エルフの子供の話
生まれてからの記憶はあまりない。よく馬車にのって移動していたことは覚えている。周りにいる自分と似たような境遇の幼い子供たちは、皆耳の先が少し長かった。早く動かないと自分のことを鞭で殴る男は、耳の先が長くなかった。
よく子供たちを殴る男は、自分のことを十三番と呼んだ。
子供たちは牢屋の中であつめられて、その中で暮らすようになった。その中で、十三番は、エルと名乗る子供と仲良くなった。
仲良くなった子は、時々人間の大人につれていかれて、牢のなかに戻ってくることはなかった。
ある日、立派な甲冑をきた男が牢の中にやってきて、自分たちに笑顔で言った。
「俺の名前はアメル。今日から君らは自由だ」
餓死しそうだった十三番は喜んだが、人間の男達に連れてこられたのは大自然あふれる山だった。
十三番達をひきつれた人間の男の前に、十三番達よりも耳の長い美しい人が現れて、十三番達に言い放った。
「汚い血」
そういわれて、十三番達はまた牢屋の中に閉じ込められた。今度は人間に閉じ込められていた時と違って、十三番達に一切食べ物がでなかった。エルフと呼ばれていた人間たちは、自分たちが餓死するのを待っているのだろうということが分かった。
十三番とエルは特別魔力が強いので、そこから逃げ出した。他の皆も逃げ出そうとしたが、エルフたちに掴まってしまった。
泣きながらエルと十三番は森を歩いて、歩いた。運が悪いことに狼から逃げていたら、熊に見つかってエルが襲われてしまった。
エルが死んでしまう。
悲鳴を上げたら、見知らぬ黒い髪のエルフが熊を倒してくれた。
黒い髪のエルフはテスラと名乗り、十三番と呼ばれていた自分に吟という名前をつけた。自分はエルフが嫌いなので、テスラを信用していない。
テスラはエルを抱き上げ、命の温泉というところにエルをつけると傷を回復してしまった。
お礼を言った方がいいか迷うが、テスラはすぐにどこかにいってしまった。
「ここどこ?」
心細そうに涙目のエルの体を抱きしめて、吟はエルの頭を撫でた。
「ここはテスラ様の御屋敷でございます。私はテスラ様の面倒を見ているななこというものです」
人間の声に震えるエルの前に出て吟は、目の前にいる人間を睨み付ける。
「お食事の用意もできております」
悔しいが吟とエルのお腹が同時になった。エルは布きれ一枚のぼろぼろの服でお腹を隠し、顔を赤らめてうつむいた。
なにか痛いことされたら逃げようと、エルと吟は目を合わせて頷いた。
案内されて歩いていくと、自分と同じような子供がそこらじゅうにいて、丸い物体をなげたり蹴ったりして遊んでいた。どこかしらから子供の笑い声が聞こえてくる。
「ここは何なの?」
エルが不思議そうに問いかける。ななこがこたえる前に、吟たちの前に利発そうな耳の長い少年がやってきた。
「お前ら、新入りか?」
そう吟たちに問いかけてくる。
「あ、あの」
人見知りのエルが戸惑う。
「俺はシリルだ。わかんないことは何でも聞けよな」
美味しそうな匂いが匂ってくる。エルと吟のお腹が鳴る。シリルは笑うと、飯食おうぜと言った。
吟とエルの前に出されたのは見たこともない料理だった。白い乳白色のスープと、白い粒粒したもの。
「なにこれ」
不思議そうなエルは首を傾げた。
「少し熱いですが、気を付けてゆっくりお食べください」
無表情の女の人は、そう告げるだけだ。食べたら死ぬのかもしれない。吟の警戒心はアガルが、いかんせんお腹が減りすぎて限界だった。
「大丈夫だぜ!テスラは女にもてないけど、あいつ料理だけはうまいからさ」
何故か自慢げにシリルがいうので、恐る恐る吟とエルはスプーンでスープをすくって飲んでみた。
白い乳白色のスープはほろほろ肉と野菜がほどけて、深いコクが浮かぶ。
「おいしい!」
エルは涙ぐんだ。
吟は夢中で白いスープを飲んだ。白い粒が浮かんでいる方は、シンプルだが塩味ととろとろしていておいしい!夢中でたべていたら吟は口の中を火傷してしまった。
慌てて隣に置いてあった黄色い果実が浮かんだ水を飲んだ。その水はほのかに酸っぱくて甘くておいしくて、吟は泣いてしまった。
「おいしいよな」
隣りにいたシリルはしみじみ呟く。
「ここはどこなの?」
エルがシリルに問いかける。
「ここはテスラという黒髪のエルフの家だ。あいつは森に捨てられたエルフの子供や、人間とエルフのハーフの子供の面倒を見ているんだ。どうしてだかわかんないが・・。テスラは間抜けだが、いいやつだぞ」
そういって、シリルはにっこり笑った。
「みんなを助けて」
エルと吟は泣きながら叫んだ。
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