オートマチック・リザレクト
篠宮 とらまる
第1話 プロローグ
ある満月の夜のことである。1人の女性が周りを警戒するように歩いていた。
女性の履いている赤いハイヒールが、コツコツと閑静な住宅街にとてもよく響いている。
女性の名は
今年大学に入ったばかりで、お世辞を抜いてもとても綺麗な外見をしている。
茶髪がかったロングヘアーは、真純が歩くたびに、滑らかに右に左に揺れ動く。
そんな真純の後を、まるでストーカーのように尾けている一組の男女がいた。
男の方は細身で背が高く、スーツに黒のソフトハットを身につけていた。口元にはタバコ、と思いきやポッキーがくわえられている。
女の方は真純と同じくらいの年齢に見えるが、格好は家着のようなジャージ姿で、不機嫌そうな顔をしていた。
「なんで私までこんな時間に繰り出されなきゃいけないんですか?
肩までかかっている黒髪をいじりながら、女の方が文句を言う。
「まあまあいいじゃないの、
そう答えるスーツの男、名は
そして、伊織に「渚ちゃん」と呼ばれた不機嫌そうな彼女の名は
もっと言えば、千明の助手である。
「何がデートですかまったく。こんな時間にこんな場所歩いて、ずいぶんと楽しいデートですね」
「……きびしいよ渚ちゃん」
ぽりぽりとくわえているポッキーを食べながら、しょんぼりと千明が言う。
「というか見てくださいよ私の格好」
渚はそう言うと、わざとらしく両手を広げて自分の服装を千明にアピールする。
「うんそれだよ。なんで渚ちゃんそんな格好なのさ、大学2年生の女の子がデートにジャージって……」
「あなたのせいです。それに私デートだとか思ってませんし」
ベッドの上で本を読みながら、いつでも寝られるというときに千明から呼び出しがかかったのである。
渚が怒るのも無理はない。
「それにこれ、ただのストーカー事件でしょ? やっぱり警察に任せておけばいいんじゃ……」
「ただの、と決めつけるのはまだ早いよ。というかただのストーカー事件じゃないよ」
「何か確証でもあるんですか?」
驚きを隠せない感じで渚が目を見張る。
「刑事の勘、かな」
「……いつ刑事になったんですかあなたは」
さっきとは一転、渚は呆れたような顔つきになる。
「表情が忙しいねえ、渚ちゃん」
「誰のせいだと……はあ」
渚をからかったあと、千明は真面目な顔になって「まあ……」と続けた。
「確証はないけど確信はある。間違いなくこれは『能力』絡みだよ」
そう言って彼は笑った。
オートマチック・リザレクト 篠宮 とらまる @sinossy
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