夢の果て

親の代から街の外れで小さな鍛冶屋を営む彼には夢があった。


その夢を叶える為に自ら危険な冒険にも同行した。


だがその夢は叶わず代わりに左足の膝から下を失った。


彼の夢は稀少なアルファイト鉱石を打つことだった。


アルファイト鉱石はほとんど市場にもでまわらない。


一度だけ一握りのそれが市場に置かれたことがあったが仕入れるには店を丸ごと売に出さなければならない値がついていた。


鉱石が手に入っても工房がなければ意味がない。


彼は唇を噛んであきらめた。


足を無くした彼はそれ以来黙々と工房で鉄を打ち続けていた。


おかげで冒険者仲間では名の知れた鍛冶屋となった。


剣の切れ味は凄まじく、鎧の着心地は素晴らしいと評判だった。


だがそんな世間の称賛など彼にとってはどうでもいいことだった。


心に空いた穴はどれだけ鉄を打とうが埋りはしなかった。


そんな彼に冒険者達は


「生きてるだけ儲けもんだよ」

「そのうちいいことがあるさ」


気休めにもならない言葉をかけた。


今も夢を追いかける彼らの言葉など嫌味にしか思えなかった。


いっそ鍛冶屋など辞めてしまおうかと思った時もあったが、これ以外に生きるすべをしらない彼は今日も鉄を打っていた。


夕刻だった。


そろそろ店を閉めようと戸口に掛けてある看板を閉店へひっくり返そうと立ち上がった。


戸口が開いて汚れた鎧を着た男が入ってきた。


「店終いだ」


彼は手拭いで顔を拭きながら言った。


男は背にした袋を2つ床に置いた。


「これで鎧と剣を頼みたい」


彼は男を見た。


「鎧の手入れもしないやつに打つもんはここにはねぇよ」


男の鎧にはかなりのキズと返り血が付いていた。


「申し訳ない。 これは今回の戦闘で付いたものだ、確かにこの格好で来たことは謝る」


男は軽く頭を下げた。


「あんた、初めてだろ。 いきつけの鍛冶屋くらいあるだろ、そこに行きな」


「確かに。 だが、冒険者仲間に聞いたところ、誰もがここを勧めるのだ」


「はぁ? 勧める? 何を勧めるってんだ」


男は袋の中から鉱石を一掴みとりだした。


「これで最高の装備が打てるのは、あなただけだと」


男が手にした物を見て彼は震えた。


夢に見たもの、一度はあきらめたものがそこにあった。


「ま、まさか……アルファイト鉱石」


「打ち値はいくらでもかまわない。 頼めないだろうか」


彼は足を引きずり男の近くまで歩むと男の手にあるアルファイト鉱石を両手で掴んだ。


「代金はいらねぇ、打たしてくれ!」



彼は寝る間も惜しんで打ち続けた。


出来上がった物は彼が今まで打った何よりも満足がいった。


男はそれを受け取ると代金を払おうとした。


「代金はいらねぇと言ったろ。 それよりも頼みがある」


男はその頼みを快く承諾した。



街外れの鍛冶屋には決して売られない物がある。


それは、アルファイト鉱石でできた小さなダガー。


あの日、残ったアルファイト鉱石で打たれた彼の夢であった。

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