ボロンもあるよ! 煩悩だらけの食育生活
あれから一年。果雨ちゃんは早くも十三歳。無事志望校に合格し、中学一年生になった。
さて、中学といえば制服である。
制服がなかった小学生の頃は当然ずっと私服姿だったのだが、中学に進学してからは平日の毎朝彼女のセーラー服姿を拝めるようになった。白いブラウスにグレーの襟とリボン。下はチェックのプリーツスカートで、間近ではコスプレもののセーラー服しか見たことのない俺の目にはとても清楚で落ち着いて見える。だがその上品さがまた堪らない。本物のセーラー服を見ると、コスプレの安っぽく下品なセーラー服などは見られなくなってしまうものだ。
平日の朝は出社前に眼福で目が覚めるし、仕事帰りにセーラー服姿の果雨ちゃんの姿を見ると、それだけで仕事の疲れが一気に吹き飛ぶような気さえした。
俺の親族とは思えないぐらいコミュ力の高い果雨ちゃんは、中学校という新しい環境でもすぐに友達を作ったらしく、楽しいスクールライフを送っているらしい。スクールカーストでも上位とまでは行かないが、まずそこそこの位置にいるようだ。
女子校といったら俺にとってはブラジルよりも遠い、ややもすると二次元以上に隔絶された空間であるため、その空気に関してはよくわからない。しかし、果雨ちゃんの話や一般的なイメージを繋ぎ合わせて考える限りでは、カースト上位を中心とした派閥や取り巻きとどう折り合いをつけていくかが重要であるようだ。まあこの辺りは、男同士でも人数が集まれば自然とマウンティングが行われヒエラルキーが構成されるのだから、事情はそう変わらないと言える。
そして、今のところ果雨ちゃんとその友人たちはうまく付き合えているらしい。
彼女は性格的に派閥を作ってクラスを牛耳るとかいうタイプではないはずなので、そのままのスタンスを貫いて欲しいと感じる次第である。
部活は文芸部を選んだらしい。元より勉強好きである果雨ちゃんは、今の若者にしては珍しいぐらい活字にアレルギーがなく、家でも空き時間には小説を読む姿を目にすることがあるぐらいだ。コミュ力の高い文芸部員なんて珍しく思われるかもしれないが、とにかく果雨ちゃんはそういう子なのだ。
読書好きイコール根暗で偏屈、みたいなイメージは、結局のところ我々活字アレルギー患者、或いは想像力に乏しい人間が持つルサンチマンみたいなもので、ある種のステレオタイプに過ぎないのかもしれない。
実を言うと、もしも果雨ちゃんが何らかの運動部に入ったりしたらどうしようと、俺は密かに心配していたのだ。
適度な運動は健康にもいいだろうとは思うのだが、真面目な果雨ちゃんの性格を考えると、部活を始めたらすっかりそちらにのめり込んでしまうのではないか。そうなると当然消費カロリーは増えるだろうし、脂肪の塊であるおっぱいも何らかの影響を受けることは避けられないであろう。
また、競技によってはおっぱいの大きさがハンデになってしまうものもあり、果雨ちゃん自身がおっぱいの成長を疎ましく思い始め、その発育を促す食材を食べなくなっていくのではないか、という懸念もあった。
しかし、文芸部ならばその心配はなさそうである。
おっと、肝心のおっぱい育成計画の経過報告が遅れてしまった。勿体ぶるつもりは全くなかったのであるが、色々と思うところが多すぎて、前置きが随分長くなった。悪気はないのでお許し願いたい。
十三歳になった果雨ちゃんのおっぱいは、Bカップに成長した。
なかなか順調なペースだと言えるのではなかろうか。
おっと失敬。何故それを知っているのか、と疑問に思われる向きもあるだろう。中学への進級以降、彼女は自分の洗濯物を自分で洗うようになった。だが、小さい我が家のことである。天日干しされている下着を視界に収めることなく生活するのは難しい。
天日干しが難しい場合、つまり室内干しをしなければならない場合は尚のこと避けるのが困難である。すっかり果雨ちゃんの部屋となってしまった感のある我が家の居間に洗濯物を吊るさざるを得ないからだ。つまり不可抗力であるというわけ。
そして、これまで数多のグラビアアイドルのDVDや写真集をウォッチングし続けてきた俺は、その水着やブラジャーを見るだけで何カップかが何となくわかってしまうのである。これもほぼ無意識のうちに条件反射でやってしまうことなので、しょうがないのだ。膝蓋腱反射なみにどうしようもない。
もちろんブラジャーと実際の胸の大きさが正確に一致しているとは言い切れない。しかし、ついこの間までAカップのブラジャーを着け続けていた果雨ちゃんが、成長したわけでもないのにわざわざ新しく大きいブラジャーを買うだろうか?
以上の点から、彼女のおっぱいは既にBカップに成長していると判断した。異論はあるまい。
さて、Bカップに成長したとはいえ、俺の定義では、果雨ちゃんの乳房はまだ『ちっぱい』であり、『おっぱい』ではない。更なる成長を促し、立派な『おっぱい』への進級を目指すにあたり、俺が次に注目した食材はキャベツである。
なんでも、キャベツには女性ホルモンのエストロゲンを活性化させる『ボロン』なる成分が含まれているらしい。キャベツは繊維質も豊富でヘルシーであり、バランスを取りながら食事に取り入れやすい食材である。ただ一つ問題を挙げるとすれば、この『ボロン』は熱に弱いため、極力生食が求められる点だ。
いかに飽きずに生のキャベツを食べて続けてもらうか。それが目下の課題となる。
以上の点を踏まえて、俺が用意した今日の夕食は、豚の生姜焼きにキャベツの千切り、豆腐の味噌汁、そして長芋ときゅうりと昆布の和え物。
自分でも些か和風でヘルシーすぎるように思わないでもない。果雨ちゃんぐらいの年頃だと、もっとこう、ジャンキーでガッツリしたものが食べたいのではないだろうか。何を隠そう、中学生時代の俺自身がそうだったからだ。
しかし、彼女は今日も文句も言わずにいただきますと手を合わせ、もりもりと白米をかき込み、バリバリとキャベツを頬張っている。
「ねえ、果雨ちゃん」
「うん? なあに、お兄ちゃん」
食卓を挟んで上目遣いでこちらを見返す果雨ちゃんのつぶらな瞳に、この頃ドキリとさせられることがある。ロリコンではないという俺の密かな意地は、彼女がロリっ娘の年齢を脱するまで持ちこたえられるだろうか。
「果雨ちゃんは食事に関して、もっとこう、リクエストはない? つまり、俺が作る食事に不満はないか、ってこと」
果雨ちゃんはぶるぶると首を横に振った。後ろで束ねられたポニーテールが右に左に揺れ、その様はまるで、あどけない微笑に翻弄される三十路男のようだった。
「ううん、なにも。お兄ちゃんの作るご飯、おいしいし。心がこもってる感じがするっていうか……」
「そ、そうか。それは、よかった」
心がこもった食事、と彼女は言った。
それは果たして真心か、それとも彼女のおっぱいに向けられた探求心であろうか。それとも、もっと別のものに向けられた下心なのだろうか。時を経るごとにその境界線が曖昧になっていくのを感じ始めた今日この頃である。
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