第73話 三人の水着
拓也がダメとなると、他の誰かに着てもらうしかないな。難を逃れたとばかりにそそくさと引っ込む拓也から、佳織へと標的を変更する。
「じゃあ代わりに佳織よろしく」
俺のセリフにかぶせて、そっと静が手に持っていた水着を佳織に差し出す。
「なんであたしが――」
しぶしぶとしながらも反射的に手を伸ばしたそれは、もちろんマイクロビキニだ。
「ってこれは無理に決まってるでしょ!?」
気が付いてすぐに手を引っ込める佳織。これはさすがに気が付くか。ギャグマンガなら試着し終わってからツッコむところだが、佳織にそれを期待するのは無理というものだ。
「じゃあこっち」
だが難易度が下がれば可能性はなくはない。今度は俺が持っていた水着を佳織に手渡すと、素直に受け取る。
「まぁこっちなら……」
納得いかない様子を見せながらも、サイズをしっかり確認している。どうやら自分でも水着を選ぶようで、渡した水着を持ったまま他の水着を探しに消えて行った。とりあえず実際に水着を着た女子というものがどんなものか確認はできそうだ。
「静はどうすんの?」
「うーん、わたしもそろそろ自分の水着を選びますかね」
相変わらず布面積の狭い水着を手に取ったままだが、静もそのまま他の水着を物色し始める。せっかく来たんだからちゃんと目的は果たさないとな。佳織いじりはいつでもできる。そして千亜季は……と見回すと、ちょうど試着室へと入っていくところだった。
改めて自分の水着もと思って眺めてみるが、どれもピンとこない。無難なところであればさっき佳織に手渡したヤツだが、やっぱり似た感じのデザインになるのか。
「圭ちゃーん」
しばらく考えていると、試着室から静の声が聞こえてきたのでそちらへと向かう。試着室の隙間から顔を覗かせて手招きしている。
「へいへい」
「ちょっと大胆かしら?」
何がだよと思いつつも隙間を開けて試着室をのぞき込んでみると、上半身だけマイクロビキニを装備した静が腰に手を当てて胸を張っていた。
「……何やってんの」
実際に装備しているところを見れば、その布面積の小ささがよくわかる。静自身のおっぱいがそれほど大きくないとはいえ、中心以外の全周囲が見えているのだ。上乳とか下乳とかそんなレベルじゃない。それに何かあればすぐにずれて見えそうではある。
「ええー、何その反応」
「下はどんなやつ?」
「これ?」
口をとがらせつつも下の水着を取り出した。今日の静はキュロットスカートといういで立ちだが、その上から重ねるように水着を当てる。
「さすがにパンツより面積の狭い水着を、パンツの上から穿いてみる気は起きなかったよ」
「そりゃねぇ」
ってか下の水着の面積すげーな。一応隠れるんだろうが、隠す気あんのかって思ってしまう。
にしても本気じゃなかったと思うが、静はよくこれを持って拓也に迫ってたな。思わず想像しちまったが、絶対はみ出るだろ。何がとは言わないが。
「どっちにしろその水着はさすがにないな……」
自分が着ている姿を想像してもこれはなしだ。
「だよねー」
「だったらなんで着たんだよ」
「……万が一の可能性に賭けた?」
「意味わからん」
なんとなくがっかりした様子の静だが、実際にマイクロビキニを着ている姿を見て『これいいな』などと思う可能性はゼロだ。
「圭一? そこにいるの?」
マイクロビキニはないなと再認識できたところで、隣から佳織の声が聞こえてきた。
「いるぞー」
返事をしながら隣の試着室を覗き込もうとして踏みとどまる。さっき自分がやらかした二の舞になってはいけない。ラッキースケベ的なシチュエーションだが、別に俺にとっては得でもなんでもないし。
「着てみたけど……、どうかな?」
……ここまで言われたら大丈夫かな。試着室の入り口から覗き込んでみると、俺が選んだ淡いグリーンの水着を身に着けた佳織がもじもじと佇んでいた。
下半身はアシンメトリーな膝下まであるパレオで隠れており、下着が見えることもなくしっかり着こなしているように見える。
「おぉ……、悪くはないな……」
「何よそれ……」
不満そうな佳織に、じゃあ本当のことでも言ってやろうかと口を開く。
「似合ってるじゃないか。可愛いと思うぞ」
妙に似合ってない静のマイクロビキニを見たあとだからか、静より似合ってるし可愛くも見えるというもんだ。
「な――なななに言ってんのよ!?」
一瞬にして顔が真っ赤になる佳織。普段褒めたりしないからか、やっぱりこういう反応は可愛いな。
「ちゃんとした水着を着るとこうなるんだなぁ」
佳織越しに後ろの鏡で自分の顔を改めて確認する。そして佳織へと視線を戻し、顔だけ自分のものに入れ替えて想像してみる。
「ふむ」
「ちょっと……、そんなにじろじろ見ないでよ……」
でも背は佳織の方が高いからなぁ。不本意ながらもうちょっと縮めてみて。……うん、悪くはないな。ただちょっと、泳ぎにくくなりそうだからパレオを巻くなら短めのやつがいいかもしれない。
「圭ちゃーん。私も着替えてみたんだけど、どうかな」
頬に赤みの残る佳織をじっくり眺めていると、今度は千亜季の声がした。この際だし、三人ともに見比べてみるしかない。
千亜季の試着室を覗いてみると、フリル多めの淡いピンク色をしたワンピースタイプの水着姿の巨乳がいた。谷間もばっちりである。
「おぉ、さすが千亜季だな」
「ほら見て、背中はこんなふうになってるよ」
くるりと背を向けると、大きく開いた背中が現れる。その背中を覆うように紐が網のようになっていて、なんとも大人っぽい。
「へぇ。こんなのもあるんだなぁ」
「どう? 圭ちゃんの水着決まりそう?」
「あー、そうだなぁ」
いまいち参考にならなかった静はともかく、佳織と千亜季の水着はためになった。……と思う。
「ちょっと選んでくる」
試着室のエリアに背を向けると、千亜季から『がんばってー』と声が届いた。
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