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まだ流氷の時期には早いからか、それとも平日だからか、宗谷岬の駐車場に車は一台も止まっていなかった。
ぼくは車を降りた。気温はマイナス27度。空は晴れ渡っているが、海から吹き荒ぶ強風が一瞬で体温を奪っていく。
一晩どころか、数分でも外にいれば凍死は免れないような寒さだ。
凍える海と唸る風の中で、ぼくは震えて立っていた。
このまま死んでしまえば楽なのか? 何も成し遂げられず、誰もが耐える痛みに耐えられずに死ぬことが?
そう思ったら、途端に自分が情けなくなった。
なんて弱いヤツだ。誰かの後ろ姿を追うか、背中を蹴飛ばされてでもしない限り、自分の足では一歩も進めない。
挙句、こんなところで死のうとしている。
情けない。
これが人生の結末か。
くだらない人生だ。こんな最期を迎えるために生きてきたのか、ぼくは。
悔しくなって、叫んだ。
どうしてぼくには何もなかったんだ。勇気でも、才能でも、何でもいい。
普通に生きていられるだけの社交性だけでも良かった。
何か一片、希望のカケラがあれば生きていられたのに。
ぼくには何もなかった。
何もないカラッポの内側で、炎の燃える音だけが聞こえる。
夢、希望、友情、絆、愛、嫉妬、渇望、絶望。あらゆるすべてを燃料にして炎は燃える。
熱田は胸に情熱を秘めて、自らの道を切り拓いていく。
伊吹は夢を持ち続けて、目標へ一直線に光のように突き進む。
ぼくだけが炎を扱いきれずに、バカみたいに自分自身を焼いている。
真っ赤に輝く炎があるのに、燃え上がる衝動には行き場がない。夢中になれるものも真剣にできることもあったのに、ぼくには才能も根気もない。
敗北感と絶望に立ち向かうこともできず、諦めて生きることもできない。
死も選べない。生きたまま胸の炎に焼かれ続ける。
何もない。カラッポだ。ただ燃えているだけだ。悔しくて叫び続けた。
ずっと胸でつかえていた言葉にならない叫び声を上げ続けた。
熱田の歌声は、叫ぶ姿は大勢を魅了して感動させて、心を揺さぶる。
ぼくは凍った海と大地で、誰にも届かない言葉を叫び続けている。
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