深双の姫君

 しばらく外の景色を眺めていると、白い壁が見え始めた。

その白い壁は高さ3メートルほどで、その壁の奥にはたくさんの木々が見える。

 約1分後、外を眺めながらボーッとしていたら、急に車が止まった。

こ辺は信号がないため、


なにがあったの!?


と思ったが、よく見たら長く続いていた壁に大きな門がある事に気がついた。

 私はその門をみて、ここが三日月家の入り口なんだなと察した。

門は壁よりも高く、5メートルぐらいはあるであろう。

その門は鉄で作られており、格子戸のようになっている。

 そして、そこには黒いスーツを着て、サングラスをかけた厳つい男の人が二人立っている。

すると紅葉さんは車の窓を開け、


「二人とも、門を開けて?」


 と、厳つい人に向かって堂々と言う。

するとその二人は、


「了解しました、紅葉様。今、コントロール室に連絡します」


 と、紅葉さんの命令に忠実に従う。


うん、これがお金持ちの力なんだね。


 そんなことを思っていると、ガラガラと音を立てながらゆっくり開いた。

門が完全に開いたと同時に、車は動き出す。私はわくわくした。どんな景色が待っているのだろうと。

 私の予想は、たくさんの花が植わっており、レンガで出来た花壇や、噴水のある池があり、洋風な感じだ。

 そして門をくぐった。

すると、予想道理たくさんの花が植わっており、噴水のある池もある。

 しかも今は夜で、街灯のような物の明かりに照らされた花達がいっそう雰囲気を醸し出している。

 そんな景色を見ながら車に揺られていると、大きな家が見えてくる。庭にとても合った家だ。

 どんな家か、と聞かれたら私だったらこう答える。


東京駅の少し小さいバージョン、と。

いや、本当に東京駅みたいな感じの家なんだよね。


 まあ、なにはともあれふつうの家より大きい。

そんなすばらしい家に見とれていると、メイドさんと紅葉さんが車から降りた。

そしてメイドさんが、


「雪柳様、お屋敷にお着きしましたので、お降りください」


 と、車のドアを開けてくれる。

私はそれに従い車から降りる。


「雪柳さん、ここが私の家です。ついてきてください」


 そういいながら、紅葉さんは私の手を取り引っ張ってくれる。

手をつなぎながら歩いていると、紅葉さんは私に


「ここ段差あるから気をつけて」

「この植物はさわるとかぶれるから、気をつけてね」


 など、色々気をつけなければいけない事を教えてくれながらリードしてくれる。

そして、玄関に到着した。メイドさんも紅亜ちゃんをだっこしながら、遅れて到着する。

 家が大きいからその分玄関も大きい。

玄関には、マリーゴールドやガーベラ、ライラックなど、春を感じさせる花が、たくさんの植木鉢に植えられている。

 こんなすばらしい玄関を毎日みている紅葉さんは、花をみるために立ち止まったりせず、大きな扉に手をかけ押し開く。

 扉が開くと暗い外とは一変し、まるで別世界のようなまぶしさの光が扉の隙間から漏れ、今まで月光の下にいた私たちに新しい陰をつくる。

 扉がすべて開くと中が見える。そして、その明かりの正体が露わになる。

その正体は、天井にぶら下がる大きなシャンデリアだった。1つでもかなり明るい光を放つそれは、2つぶら下がっている。

 あまりの明るさで上にばかり目がいっていたが、下には長い廊下が続いている。その廊下には赤い絨毯がしかれており、その両サイドにはメイドさんさんが並んでおり、全員が声をそろえて、


