第4話 夏祭り 序盤戦

藍色に赤い金魚が泳ぐ、近頃にしてはおとなしい柄の浴衣に深い紅の帯。黒い長い髪を青の蜻蛉玉がついた簪でまとめた大人しい印象を与える女性が一人、祭りが行われる通り近くの駅で待っていた。待ち人がくるのを待っているのだろうか、その顔は期待と不安が混ざり曇っていた。

「ごめん!お待たせ。」

そこに息を切らせて走ってきたのは同じく黒髪に紺の甚平を着た優しげな瞳の好青年だった。

「平気、私が早く来ちゃっただけだし、そんなに待ってないから。」

そういいながら女性は先程まで曇っていた表情はそこにはなく、少し照れたようにはにかんでいる。

「よかった、じゃあ見に行こうか。」

まだ手を繋ぐ事ができないのか、ぎこちない距離を保ちながら二人は祭りで賑わう通りへと歩き始めた。


その後ろをつけるのは不穏な影……ではなく、自殺部隊の面々である。

「あー、リンゴ飴食べたい!」

「くっそー、私もデートしたい。」

女性二人が騒ぐなか、男性陣は

「彼女に会いたいなー。」

「帰りたいよー。」

「はぁ。」

「俺もデートしたいなぁ。」

と同じようにぼやいていた。

彼らが見ているごく普通の友達以上、恋人未満のようなぎこちない甘酸っぱい雰囲気を醸し出してる二人はターゲットではなく、恋人同士として囮になっている男の格好をしたリンリンと、いつものツインテールを下ろした殿である。

二人に決まったのはどうしてなのか、それは少し前の話に遡る。






―誰か二人でカップルを作ってくれ。


そんな蟷螂の一言に簡単に、はいという生徒などおらず、教室には怒号に近い叫びがわき上がった。

「こいつらと付き合うとか無理!」

「僕彼女いますし……。」

「ぼく帰る!」

「いろいろおかしくない!?」

各々言いたい限りいう中、無言を貫いていたナルが愛銃を天井に向けて撃った。

「うるせぇ。」

一気に静かになった教室の中で、蟷螂の説明が付け加えられる。

「ナル、ありがとう。説明を続けるがこれは特別実習を遂行するための作戦の一部だ。」

「はぁ?今回のオーダーはなんなんだ。」

作戦だ、と言われてもよくわからないと骨川が問う。恋人という点で相手を油断させるような任務ならナルと蟷螂が適任なのは明らかだ、と。

「今回のオーダーは、最近武装高校のカップルを別れさせるという嫌がらせが横行している。その犯人を突き止め処理または捕縛セヨ、だ。」

「うぇー、くだらな。」

「でも、生徒と教師の関係だと都合が悪いから僕らのなかでカップル作れって言ったんですね。」

ちひろがただでさえないやる気を削ぎおとす横でぴの字が話をまとめる。

「そうだ。あと確かに今回のオーダーは下らなく聞こえるが今月に入って被害にあったカップルは15組、別れたのはそのうち13組だ。恋人と別れた奴の心は弱まるし、つけ込むのも容易くなる。言いたいことはわかるな?」

普通の学校なら些細な心の隙間も、武装高校ではつけ込まれ利用される。それを蟷螂は暗に示したのだった。

「ナルさんと蟷螂先生なら別れる心配はないだろうけど、それだけ被害が出てるんじゃ、本当の恋人同士だときついかもしれないね。不愉快な思いをしそう。」

「そうなんだ。だからすでに恋人がいる奴を除いたメンバーでひとまず囮役のカップルを一組作って欲しい。」

殿の言葉に同調しつつ、蟷螂は本題に戻す。カップルに擬態する…変人揃いの自殺部隊には少々荷が重いオーダーである。

「とするとここにいない奴と、恋人がいる奴除外すると、ちーちゃん、リンリン、はぎれ、殿…あと俺か。」

「ぼくぜっったいムリだからね!」

骨川が挙げる名前に対してちひろが騒ぐ。今回は面倒という点を抜いても本気で囮役にはなりたくないようだ。

「私と殿でやってもいいよ。」

忘れられがちだがリンリンに負けず劣らず変装が得意なはぎれが名乗りを上げる。

「言い忘れたが、被害は最近祭り会場に頻発している。だから囮には明日の祭りに行ってもらおうと思ってる。」

「なら、はぎれさんにはきつくねぇ?長時間人混みにもまれることになるのはさ。」

「薬飲めばいけr」

いけなかった萩原が吐血しながら布団に沈む。殿と萩原のペアは息はぴったりだろうが、祭りをまわっているときに吐血でもしていたら、恋人というより看護師と患者になりかねない。

「ワンチャン、俺とリンリン?」

「体格的にヤバない?それ。」

177cmのリンリンと165cmの骨川…別に身長差のカップルがいないわけじゃないが、ただでさえ偽りのカップルにそれはどうなのかという雰囲気が流れる。

「僕が男の恰好で殿さんと組めばいいんじゃないですか?」

そこで提案したのは意外にもリンリンだった。

「ほら、僕性別不詳ですからあんまり気を使わなくていいですしィ、殿さんとなら結構いい身長差だとおもうんですよォ。」

殿さんがいいならですけど、とリンリンが付け加える。

「私はかまわないよ。リンリンなら楽しそうだし。」

かくして、世にも珍しいカップルが出来上がった訳である。





『どのー。聞こえるー??』

一応と渡された通信機から萩原の声が聞こえる。リンリンと合流したら不自然なため外す算段になっているが、発信器機能も付いているためもし拐われても位置が把握できるようになっている。

『今のところ不自然な人はいないよ。どうやって武装高校の生徒だと見分けてるかわからないし、どんな人だともわからないから気を引き締めていこうねー。』

こちらは返せないため一方的に流れてくる内容に心のなかで頷く。

『学校では隠していたような奴らも被害に遭ってるからたぶん学校でターゲット探してないだろうし、精々デートらしくしてターゲットに尻尾出させろよ?』

続いて骨川からも念押しがくる。なんとなく茶々を入れられてる様な気もするが何も言えないため、返事の代わりに通信機を巾着にしまった。

「ごめん!お待たせ。」

偽りのデートとという戦いが始まった。




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