第71話 水着の試着

 手渡された水着をフックに引っ掛けると、ひとまず着ていた服を脱いで下着姿になる。今日は淡いブルーの下着である。こうして自分をじっくり眺めてみると、ちゃんと女子に見えるようになったなぁと思う。

 今だとそこそこ自然に女子っぽい仕草が出るようになっているのだ。女子になった初日に佳織に撮影して見せられた、ガニ股気味に歩く自分が懐かしい。


「まぁいいや、ちゃっちゃと着替えるか」


 ブラを外すとフックに引っ掛けて、水着を両方手に取ってみる。サイズはSとMらしい。それぞれ胸囲とヒップサイズが書いてあるが……、そういえば自分のスリーサイズっていくつだっけ? 覚えてねぇな。……佳織に聞いてみるか。

 Mサイズの水着をフックに戻してカーテン越しに声をかけてみる。


「佳織いるか?」


「うん? もう着替えたの?」


「あーっと、いやちょっと聞き――」


 微妙な返事になったところを言い直したが遅かった。カーテンをちょっと開いた隙間から、佳織の顔が覗いていた。


「――えっ?」


 この試着室は移動式なのか、底にローラーがついている。そのぶんお店のフロアからすると、一段高い位置にあるのだ。そして佳織と言えば、ちょっと前かがみになって顔を試着室へと突っ込んでいた。つまり、普段より低い位置に顔があるということだ。

 するとどうなるかというと……、佳織の目の前にはちょうど俺のおっぱいが位置しているということだ。


「何見てんだよ」


 固まって言葉が出ない佳織に声をかけると、徐々に顔に赤みが差してくる。


「あ……、ちょ……、着替えてないのに呼ばないでくれる!?」


 ようやく復帰したのか、俺の胸元に視線を固定したままツッコんでくる。佳織であれば何度も見られてるし、今更隠すことでもない。


「いやだから聞きたいことがあったから声かけただけで、誰も着替えたとは言ってねぇだろ」


「そ、それはそうだけど……。ちょっとは隠しなさいよ!」


「減るもんじゃねぇし別にどうでもいいだろ……」


「……むぅ」


 何か納得できてないようだがそんなことは俺にはどうでもいいのだ。


「んなこたいいんだよ。それよりも、佳織は俺のスリーサイズって覚えてない?」


「……へっ?」


 何を言われたのかわかってないのか、呆けた表情をようやく胸からこっちに向ける佳織。


「水着にサイズが書いてあるのはわかるんだが、自分のサイズ覚えてないんだよな」


「はぁ? ……なんで覚えてないのよ」


 一気にあきれ顔に変化する佳織は、カーテンの隙間から手を出して額を押さえている。頭を軽く左右に振ると、額を押さえていた手をフックにかかっているブラへと伸ばして指をさす。


「ブラにサイズ書いてあるでしょうに……」


「……おぉ、そういえばそうだったな」


 フックにかけてあったブラを手に取って裏返してみる。確かにタグを見ると書いてあるな。


「C65って書いてあるな」


「じゃあアンダー65のトップが80ね」


 今度はフックのかかっていない反対側の壁を指さすと。


「そこにサイズ表が張ってあるけど、圭一のサイズだと水着はSサイズかなぁ?」


「ほうほう」


「下着よりは伸び縮みするから、多少小さ目でもいいらしいわよ」


「へぇ、なるほどね」


「でもちゃんと試着はしなさいよ」


「わかってるよ」


 さすがにパンツ一丁になるまで服は脱いだんだ。ここまで来たら水着の試着はちゃんとしますとも。


「じゃあ水着着たら呼んでね」


 言葉と共に、試着室の入り口から佳織の顔が引っ込んでいった。


「とりあえずSサイズから着てみるか……」


 手に持っていた水着をハンガーから外して手に取ってみる。軽く引っ張ってみるが、確かに伸縮性はあるようだ。


「ってかこれ、どうやって着るんだ?」


 ワンピースは頭から被ってたが、水着は頭から無理だし。……ってか形状を考えると、足突っ込んで穿くしかないよな。

 そうと決まれば片足を上げて水着の頭の部分へと入れていく。両足を通したところで水着を上へとひっぱりあげ、腕を肩ひものところへと通す。胸がカップのところに収まるように調整して終わりかな。

 鏡越しに背中も確認してみるが、特に変なところは見当たらない。


「ちゃんと着れたかな?」


 フィット感はさすが水着と言ったところか。多少締め付けはあるが、これくらいなら問題ないか。なんとなく屈伸運動や足の曲げ伸ばしをしてみる。違和感はあるが、初めて水着を着たからかなのか正直よくわからん。


「佳織。着てみたぞ」


「はいはい」


 声をかけると即返事がきた。すぐそばで待ってたらいし……が。


「おぉ、圭ちゃんの水着!」


「私も失礼して……」


 試着室の入り口がちょっと開いたかと思うと、三人が顔を出してきた。

 鼻息の荒い静に若干引きつつも、気を取り直して三人に堂々と見せる。よく考えればパジャマパーティーのときに、この三人には俺の全裸を見られてるんだよな。それを思えば水着なんぞで慌てる必要はない。


「おー、いいんじゃない?」


「ぱっと見だとちょうどいいサイズに見えるね」


「だねー」


 胸元やお尻の布を引っ張って確認しつつ、三人からはお墨付きをもらった。


「じゃあ学校用のはこれでいいかな」


 こうして俺の授業用水着はあっさりと決まった。

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