第九話 エルフ 子供を拾う
「お待たせしました」
室内に男二人がやってきて、ベルの腫れた足首を聖なる泉でとれた水が入れてある木の桶に入れた。
その間にも狼どもは鼻息荒く、ふんすふんすしながら、俺の頬をぺろぺろしやがる。俺は狼どもの目の輝きをみて、観念した。
「分かった。分かった。ブラッシングしてやるから、離れろ」
俺がそういうと、犬どもは遠吠えを一斉にあげた。
ワンコの面倒を見始めた当時、俺はワンコのことをお湯で洗って乾かしてブラッシングしてあげていた。なんとなくワンコの周りにいる狼どもにも一度ブラッシングをやってみたが、それがいけなかった。
他の狼どもが俺にブラッシングをせっつくようになったのだ。
よほど地球国の古代遺跡で発見した犬用ブラシの性能がよかったらしい。
狼どもは俺を舐めるのをやめて、今度は体にぐりぐり頭を押し付けてきた。溜息をついて狼どもを撫でていると、遠くから子供の悲痛な泣声が聞こえてきて、俺と狼たちは動きを止めた。
ベルの方を見てみると薬草を足首にはり、包帯を巻きつけているところだった。
「ベル、俺少し出かける。ここで待っててくれ」
「はい」
ベルが頷いたのを確認して、俺は魔法を使って空に飛びあがった。天上に地上の写し鏡をつくって見上げた。俺の人探しセンサー魔法を使うと、すぐに泣いている子供の姿が見つかった。
エルフの子供が熊に襲われている。
俺は魔力をこめて分解してある矢を構築し、天上にうつる熊に向かって、矢を放った。矢は熊の心臓に直撃して、熊は唸り声をあげて地面に倒れた。
俺は空からなている子供の元にとんだ。
エルフの子供は見るも無残な血まみれの子供の前で、泣いていた。
泣いている子供の瞳は新緑の碧。青に近いその色。エルフの子供の耳が、通常のエルフの耳よりも丸みを帯びていることに、俺はすぐ気付いた。
おそらくこの子供はエルフと人間のハーフだろう。人間の血は汚らわしいと考える純血派のエルフどもは、人間とのハーフの子供を駆逐しようとこの森に置いていく。なんとざんこくなことだろうか?
小さな六歳くらいのハーフの子供は裸同然の恰好で、尖った岩を手にもち俺の方を睨んでいた。その子供の近くにいる、より幼い血まみれの子供の命が危ない。
「俺はお前らの敵ではない」
「来るな!!」
叫ぶ子供の声を無視して、血まみれの子供のもとに歩み寄った。
怪我をしていないほうの子供は、石を俺に向かって石を投げた。子供の投げた石は、俺の額に落ちて血が流れた。俺は無視して、倒れている子供の治療を始めた。
子供は首筋を熊に噛まれていて、大変危険な状態だ。水魔法の応用で、まずは流れる血を止めた。そっと、子供の胸に耳を押し当てて、心臓の音を聞いた。ゆっくりだが、子供の心臓は動いている。
俺は子供の気道を確保しつつ、ゆっくり抱き上げた。呆然と立ちすくんでいるエルフの子供の元を振り返った。
「こい!」
「わあ」
子供の体は宙に浮かんだ。
「行くぞ」
俺とエルフの子供は空を飛んだ。
「きゃああああああああああああ」
子供は悲鳴をあげて、宙に失禁した。可哀想だが、俺は構っている余裕がないので、さきを急いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます