第54話 一緒に寝る権利の行方
「おおー」
お風呂から上がってきた静と千亜季を見て、俺は思わず感嘆の声を漏らしていた。もちろん二人がちゃんと着ぐるみパジャマを着ていたからだ。
静はペンギンのパジャマだ。イワトビペンギンなのか、フードについている立派なとさかと相まって、ずんぐりむっくりなゆったりした見た目が可愛い。千亜季は黄色い着ぐるみで、フードから生える耳の先端は黒くなっている。ほっぺは丸い形で色づいており、尻尾はギザギザと雷が落ちる様子をデフォルメしたような模様だ。
……うん、まるっきりピ○チュウだなこれは。いやこれはこれでかわいいんだが。
「どうかな?」
両手を腰に当ててふんぞり返る静に、千亜季もくるりと一回転して尻尾を見せている。
「静と千亜季も似合ってるね」
「うん、間違いなく二人とも可愛いな」
普段とは異なる着ぐるみパジャマを着た状態であれば、俺も『可愛い』という言葉は素直に出てくる。
「ありがと。……でも圭ちゃんには敵わないかも」
「かもねー」
「……んなこたねぇだろ」
何言ってんだ。女子歴の短い俺が可愛さで勝てるわけねぇだろ。いや別に勝ちたいとかそういうわけじゃないが。
「いやいや、そんなことあるんだよ」
さりげなく近づいてきた静がそのまま俺に抱き着いてくる。
「あ、ちょっと!」
咄嗟に佳織が声を上げるが、それと同時に千亜季も後ろから抱き着いてきた。パジャマ越しとは言え風呂上がりの体温を前後で感じてしまうが、風呂の中で佳織と抱き合ったほどではない。あの時は素肌同士だったのだ。それに比べればどうということでもない。
などと余裕を装っていたら、静が顔を近づけててきて頬と頬を触れさせてすりすりしてきた。
「いやーん。圭ちゃんのほっぺやわらかーい」
……うん、静のほっぺもやわらかいね。
「ちょ……、ちょっと静、何やってるのよ!」
反射的に俺と静を引き離そうとする佳織だが、残念なことにくっついているのは静だけではない。
「あはは、佳織ちゃんもおいでよ」
背中側に張り付いている千亜季が、楽しそうに声を掛けている。猫がペンギンとピカ○ュウに囲まれて団子になっているが、ここにうさぎも増やそうと言うのか。
「ほれ、遠慮しなくていいぞ」
半ば
「えっ……」
一瞬固まったかと思うと頬を赤らめて項垂れる佳織。恥ずかしがっているのかと思ったら、両手を握りこんでプルプルと震わせている。いつもなら鋭いツッコミが来ると思ったんだが今日は違うのか。まぁ風呂に一緒に入るとかいつもと違うことやれば、調子が狂うのかもしれない。
というか二人とも風呂上がりだからか、くっつかれると暑いな。
「圭一!」
暑いからそろそろ離れてくれないかなぁと思った頃、顔を上げた佳織が俺をキッと睨みつけてくる。そのままビシッと俺を指さすと。
「いい加減に二人から離れなさい!」
うむ、どうやらいつも通りだったようだ。矛先が急に俺に変わったのはよくわからんが、なんにしろ切れのいいツッコミだ。
「おう、それでこそ佳織だ」
「何がよ!?」
俺に向けている指をプルプルさせて額に青筋を浮かべる佳織。
「まぁどっちにしろだ。……暑いからちょっと離れてくれよ」
「ええー」
残念そうな表情をする静を引き剥がすと、部屋の隅に置いてある布団へと歩み寄る。二人が風呂入ってる間に敷こうと思ったが、やっぱり手伝ってもらった方が早いので待っていたのだ。
「それより手伝ってくれよ」
声を掛けるとそれぞれから返答があった。佳織は渋々といった声音だったが、一応手伝ってはくれるようだ。さすがに四人でやると早いな。三人分の布団はあっという間に敷き終わった。
「ぬぅ」
だがしかし、ベッドに置いてあった俺の枕だけが、床に敷かれた布団の上に乗せられている。ベッドを使わずに布団で四人で寝ることはもう諦めが付いているが、なんで掛布団まで三人分なんだ。
……しょうがない、自分でやるか。
「ちょっと圭ちゃん、何してるのよ」
ベッドの掛布団をいそいそと床へと移動していると、静に止められる。
「何って、そりゃ布団の移動をだな」
「えー、このままでいいのに」
「いやいや、どう考えても掛布団が足りねぇだろ」
「そんなことしたら圭ちゃんと一緒の布団に入れないじゃない」
「だ、ダメよ!」
なんとなく慣れてしまったやり取りにツッコみを入れたのは、言わずと知れた佳織だ。だが今回ばかりは俺も同意だな。布団から追い出されて風邪引いたらどうすんだ。いやまぁ、そこまで寝相が悪いとも限らんが。
「えぇー、ダメなのー?」
間延びした返答をしつつも、表情をニヤリと変えると。
「じゃあ圭ちゃんと一緒に寝る権利は、佳織に譲ってあげるね」
「なんでそうなる」
「……」
思わず静にツッコんでしまったが、珍しく佳織が反応しない。疑問に思って視線を隣に向けると、そこには顔を真っ赤にした佳織がいた。
「ほほーん?」
「あらあら?」
その様子を見た静と千亜季が何かを嗅ぎ取ったかのような声を上げると。
「やっぱり、お風呂で何かあったんじゃないの……?」
とてもいい笑顔で佳織に詰め寄るのだった。
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