ケンタウリまであと100年
山吹
1.ヒーローの旅立ち
全速力で走り続けて、吐く息が喉に絡んで苦しい。
息を切らせながら急な石段を駆け下りて、最後の数段はジャンプした。
驚いたように振り返るサラリーマンのおじさんの横をすり抜け、大通りに飛び出すと、点滅している交差点をダッシュする。
『――プロキシマ・ケンタウリまでは、現行のワープ航行技術を用いて約50年、往復で100年。空に輝く星の一つに過ぎなかったこの惑星がにわかに注目を浴びたのは、人類初のコールドスリープによる惑星間長距離航行の目的地に選ばれたためです』
大型スクリーンいっぱいに映し出されたリポーターの声を聞きながら、私は走る。
手に提げたおかもちにはラーメンが一杯。
店を飛び出してからずっと駆けどおしだから、ラーメンが無事な可能性は限りなく低い。
それでも私は可能な限りのスピードで足を動かす。
『コールドスリープは未来の技術とも言われ、人体に対する安全性が確立していないこの技術を採用することは強い批判もありました。が、今回惑星探査に向かう宇宙飛行士達は、いずれも命の危機と引き換えに、この人類の大いなる挑戦に志願したのです。――あ、ここでカンファレンス会場に中継がつながっております』
薄暗くなりかけた街並みのそこかしこに、電光スクリーンが浮かんでいる。
そのすべての画面に、若い男の顔がアップになった。
道行く人々が足を止めて、スクリーンを見上げている。
私はそんな人々の間を潜り抜け、ひときわ大きな建物を目指す。
中央テレビ局。
それは、今まさに全国民が注目している会見が行われている場所だ。
『こちら、
踏み出した足が石ころを踏んづけた。
あっ、と思った瞬間には、バランスを崩していた。
おかもちは咄嗟にキープしたけど、勢いあまって顔から地面に突っ込む。
目から火花が派手に散った。
周囲の人がびっくりしたようにこちらを見てくる。
私は唇をかみしめて立ち上がった。
見下ろすと、膝小僧をすりむいている。
結構派手に血がにじんでいるけど、不思議と痛みは感じない。
『今回の惑星探査は、未踏の惑星への探査に加え、100年という航行期間の長さ、コールドスリープ航行という試み、どれをとっても人類史に残る偉大なる挑戦となります。この冒険に挑む浦島飛行士は、まさに現代のヒーローともいうべきではないでしょうか』
違う、違う、違う。
私は大画面に映る賢人の顔を睨み上げると、再び走り出した。
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