たわわに揺れるCOWボディ!
あれから一年。果雨ちゃんは十八歳になった。
グラビアアイドルとしてデビューした果雨ちゃんは、学業との両立のため仕事量をセーブしているにも関わらず、その人気はうなぎのぼりになっていた。愛嬌のある瞳、清楚で透明感に満ちた笑顔、その童顔とグラマラスなボディのギャップ。果雨ちゃんは新人グラドルとして注目を集める条件を全て兼ね備えていたのだ。
豊胸グラドルが幅を利かせる昨今のグラビア市場の中で、重力と自然に戯れる果雨ちゃんのおっぱいは、目の肥えたおっぱい星人の心をも鷲掴みにした。かく言う俺も、その一人である。
キャッチコピーは『たわわに揺れるCOWボディ!』。
彼女の名前と、乳牛を意味する英単語をひっかけた、なかなか上手いキャッチコピーだと言わざるを得ない。それが作者のネーミングセンスか、というメタな勘繰りは控えて頂ければ幸いだ。
果雨ちゃんを巨乳グラドルだらけの自分の部屋に入れず、おっぱい星人であることをひた隠しにしている俺は、表面上は彼女のグラビア活動に無関心であるかのように装いつつ、その実、おそらく世の中で最も熱心な果雨ファンとなっている。イベントに参加するため変装グッズも揃えた。ハゲヅラ、付け髭、分厚いメガネ。握手会の時などはなるべく裏声で喋るように心がけ、身バレしないよう細心の注意を払っている。
イベントに毎回足を運んでいると、果雨ちゃんの人気の急上昇ぶりがよくわかる。彼女が誌面を飾るたびにイベントの参加者は倍に増えていき、今では握手会に長い行列ができるほどになった。来月発売になる1st写真集も既に予約殺到で、売上ランキング上位に食い込むのは確実な情勢のようだ。
グラビアアイドルとそのファンとしての一線を引いて遠巻きに眺める果雨ちゃんの姿は、最早、別世界の住人のようだった。うちで俺の手料理を食べる女の子と、写真で見る、そしてイベントで会うグラビアアイドルとしての彼女が本当に同一人物なのかどうか、俺はよく不安になってしまう。
特に、グラビアで見る彼女は、家では絶対に見せないような表情をしている。
時に切なく、時に情熱的で、時にエロティック。女の子の新たな一面を引き出すのがプロのカメラマンの力量でもあるのだろうし、グラビアアイドルとしての細川果雨は確実に成長を遂げている。だがそれにしても、彼女がこんなにオンナの表情をするなんて、と困惑してしまうのだ。
人気グラドルへの階段を着実に上り続けている果雨ちゃんのおっぱいは、Fカップへと成長した。名実ともに巨乳グラドルの仲間入りである。
グラビアといえばやっぱり水着。写真を通してではあるが、俺は初めて果雨ちゃんの水着姿を拝むことができた。家ではどんなに薄着になっても、俺の前で下着姿になることはない。ブラジャーは視界に入るが、それを着けている果雨ちゃんの下着姿は一度も見ていないのだ。親しき仲にも礼儀あり、一応男と女なのだから、最低限の距離はとっているわけ。だから、俺はTシャツやタンクトップやキャミソール越し、或いは稀にラッキースケベの前チラがある程度で、彼女のおっぱいの成長具合をじっくり吟味する機会がなかった。
だから、グラビア写真で改めて果雨ちゃんのおっぱいの様子を観察して、こんなことになっていたのか、とその立派な成長ぶりに目を細めた次第である。
しかし、ここで新たな問題が浮上する。
果雨ちゃんのおっぱいがどんなに魅力的であったとしても、俺は彼女のグラビアをオカズにはできないという問題だ。
絶対に不可能なわけではない。細川果雨のグラビアは十分に魅力的だし、幸か不幸か、我が愚息は素直な反応を見せている。あとは自分の部屋でこっそり済ませればいいだけの話である。だが、果雨ちゃんをオカズにしてしまう自分を許せるのかという倫理的問題と、一度彼女をオカズにしてしまったら、もう彼女を性的な目でしか見られなくなってしまうのではないかという不安。この二つの心理的抵抗が、彼女をオカズにすることを躊躇わせている。
それでも、グラビアアイドルとしての果雨ちゃんの魅力は、一枚一枚シャッターが切られるごとに否が応にも増してゆく。その進化を認める度に、抜きたい、でも抜けない、この葛藤が大きくなっていくのだ。
