第72話 おとこのこでお試し
「それにしても色んな水着があるなぁ……」
改めて広場に展示されている水着を物色してみる。当たり前だが、パンツだけの男の水着よりも種類が多い。
大きく分けてワンピースタイプとビキニタイプか……。どっちを着たいかと聞かれると「どっちも着たくない」が答えなんだがなぁ。
いやしかし、実際にプールとか行って地味な恰好してたらそれはそれで逆に目立つんじゃなかろうか。自分が女になったことに慣れたつもりだったが、初めて着る水着にはすぐ慣れるもんじゃないということか。
下着と違って周りから見られるしなぁ。ある程度割り切るのもなかなか難しい。
「何を唸ってるのよ……」
水着を見ているふりをしてたが声に出ていたらしい。佳織から怪訝な表情で声が掛かる。
「いや正直、どんな水着選んでいいのかわからなくなってきてだな」
「ふーん。……じゃああたしが選んであげようか?」
言った本人は、頬をポリポリと掻きながらあさっての方向を向いている。
でもまぁ、選んでくれるのならそれも悪くないかもしれない。佳織なら少なくともネタには走らないだろうし。ということは祐平にも選んでもらうのもありかな。……というか静以外なら大丈夫な気がしてきた。
「そうだなぁ。……まあ参考にさせてもらうか」
自分でも選んでみるがちょっと選び方を変えようか。自分が着ると考えるから変な抵抗が出るわけで。
……と考えたところでいいアイデアが浮かぶ。
そうと決まればさっそく実践だ。
男の水着を適当に物色している祐平と拓也を見つけると声をかける。
「というわけで参考にしたいから、二人も俺の水着選んでくれない?」
「何がというわけだよ」
祐平は嫌そうにしているが、拓也は何のことかよくわかってなさそうだ。買い物に来た目的を考えれば、むしろ当然の流れとも言える気がするんだが、祐平には不満があるようだ。
「自分でも何がいいのかわからなくなったんで、ちょっと選んでもらおうかと」
「マジかよ」
「ホントに?」
眉間にしわを寄せる祐平と、拓也はちょっと期待してるのか顔が輝いて見える。俺としても積極的に選んでくれるというのであれば、こっちも遠慮しなくていいというもんだ。男装女子にしか見えない拓也をモデルに、自分の水着を選ばせてもらおうじゃないか。
「おい、ちょっと待てって!」
抵抗する祐平の背中を押して、女子の水着が陳列されているエリアへと連れていく。
「圭ちゃん! わたしも手伝うよ!」
どこで話を聞いたのか、静もやる気だ。あんまり期待はしないが、参考にはさせてもらおうかな……。
「変な水着は選ぶなよ?」
「心外な! わたしは圭ちゃんに似合う水着しか選ばないよ」
「そうですよ。さすがに水着で変なものは選ばないですよ」
鼻息の荒い静はともかく、千亜季は大丈夫そうだ。
「そうそう。ちょっとこういう水着を着た圭ちゃんも見てみたいけど、さすがにそれは自重しますとも」
と言いつつ手に取った水着は、いわゆるマイクロビキニというやつだ。なんつーかもうほとんど紐だよな。むっちりとした大人の女性ならともかく、背の低い自分が着ても面白みなど皆無だ。下手すりゃネタにもならん。
「当たり前じゃないの! ダメに決まってるでしょ!?」
「ぶふっ」
ツッコミを入れる佳織に、盛大に噴き出す祐平。なんかもうカオスになってきた気がするな。しかし俺も自分の水着を選ぶというミッションがあるんだ。ここで流されるわけにはいかんのだよ。
小柄で色白な拓也には何が似合うだろうか。やっぱりここはビキニで攻めるべきか……。やっぱりいろいろ見えちゃまずいところはパレオで隠すとして。上はそうだなぁ、オフショルダーにフリル付きとかいいんじゃねーの。
ちょうど目の前にあった淡いグリーンの水着を手に取ると拓也へと近づいていく。
「ちょっといいかな?」
「はい?」
振り向いたところに問答無用で、拓也の体の前に水着を当てて確認する。
うーん。これはこれでアリじゃなかろうか。パレオやフリルがついてると、それほど露出が多いってわけじゃなさそうだし。やっぱり客観的に他人の水着姿を見るというのは大事だな。
「……えっ」
しばらく眺めていると、ようやく何をされているのか理解したのか、小さい声を上げて後ずさる拓也。
「あ、ちょっと待ってよ」
「いやいやいや!」
じりじりと追いかけるもさすがに素直に試させてはくれないようだ。
「何やってんのよアンタは……」
必死に後ずさる拓也を追いかけてると、後ろから佳織の声がかかる。
「そりゃまぁ、着てみたらどうなるかってのを他人で確認してるところだが」
「なんでオレなのさ!? 他に女子がいるのに!?」
佳織を振り返らずに答え、拓也へとじりじりと迫っていく。
「なんでって……、そりゃおもし――思ったより似合いそうだったんで、もうちょっと見てみたいなぁと」
「えええっ!? 今面白そうって言いかけたよね!?」
「気のせいじゃねぇか?」
「さすがにちょっと可哀そうでしょう」
「そ、そんな手があったとは……!」
窘める佳織の声の後で、ハッとした静の声が聞こえてきた。俺の隣に並んで、面積の小さい水着のかかっているハンガーを手に、拓也へと一緒に迫る。ってかまだ持ってたのかよ。にしてもさすがにマイクロビキニは無理だろ。いくら男の娘でも無理があると思うんだ。
中には「むしろそれがいい」という人間もいるかもしれないが、やっぱりパレオはあったほうがいいと思う。
「ちょっと二人とも、やめなさいって言ってんでしょ!?」
冷静に男の娘とマイクロビキニの考察をしていると、佳織から後頭部へと激しいツッコミが入れられるのだった。
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