3


 まだ流氷の時期には早いからか、それとも平日だからか、宗谷岬の駐車場に車は一台も止まっていなかった。

 ぼくは車を降りた。気温はマイナス27度。空は晴れ渡っているが、海から吹き荒ぶ強風が一瞬で体温を奪っていく。

 一晩どころか、数分でも外にいれば凍死は免れないような寒さだ。


 凍える海と唸る風の中で、ぼくは震えて立っていた。


 このまま死んでしまえば楽なのか? 何も成し遂げられず、誰もが耐える痛みに耐えられずに死ぬことが?


 そう思ったら、途端に自分が情けなくなった。

 なんて弱いヤツだ。誰かの後ろ姿を追うか、背中を蹴飛ばされてでもしない限り、自分の足では一歩も進めない。

 挙句、こんなところで死のうとしている。

 情けない。

 これが人生の結末か。

 くだらない人生だ。こんな最期を迎えるために生きてきたのか、ぼくは。


 悔しくなって、叫んだ。


 どうしてぼくには何もなかったんだ。勇気でも、才能でも、何でもいい。

 普通に生きていられるだけの社交性だけでも良かった。

 何か一片、希望のカケラがあれば生きていられたのに。

 ぼくには何もなかった。

 何もないカラッポの内側で、炎の燃える音だけが聞こえる。


 夢、希望、友情、絆、愛、嫉妬、渇望、絶望。あらゆるすべてを燃料にして炎は燃える。

 熱田は胸に情熱を秘めて、自らの道を切り拓いていく。

 伊吹は夢を持ち続けて、目標へ一直線に光のように突き進む。

 ぼくだけが炎を扱いきれずに、バカみたいに自分自身を焼いている。


 真っ赤に輝く炎があるのに、燃え上がる衝動には行き場がない。夢中になれるものも真剣にできることもあったのに、ぼくには才能も根気もない。

 敗北感と絶望に立ち向かうこともできず、諦めて生きることもできない。

 死も選べない。生きたまま胸の炎に焼かれ続ける。

 何もない。カラッポだ。ただ燃えているだけだ。悔しくて叫び続けた。

 ずっと胸でつかえていた言葉にならない叫び声を上げ続けた。


 熱田の歌声は、叫ぶ姿は大勢を魅了して感動させて、心を揺さぶる。


 ぼくは凍った海と大地で、誰にも届かない言葉を叫び続けている。

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