彼女を気兼ねなくオカズにできる世の一般男性たちを、これほど羨ましく思うことはない。俺にできるのは、果雨ちゃんに心のこもったおかずを提供することだけなのだから。
さて、今回俺が注目した食材はナッツ類である。
ナッツ類には、キャベツでお馴染みのボロンの他、女性ホルモンを活性化させるビタミンEが豊富が含まれており、なおかつ脂肪の塊であるおっぱいにとって必要不可欠な脂質も多く含まれている。ボロン摂取のためキャベツに偏り気味だったサラダメニューに一つ変化を与えることのできる食材なのだ。
本日のメニューは、マグロのチーズ焼、キュウリとトマトとアボカドのサラダ(ナッツソースがけ)、豆腐とわかめの味噌汁、となった。
あれ、鶏肉がないじゃないか、と思われる読者もいるかもしれない。鶏肉のタンパク質は、今回マグロで代用させてもらった。マグロは良質な蛋白質を持つ上にアミノ酸がバランスよく含まれており、これもおっぱいの成長には効果的な食材の一つに挙げられる。太平洋クロマグロはここ数年個体数が激減し絶滅が危惧されており、ウナギ同様資源管理の必要性が叫ばれている。禁漁の可能性すら示唆されているが、男のマグロ摂取は禁止してもいいから女性には食べ続けてほしい食材だ。
ナッツ、マグロと、今回は一話で二つの食材を紹介させてもらった。巨乳を目指す女性読者にとってお得な回だったのではなかろうか。まあ、こんなお下劣な手記に女性読者がついているかどうかは別として。
「果雨ちゃ~ん、ご飯できたよ~」
「はぁ~い」
居間からやってきた果雨ちゃんの表情には、疲れの色が滲んでいた。
今年受験生の身でありながら、グラビアアイドルとしての活動も軌道に乗り始めた。卒業後の進路はどうするのだろうと去年から気になっていたのだが、彼女は今後も仕事と学業の両立を目指していくことにしたらしく、毎日時間を見つけては参考書と格闘している。人気の割に仕事数がセーブされているのはまさに受験を控えているからで、イベントに多くのファンが殺到するのは、そもそも会える機会が他のグラドルに比べて圧倒的に少ないという理由も挙げられるだろう。
彼女が目指すのは都内の名門女子大。模試の結果はA判定だったそうだが、真面目な果雨ちゃんは一層気を引き締めて勉強に励んでいる。
「果雨ちゃん、大丈夫? なんか顔色あんまりよくないけど」
「うん、ありがとう……大丈夫だよ」
果雨ちゃんはにこやかに笑いながら食卓についたが、俺にはちょっとやせ我慢をしているようにしか見えなかった。今は勉学でも仕事でも大事な時期。無理をして体調を崩さなければよいのだが。勉強だけでも代わってやれたら、と時々考えるが、俺の知能では却って彼女の足を引っ張ってしまうかもしれない。
「「いただきます」」
果雨ちゃんはマグロのチーズ焼きを箸で綺麗に切り分けて、口に運んだ。
「どう? おいしい?」
「うん! これマグロ? 火を通してるのに柔らかいね!」
「焼きすぎるとすぐ固くなるからね。焼き加減には気を使ったよ。サラダの方も食べてみてよ」
彼女は言われた通りにレタスとトマトとアボカドのサラダに箸をつけた。
「……うん、これもおいしい! ナッツの香りがいい感じ!」
「だろ? 醤油ベースのあっさりドレッシングに刻んだナッツをたくさん入れてみたんだ」
さっきまでどんよりしていた果雨ちゃんの顔は、まるで生き返ったかのように溌剌として、俺の作った手料理を次々と平らげていく。
果雨ちゃんのグラビア写真がすっかり目に焼き付いてしまっているらしく、何の変哲もない普通のTシャツを着ているだけなのに、その下に彼女の豊満なおっぱいとその谷間の幻を見るようになってしまった。おっぱい星人としての悲しき性である。
人前に立つ、見られる仕事を始めたせいか、ここ最近の彼女は何気ない表情の一つ一つにも柔らかな色気があった。
果雨ちゃんは『女の子』という殻を脱ぎ捨て、今まさに『女』への脱皮を遂げようとしている。彼女のことを単なる扶養家族として見られなくなりつつある自分に戸惑いつつも、果雨ちゃんと彼女のおっぱいの成長を嬉しく思うのだった。
そういえば最近、彼女から『お兄ちゃん』と呼ばれなくなったような気がするのだが……。
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