「お帰りなさいませ、紅葉お嬢様、紅亜お嬢様」


と挨拶をする。紅葉さんは、


「うん。ありがとう」


 とだけ言ってそのメイドロードを通っていく。

私はそこを通るのに少しためらいがあったが、紅葉さんがその道を通るため、ついて行くしかない。

 ついて行くと、階段を上り始めた。どうやら部屋は二階にあるらしい。

そして、部屋の前につく。部屋にはいると、中は真っ暗だった。

 当たり前だ。だって電気をつけてないもん。

紅葉さんは電気をつけるべく壁に手を伸ばす。電気がついたとたん私は呆気にとられた。


どうせ広い部屋だろう


 と予想していた。しかし実際に見てみるとどうだ、


すっごい広いではないか。


 ベッドも大きいし、ガラスの机もあるし、テレビも大きいし。おまけに窓の方を見るとバルコニーまである。

 紅葉さんは、呆気にとられている私の様子なんて気にせず、ソファーに座りテレビの電源を入れる。

 そして私に向かって手招きをしながら、


「雪柳さんも一緒にどうぞ」


とソファーに座ることを勧めてくる。私はその手に釣られるように歩き、ゆっくりと腰を下ろす。

 座ってみると、言葉に出来ないほどふかふかだった。そんなこと言わず言葉で表してというならば、わたあめの上に座っている気分、そんな感じにしか言えない。

 私たちは、わたあめみたいなソファーに座りながらしばらくテレビを見た。


 時刻は夜中12時。

私に睡魔という悪魔がおそってくる。紅葉さんもそろそろ眠くなる頃だろう、と思い隣を見てみたが普通に目を開け、眠そうな感じではない。

 私はそんな紅葉さんとは違いそろそろ限界になる。

そして少しずつ睡魔に浸食され、意識を失っていった――――。





 というのが私の中での三日月家の想像と、妄想です。

ふふっ、実際はまだ車の中で普通の道路の景色を眺めています♪

まあ、私の中での三日月家の想像をまとめると、洋風で、花がいっぱい植わってて、豪華な家という感じです。


ん?紅葉さんに実際に聞いたらどうかって?


 聞いたら楽しみがなくなっちゃうでしょ?だから、あえて聞かないのですよ。

とりあえず私は三日月家がどんな家なのかが、とても楽しみなのです。こんな 落ち まで考えた妄想をしてしまうぐらい……。

 こうして、月がきれいな夜の中、色々なパターンの妄想をしながら向かうのであった。




妄想をしていると不意にメイドさんに、


「雪柳様、お屋敷につきましたので、お降りください」


 と、声をかけられた。

妄想どうりの言葉が来て、内心喜んだことは内緒ね?


「え?いつもみたいに家の前で止めてくれないの?」


 そんな紅葉さんの言葉で、どこについたのかを確認するために外を見ようとしていた私はそれをやめて、彼女の方をみる。そんな紅葉さんにメイドさんは言う。


「すみません、お嬢様。明日は車の点検日でございまして、そのために今日は車をここで降りなければならなくなります。お手数ですが、ここから歩いてもらうことになります」


すると紅葉さんは、


「そうなの?それは仕方ないわね。ごめんなさいね、雪柳さん。今から歩いてもらうけど、いい?」


 やっぱり紅葉さんは心がひろいなぁ。


でも、歩く距離ってどのくらいなんだろう?


そう思い私はどのくらい時間がかかるかを聞く。


「あの、ど、どのくらい時間かかるんですか……?」


「う~ん、今、門の前だから、だいたい30分ぐらいで家の前につくかな?」


 30分!?門から家までどれだけ距離があるんだろう……。


ん?でも、30分かかるって事は庭が広いって事だよね?つまり、私の想像の中の洋風な三日月家の庭が広がってるのかも! これは歩くしかないね。


そう思い私は決断する。


「だ、大丈夫です。歩きます」


「本当?ありがとう!」


 ありがとう?それはこっちのせりふです。

だって、これからお庭を見せてもらえるんですもの。


「じゃあ、紅亜をお願いね?」


「かしこまりました」


 そう言って、メイドさんは紅亜ちゃんを抱き抱える。そのまま、メイドさん、紅葉さんの順番で車を降りていく。それに続いて私も降りようとする。

 しかし、急に運転席のあるところのドアが開き人が入ってきた。

あきらかにさっきまで運転していたメイドさんとは違う人だった。私は少し恐怖を覚えた。

 しかし、紅葉さんが放つ一言でその感情はなくなる。


「雪柳さん、早く降りて? その方が車を点検するところまで持っていくから」


 どうやらその人は執事のようだ。

そう言われ、私は車を急いで降りる。そして車は執事さんにより、エンジンを吹かせ、走り去っていく。


「雪柳さん、そろそろ行きましょ」


 紅葉さんに声をかけられ私は振り向く。

ついにお金持ちの三日月家が見られると思うとわくわくが止まらない。しかし、私は振り向いたと同時に目を大きく見開く事となった。



 みなさんは三日月家についてどんな想像をしただろうか。


私と同じ東京駅みたいな家?それとも、ドイツにあるような木組みの家?

残念、全部違います。


 と、誰も予想しなかったであろう場所にいる私はいえる。

でも、もし予想が合っていたー、という人がいたらごめんなさいね。

では、答えを言いましょう。

私が今いる場所、それは、


三日月学園の前。


 私は、三日月家はもしかしたら学園なのかもしれない、という妄想は一応した。でも、さすがに家は別だろうという考えで、そんな妄想はばっさり切り捨てていた。

 不意をつかれた私はただただ立ち尽くしていた。ただただボーッとね……。

 で、でも30分くらい歩くって言ってたし、学校内にあるって事はないだろう……、と思っていた時期も私にもありました。

 紅葉さん、メイドさん共に、校門へと迷いなく向かっているのである。校門の前にたった紅葉さんは、どこの学校にでもあるような、鉄で出来た門に手をかける。そして開けるため、力一杯門をスライドさせる。紅葉さんの手により、幅1メートルほどの隙間が出来た。先は暗くてよく見えない。


「さぁ、行きましょう」


 と、紅葉さんがいう。

 しかし、先が見えなく足下がどんな感じなのかも分からない私は前に進み出すことが出来ない。

イメージとしては、初めて行くお化け屋敷に入る感じ。そんな私の心を察してくれたのか、紅葉さんが私の元に来て手を伸ばしてくれた。しかも、無言で。


紅葉さんってもし男の子だったら絶対モテてるイケメンさんだよね……?


