四月

第二話 入学初日をキリトル (一)

 四月一日午前七時。

 寝る前にスマートフォンにセットしたアラーム音で目が覚め、重たい躰を起こす。


「天気がいいな」


 温かい日差しが部屋に差し込む。

 昨日とそう変わらない天気のはずなのに、どこか優しい感じがした。

 

 洗面台で歯を磨き、顔を洗う。いつもと変わらない作業を熟す。

 パジャマのまま、食卓につき、お母さんがいつ用意したか分からないトーストにマーガリンを塗って齧る。


「お母さん、これ冷たいよ」

「じゃあ明日から美久が用意すればー?」


 声が遠い。おそらく洗濯物を干しているのだろう。

 私はテレビで流れているニュースを背景に朝食を済ませた。

 

 今日から豊海にある豊海高等学校へ通うことになっている。

 通うといっても、今日は入学式だけで、昼過ぎにはお父さんとお母さんと帰る予定だ。

 豊海高校は部活動が盛んで、活気ある人気の公立高校だった。

 学力は中の上。中学からの友人も多く入学する。


 空になった中皿とカップを丁寧に濯ぎ、食器洗浄機に入れる。

 振り向くと、リビングの扉に備え付けられているドアハンガーに、新しい制服がかかっているのが視野に入った。


 チャコールグレーのブレザーに赤のチェックのスカートとリボン。

 そして、真っ白のシャツ。

 そういえば、試着以来、一度も着ていない。


「着替えないのか?遅刻するぞ」


 お父さんはストライプの入った黒のスーツを着ていた。

 いつもと違う……。

 服装でここまで印象が変わるのか。と私は感心する。

 

「着るよ」


 ハンガーごと制服を手に取り、急いで自室に戻る。

 

 扉を勢いよく閉める。

 窓から風が流れ込み、カーテンを揺らしていた。

 ハンガーをカーテンレールにかけ、無言で、パジャマのボタンを順に外していく。

 身に着けていたものが剥がれ、無造作に床に置かれる。

 肌に空気が触れる。

 

 「まだ寒いね」


 私は机に置かれたクロに笑って話しかけ、着用前の制服を写真に収める。

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