偶然の重なり

 私はご飯を食べ終わり風呂に入る準備をしていた。


「あ、そういえば紅亜ちゃんと一緒にお風呂に入るんだった」


 そのことを思い出し、私は紅亜ちゃんを呼びに行く。


 リビングに行くと紅亜ちゃんはちょうどご飯を食べ終わったところだった。


「ごちそうさまでした~!」


 紅亜ちゃんはお母さんに向かってそう言って私の所にやってくる。


「ゆきなやぎ~、おふろ入ろ~?」


「うん。入ろうか」


 私とお風呂に入るということをちゃんと覚えていてくれた。

紅亜ちゃんと風呂に入ろうと思ったその時、私は紅亜ちゃんのパジャマがないことに気が付く。


「あ、紅亜ちゃん?ちょっと待っててね」


「わかった!」


 そう言って私はお母さんの所へ向かった。

お母さんは、台所で食器を洗っていた。


「お母さん、紅亜ちゃんのパジャマがないんだけど……」


「あぁ、そういえばそうだったわね。あんたたちが風呂に入っている間に用意しておくわ」


「でも、紅亜ちゃんのサイズのパジャマって無くない?」


「あるわよ。あんたが昔使ってたのが」


「あ~、わかった!じゃぁ入ってくるね」


「えぇ、入ってらっしゃい」


パジャマについての問題が解決した私は、紅亜ちゃんのもとへと急いで向かった。


「おそくなってごめんね~」


私は紅亜ちゃんにかるく謝る。


「ゆきなやぎ~!」


 紅亜ちゃんはそう言いながら私に抱き着いてくる。

うん。何度見てもかわいい。

そう思いながら紅亜ちゃんと風呂場に向かった。


 

