人生山あり谷間あり
あれから一年。果雨ちゃんは十六歳になった。
中高一貫校のため受験などはなかったが、うちに来た時にはまだ小学生だった彼女も、今や立派なJKである。
一時期ぽっちゃりしかけていた彼女の体型も、ダイエットの成功によって再びスリムさを取り戻した。適切な食事とジョギング、そしてシェイプアップ運動の効果によってダイエットは速やかに成果を挙げた。ジョギングに付き合わされた俺は完全に元通りの体型に戻ったわけではなかったものの、まずまず一応の効果が見られ、過労によって心臓が致命的なダメージを受ける前にジョギング地獄から抜け出すことができたのだった。
しかし悲しいかな、俺の健康などを心配してくれる読者はおるまい。おっぱいというタイトルに釣られてこんな下品な手記のページを紐解いた諸君のことである。最も気になるのはやはり果雨ちゃんのこと、余分な脂肪と共に貴重なおっぱいの脂肪まで燃焼されてしまっていないかという点ではないだろうか。
ご安心めされよ。果雨ちゃんのおっぱいは、無事にDカップへと成長した。
おっぱいは落ちなかったどころか、シェイプアップ運動と偽装されたバストアップ体操及びマッサージの効果が出ているらしく、成長の度合いは以前よりさらに勢いを増したように感じられる。この調子でいけばEカップ、つまり準巨乳の域に達するのも時間の問題だと思われる。
ダイエットの最中から、果雨ちゃんは姿見の前に立ってじっくり鏡を眺めることが多くなった。ダイエットの効果が出ていることが余程嬉しかったのだろう、冬場でも風呂上りなどは薄着のまま姿見の前でポーズをとって、湯冷めするんじゃないかと心配になるほどじっくりとボディラインをチェックしていた。やはり彼女も思春期の女の子である。
実のところ、果雨ちゃんはもう少女と呼ぶのが憚られるほど女らしく成長していた。おっぱいだけではない。すらりと伸びた手足、ボリューミーで形の良いヒップ、ダイエットに成功してすっきりとしたウエストライン。牛乳の効果か、身長も既に160半ばの俺が追いつかれそうなほどである。それでいて顔立ちだけはまだあどけなさの残る童顔なのだから尚更始末が悪い。
そんなわがままボディを持ちながら、たまに家の中を薄着で歩き回ったりするのだから、これはもう勃起待ったなし。四捨五入すると40、世間的にはアラフォーと呼ばれる年齢を迎え、ここ数年は色々な意味で枯れ始めている俺ですらこの有様。果雨ちゃんの成長ぶりを最も如実に語る我が愚息である。
いい加減ロリコン扱いはご容赦願いたい。だってもう体は大人になってんねんぞ?
思春期になると父親を避けるようになる女の子もいるようだが、俺と果雨ちゃんの間には今のところ何の諍いも起こっていない。俺は単なる養育者であって父親ではないのだから当然といえば当然なのかもしれない。思春期の女の子が父親を避けるのは近親相姦を避けるための生理的なものだという説もある。競走馬に例えれば、俺と果雨ちゃんの配合は3×3のインブリードに……おい、何を考えているんだ俺は。とにかく、俺と彼女はずっと良好な関係が続いている。
果雨ちゃんが俺のことをどう思っているのかはわからない。呼び方の通り『お兄ちゃん』なのかもしれない。いや、客観的に見れば俺と彼女は単なるいとこなわけで、彼女自身もそう捉えている可能性は高い。
しかしその一方で、俺の方の捉え方はどうであろうか。歳がだいぶ離れていることもあり、当初は妹というより娘に近い感情を抱いていたことは否めない。養子をもらったような気分と表現するのが最も妥当と思われる。
だが、彼女を自分の理想像に育てようとするあまり、その感情は相当揺らいできていた。しかも、彼女は俺の期待に応え、日に日に俺の理想像へ、理想のおっぱいへと近付いていくのである。
いや、この問題についてこれ以上考えるのはよそう。考えれば考えるほど袋小路に突き進んでいくような気がしてならない。俺がすべきは、果雨ちゃんと、彼女のおっぱいの健やかな成長を促し、見守ること。雑念は排するべきなのだ。
さて、ダイエットの成功と共に再び食事によって果雨ちゃんのおっぱいの成長をサポートできる体制が整った。そして、俺が次に注目した食材は『チーズ』である。
乳製品であるチーズには、牛乳同様おっぱいの成長に欠かせない成分が、さらに凝縮されている。良質の蛋白質は筋肉の発達に欠かせないもので、シェイプアップ運動と偽装されたバストアップ体操を始めた果雨ちゃんのおっぱいの土台となる筋肉を立派に育んでくれるはずだ。また、チーズに含まれる脂質はビタミンBの働きによってエネルギーに変換されやすく、脂肪として体に蓄えられにくい点もプラス材料と言える。
そんなわけで、今日の夕食は鶏肉のチーズ焼き、キャベツと大豆の野菜スープ、きゅうりとわかめの酢味噌和え、となった。
「果雨ちゃ~ん、ご飯できたよ~」
「はぁ~い」
もうこのやりとりを何百回繰り返したかわからない。いや、一日三百六十五日、朝食と夕食、と考えると、四桁はとうに超えているだろう。
「「いただきます」」
これも同様である。だが、果雨ちゃんがその長い指で軽やかに箸を扱い、一口目の食物を咀嚼し嚥下するまで、俺の戦いは終わらない。一応栄養バランスを考慮して献立を作っているとはいえ、おっぱいの成長を促す食材に偏りがちな日々の食事を、いかに飽きさせることなく美味しく食べてもらえるか。一食一食が勝負であり、彼女の次の言葉を聞くまで、その戦いは続いているのだ。
果雨ちゃんは鶏肉のチーズ焼きを一切れ口に運び、もぐもぐと時間をかけて味わった。
「どう? おいしい?」
彼女は満面の笑みを浮かべながら、大きく頷く。
「うん、おいしい! ほんと、お兄ちゃんの料理の腕はどんどん上達していくね」
「ははは、ありがとう。今回はちょっと、新しい香辛料を使ってみたんだ」
一人暮らしの時にはほとんど調味料が置かれていなかった我が家のキッチンは今や、見本市かと見まごうほどに、和、洋、中、その他様々なジャンルの多種多様な調味料で溢れ返っている。
「料理ができる男の人って素敵だよね。料理が上手いってなかなかのステータスだって、友達も言ってたよ」
その友達の言葉には『ただしイケメンに限る』というお決まりの文句が付属しているのだろう。そんなものには騙されない。しかし、果雨ちゃんにそれを言われると、途端に勘違いしてしまいそうになるから不思議である。
緩めのTシャツの襟口から覗く微かな谷間に目を奪われながら、二人きりの夏の夜は今日も更けてゆく。
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