 しかし、その美少女イケメンの顔をよく見ると、少しだけ頬が赤くなっているのが分かった。どうやら、紅葉さんは照れているようだ。

 そんな彼女は私にそのことを分かられないように平然でいるそぶりを見せていた。丸わかりなのに、私を心配させないようにしているその様がすごく可愛く思えた。クールな見た目とのギャップに私は笑みがこぼれてしまう。

 そして私は少し笑いながら、


「ふふっ、紅葉さんありがとうございます」


 とお礼を言う。

どうやらこの言葉が決め手となったようだ。紅葉さんはついに顔が真っ赤になった。

そして、


「い、いえ、これくらい普通の事ですし……。は、速く行きますよ!」


 といって早歩きになる。動揺している紅葉さんも可愛い。

そして、4人で学校の中に入った。



 私たちが歩き始めて5分ほどたった。

 この前私が受験した校舎を通り過ぎ、木の生い茂ったところに到着した。私は、もしかしたら紅葉さんは道を間違えてしまったのではないか、と思った。

 しかしよく見ると、その木々の間から小さな灯りが見えた。この奥になにがあるのだろう。私はそう思い聞こうとした。

 しかし私が口を開く前に、


「雪柳さん、つきましたよ。入り口に」


 と、紅葉さんに言われた。でも、入り口らしきところがどこにもない。

だから私は聞く。


「あ、あの、入り口ってどこです、か?」


「ここよ、この高い草が生えているところをまっすぐ進むの」


 そういうと、紅葉さんは私の手をさっきより強く握り、誘導してくれる。

高い草の間を抜けると、目の前に砂利道が現れた。雑草ひとつ生えてない、しっかり整備された砂利道が。どうやらここが家へと向かう道のようだ。

 なぜだろう、さっき学校に入ったはずなのに全然そんな感覚はない。それほど、雰囲気が違ったのだ。

 周りには、日本庭園のようにこけが敷き詰められており、松の木、楓の木、檜、

和の象徴である、木がたくさん植わっていた。それも、すべてきれいに剪定されている。

 この砂利道をしばらく歩くと、四つ目垣の小さな扉が見えた。その扉を越えると、開けたところにでた。あたりを見渡すと、私にいままでないような衝撃が走った。

 皆さんは、京都にある『無鄰菴庭園』というところをご存じですか?

知らない人は調べてみるといいでしょう。そこは、とても美しい日本庭園で、見る者の心を魅了するすばらしい場所。

 初耳だと思われますが私、雪柳めぐみという人間は、日本庭園が大好きです。

そこに似た庭園が目の前に現れたらどうなるか。あの、和であふれた感じが、何ともいえぬすばらしさを持っているのです。だから高揚感であふれるのはあたりまえ。

 しかし、急にハイテンションになったら紅葉さんやメイドさんを驚かせてしまうと思い何とか理性を抑えた……と、言いたいところだが私は無意識のうちに質問をしてしまっていた。


「こ、ここは、お庭ですか?」


「ええ、庭よ」


 まあ当たり前だろう。庭じゃなかっったらなんだというのだ。バカな質問をしてしまい、少し恥ずかしかった。

 でも、そんな気持ちなんてすぐに吹っ飛ばし、私は辺りを見回そうと横を見た。

しかし、横を見た瞬間、鼻に痛みが走った。何かと思いぶつかった物に目をやる。

 私の視界に入ったのは、大体の日本庭園にはある、石でできた物。

そう、私は自分の身の丈の1.5倍ほどの高さの灯籠に鼻をぶつけたのである。

 私は、痛さにその場にうずくまった。


「だ、大丈夫!?雪柳さん!?」


「だ、大丈夫です……」


紅葉さんは私を心配してくれる。


「雪柳さんって以外とおっちょこちょいなんですのね」


ついでにバカにもされる。


「やっぱり、雪柳さんは可愛らしいですわね……」


 紅葉さんが何か小声でつぶやいた。

痛みにやられている私には、はっきりと聞こえなかったため、なんと言ったのか聞く。


「すいません、今なんとおっしゃったのか……」


「ん? なんでもないわ。それより、鼻血とかでてない?」


「あ、たぶんでてないと思います」


暗くて鼻血が出ているか確認しづらかったため、曖昧な返事をする。


「そう、ならよかったわ。でも、もしかしたらということがあるから、速く家に向かいましょ」


 私は、もっとこの庭を見たかったのだが、紅葉さんとメイドさんの心配という気持ちにより、早歩きで三日月家に向かうこととなった。まあ、後でじっくり見にこればいいし。

 こうして、私は今までどうり紅葉さんに手を引かれながら、メイドさんは紅亜ちゃんを起こさないように三日月家に向かった。

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