 私が服を脱いでいると紅亜ちゃんがこちらをじっと見ていることに気が付いた。


「紅亜ちゃん?どうしたの?」


「ゆきなやぎ~、ふくぬがせて~?」


「え?あ、うん、いいよ」


 そう言って私は紅亜ちゃんの服を脱がせてあげる。

服を脱いだとたん紅亜ちゃんは、


「おふろ~!」


 と言い、はしゃぎながら風呂場に入っていった。

私も急いで服を脱いで紅亜ちゃんと一緒にお風呂に入った。



 私は幸せな時間を過ごした。


だって、こんな可愛いことお風呂に入れたんだよ?夢みたい。


しかし私は、紅亜ちゃんと風呂に入っているとき疑問に思うことが二つあった。

一つ目は、入ってすぐに


「このおふろ木でできてないの~?」


 という質問だった。ふだん紅亜ちゃんはどんなお風呂に入っているのだろう。きになって仕方がない。

二つ目は、お風呂から出るとき


「ゆきなやぎ~、はやくからだふいて~」


 という言葉だった。まあ、まだ小さいから甘えているのはわかるけど、どうしても、『はやく』という言葉が気掛かりだった。



 私と紅亜ちゃんは、風呂から出てリビングに行った。

そして、冷凍庫にアイスがあったので紅亜ちゃんと一緒に食べようとする。

しかし、ちょうどそのタイミングでお母さんに呼ばれた。


タイミングが悪いなぁ……


そう思いながら私はアイスを口にくわえたままお母さんの下へ向かった。


「なにかあったの?」


 そう私は尋ねる。するとお母さんは、


「さっき紅亜ちゃんの服をたたもうとしたらねポケットからこんなものがでてきたのよ」


 そう言ってお母さんは私に紙切れを渡してきた。そこには電話番号らしきものが書かれている。


「なんで紅亜ちゃんのポケットにこんなものが?」


私とお母さんの頭に疑問が生じた。


「とりあえず、この電話番号にかけてみる?」


 急にお母さんはそう言った。

しかし私は、


「まって! 本当に電話番号なのかもわからないし、いったん紅亜ちゃんにこれが何か聞いてみない?」


と、本人に聞くという提案をする。


「確かにそうね。じゃあめぐみ、聞いてきて?」


「えー、なんで私が?」


「あなたが連れてきた子じゃないの? しっかり責任取って聞いてきてよ」


正論をいわれ私は何も言い返せなかった。


「……じゃあ聞いてくるね」


そう言って私は急いで食べかけのアイスを食べ、紅亜ちゃんのもとへ小走りで向かった。



 紅亜ちゃんはちょうどアイスを食べ終え、アイスの木の棒を舐めていた。

しかし私に気が付くとそれをやめて、私のもとへと小走りでやってくる。


「ゆきなやぎ~、なにしてたの?」


と紅亜ちゃんは聞いてきた。


「えっとね、ちょっとお母さんのお手伝いをしてたの。ごめんね?」


 紙に書いてある番号のことをすぐに言えばよかったのに、私はなぜか嘘をついてしまった。


「そうか~、それはしかたないね~」


 紅亜ちゃんは小さな腕で腕組をしながら、うなずく。

きっと大人の真似をしてやっているのだろう。その行動が、頑張って背伸びをしている子みたいで可愛くて仕方なかった。

 でも番号のことを聞かないといけないため、その思いをむねの奥底にしまい、おそるおそる聞いてみる。


「あ、紅亜ちゃん?聞きたいことがあるんだけど……?」


「な~に?」


そう言って私は紅亜ちゃんに紙切れを見せた。


「これって、なにかわかるかな?」


「うん! わかるよ!」


紅亜ちゃんは元気よく返事した後こう答えた。


「それはね~、おうちのでんわばんごだよ!」


でんわばんご? 電話番号ということでいいのかな。


「電話番号なの? 教えてくれてありがとう紅亜ちゃん」


そう言って私は紅亜ちゃんの頭を撫でてあげた。


「えへへ」


 頭を撫でてあげると紅亜ちゃんは笑顔になった。

やっぱり、いつ見てもかわいいなぁ……。


「めぐみ!」


 紅亜ちゃんの笑顔に見とれていた私は、お母さんの声によって我にかえる。

そしてお母さんの方をみると手招きをしていた。


「紅亜ちゃんまた呼ばれたからちょっといってくるね?」


「え~、また~?」


「すぐ戻ってくるから、ね?」


「ん~、わかった! はやくもどってきてね?」


「うん」


そう言って私はお母さんのもとへと走った。



「で、その電話番号は何なの?」


 お母さんは紅亜ちゃんの話を聞いていないはずなのに、電話番号と言い切ったことが少し気になったが、


「これね、紅亜ちゃんの家の電話番号なんだって」


言いたいことが先に口走ってしまった。


「あ、そうなの?ちょうどいいじゃない。めぐみ、ちょっと電話かけてよ。あの子の親さんにあいさつしたいし」


「えー、また私?」


「あの子をつれてきたのは?」


「はい。私です……」


 私はお母さんの威圧に押されてしまった。


やっぱり、お母さんってこわいな。


私は改めてこのことを痛感した。そして、聞きたかったことも聞けなかった。



 私は電話を取りに行った。そして電話番号を入力する。しかし相手はなかかなか出てくれない。

 仕方がないのでもう一度かけなおすことにする。

電話番号を入力していると、お母さんが紅亜ちゃんを抱きかかえながらやってきた。

 なぜ紅亜ちゃんを連れてきたのか聞こうとしたその時、

受話器から声が聞こえてきた。


「もしもし? どちら様でしょうか?」


 私はその声に聞き覚えがあった。

なぜなら、私が受験した学校で開かれた説明会のときに体育館のステージで話をしていた少女の声、三日月学園の学園長の娘の、

三日月みかづき 紅葉もみじさんの声だったから……。

 忘れるはずがない、電話越しでもわかるこの透き通った美しい声。

私は戸惑いながら声を発した―――。



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