのまま眠りについた。
ちゅんちゅんっ。
私はすずめの鳴き声で目覚めた。
「ん~っ!」
私は手を上に上げながら伸びをする。そして手をおろす。
ぷにっ
手をおろしたら柔らかい物に手が当たった。何だろうと思いそこに目をやると、浴衣がはだけた雪柳さんの胸があった。
「ふぁぉい!」
びっくりして訳の分からない声がでる。
その声で、色っぽいすがたの雪柳さんは目覚めた。
「あ、紅葉さん、おはようございま・・・・・・す!?」
雪柳さんは自分の姿にすぐに気がつきとっさに隠す。そして、すこし涙目になってこっちを見てくる。
やばい!これは私がやったみたいな流れだ。なんとか誤解を解かなきゃ。
「え、えと違うよ?私、やってないよ?」
私は確信犯みたいな言い訳しかできなかった。
あ、終わった
と心のなかで思った。しかし雪柳さんは
「は、はい、わかってます。私、浴衣で寝ると毎回こうなっちゃうんです・・・・・・。だから旅館に行くといつもこうなんです・・・・・・」
「そ、そうなんですか、あはは・・・・・・」
「そ、そうなんです。と、ところで私の浴衣を直す気はありませんか?」
「はい、やる気しかありませんのでなおさせていただきますね」
「ありがとうございま・・・・・・す」
とりあえず一安心して、雪柳さんを昨日の夜のようなポーズにさせ浴衣をなおしてあげる。
「はい、なおしましたよ」
「お~、やっぱり手際がいいですね、ありがとうございます」
「いえいえ、いつもやってるから自然とできるようになっただけですよ」
そんな会話をしていたら、
コンコンッ
と、ドアがノックされた。私は
「はい?」
とだけ返事をする。すると、向こうからも返事が返ってくる。
「お嬢様、雪柳様。朝食の用意ができましたので、いつもの場所まで移動お願いします」
その声は神崎だった。
「神崎?わかったわ。ちょっとまってて?」
「かしこまりました」
私は雪柳さんの手を取り、言う。
「さあ、朝食の時間です。一緒に行きましょう♪」
「は、はい!」
私たちは同時にドアから飛び出る。
「むぐっ」
ドアを開け勢いよく出て、神崎に、おはよう、のあいさつをしようとする。
しかし、以外と神崎がドアの近くにいて、私の顔は神崎の胸に埋まってしまい苦しくなる。
「ぷはーっ!神崎胸でかすぎだし、ドアの近くにいすぎ!」
私は胸から顔を出し、その大きさに嫉妬して逆ギレする。
「す、すいません。これからは気をつけます」
「じゃあ、その胸、小さくして?」
「それは無理です」
「デスヨネー」
「くすっ、あはははっ!」
そんなバカな会話をしていたら、雪柳さんが急に笑い出した。
「本当に二人とも仲がいいんですね~」
どうやら、仲の良さに感心して、笑ってしまったようだ。
私と神崎は顔を合わせる。そして、いつまでも笑っている雪柳さんに釣られて一緒に笑う。
しばらく笑った後、朝食を食べるため移動をしようとした。
すると雪柳さんが、
「あ、あの神崎さん?」
と、神崎を呼び止めた。
神崎は昨日のことで雪柳さんに嫌われているものだと思っていたので、目を大きく見開き驚いた。
「な、なんですか?」
神崎は、おそるおそる応える。
そんな神崎に
「ちょっと、近くまで来てください」
小さく手招きをしながら言う。
神崎は不思議そうに彼女の下まで歩く。
すると、私の目の前で衝撃の事が行われた。
ちゅっ
なんと雪柳さんは神崎の頬にキスをしたのだ。
私は、餌を求める魚のように口をぱくぱくさせるしかなかった。
「じ、実は、昨日のお二人の夜の会話聞いちゃったんです。も、紅葉さんが部屋を急に飛び出していったので何事かと思いついて行ったらちょうど見ちゃったんです・・・・・・。ごめんなさい!」
私と、神崎はまた顔を見合わせる。
「だ、だから優しかった神崎さんが、急に変態さんみたいになっちゃったから怖かったんだけど、理由をしったら・・・・・・ね?で、ですから色々な意味を込めてキスをさせてもらいました・・・・・・」
そういって、雪柳さんは顔を手で覆って隠した。
そこで私は自己解釈をする。私が部屋に戻ったときに彼女の浴衣が乱れていたのは、私を追いかけて走ったからということを。
しかし、そんなことどうでもよかった。そう、神崎は重罪を犯したのだから。
「神崎ぃぃ!!雪柳さんのほうからキスをしてもらうなんてぇぇぇ!!許さない!」
私がしたキスは、眠った雪柳さんに内緒でするという許可なしのキスだったから・・・・・・。
「雪柳さん!私にも是非、キスを!」
私は興奮気味に、ダメもとで雪柳さんにお願いをしてみた。
「ふっ、お嬢様諦めください。これは私だけの特権なので――――」
ちゅっ
「ふぁぇあ?」
私の頬にも柔らかい感覚と、可愛く小さな音がなる。
「はい、紅葉さんにも色々お世話になったので、ど、どうぞ・・・・・・です!」
「あ・・・・・・あぁ・・・・・・」
私は床に倒れた。
「も、紅葉さん!?」
「お、お嬢様ぁぁ!?」
そして私は、人生で一度は言ってみたかった言葉をいう。
「我が人生、一片の悔いなし……」
この言葉をいって、私はそのまま再度眠った。
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