第4話 サイズを測ろう

 大型ショッピングモールに到着だ。

 もちろん電車での移動中に、佳織にさんざん「足は広げない!」とツッコまれたことはここに記しておく。

 最初に向かったのはもちろんATMだ。自分の財布の中を確認したが、それはもう寂しすぎる内容だった。「それじゃ下着一着も買えないわよ」という佳織の言葉に、血の気が引いたのは記憶に新しい。


「さぁ、軍資金を補充したなら、さっそく第一目標へ向かって突撃するわよ」


 なんだか幼馴染のテンションがおかしい気がする。何かショッキングな出来事でもあったんだろうか。そう言って連行された場所は……。


「うおい! しょっぱなで難度MAXなお店を選ぶか!?」


「それはアンタだけでしょ」


「……いや、それはそうだが」


「というかその口調もどうにかならないの? せっかくの容姿が台無しなんだけど」


 佳織の言葉に俺はしばし考え込む。

 つまり女らしいしゃべりをしろということだろうか。幼馴染の佳織は佳織だから参考にならんし……。

 俺じゃなくて……わたくし? ……ですわ口調か?


「……そんなことを仰られても難しいですわ」


「キモっ!」


 俺の言葉に条件反射のように佳織がツッコむ。


「うわっ、佳織がひどいですわ!」


 それでもなお押し通そうとするが。


「ちょっと、ホントにそれはやめなさい! なんでそうなるのよ! あたしの口調とか真似してもいいでしょうに!」


「いや、お前はアレだろ。……佳織だろ?」


「……はぁ?」


「そういうことだ」


「――意味わかんないわよ!」


 さすがに「お前は女じゃねーだろ?」というセリフは躊躇われたのでやめておいた。超キレられそうだ。


「もう、とにかく、入るわよ!」


 結局俺の抵抗むなしく、佳織に背中を押されて下着ショップへと入るのだった。




 うむ。さすがに目のやり場がない。

 これはなんという罰ゲームだろうか。俺なんかしたっけ?

 いや佳織いじりは日常茶飯事だからカウントしなくてよろしい。


「まずはサイズ測ってもらいなさい」


「……うん?」


 なんだって? サイズを測る? なんの?


「あ、すいませーん」


 疑問に思っていると、佳織が手を挙げて手近な店員さんを呼んでいた。

 ああ、そういえばバストサイズを測るんだっけか。むしろそのために来たんだっけか。

 あまりにも目のやり場に困りすぎて忘れていた。


「ちょっとこの子のサイズ測って欲しいんですけど……」


「はい、畏まりました。ふふっ、妹さんですか?」


 なんですとっ!? 俺が、佳織の妹だとっ!? 昨日まで俺の方が背が高かったのに!

 歯ぎしりをしながら佳織と店員さんを見比べるが、そのときの佳織の優越感に浸った表情にイラっとさせられる。


「そうなの、この子こんなんになるまでサイズ測ってもらったことなくて……」


 はあっ!? こんなんになったのは今日だっつーの。測ってもらったことなんぞあるわけねーだろ。


「あらあら、じゃあサイズ測りに行きましょうか」


「行ってらっしゃい」


 満面の笑みで俺を見送る佳織。小さく手なんぞ振りおってからに。

 よし、反撃だ。


「行ってくるね。お姉ちゃん」


 俺の言葉に佳織の笑みが凍り付き、振っていた手の動きも止まる。

 少しばかり溜飲の下がった俺は、店員さんに言われるままにフィッティングルームへと向かった。


 ――なんじゃこりゃ!


 なんだこの広いフィッティングルームはっ!? そこら辺の衣料品店にあるフィッティングルームを想像していたが、まったくもって違う。

 目の前にはメジャーを構えた店員さんがいて……。って、そうか。二人が入る可能性もあるし、一メートル四方程度のフィッティングルームじゃ無理だな。


「はい、じゃあ薄着になってくださいね」


「はーい」


 上着から順に脱いでいき、一番下に着ているカップ入りキャミソール姿にまでなるのだが。


「あら、カップ入ってると正確なサイズが測れないから、ごめんだけどそれ脱いで、そっちのシャツを羽織ってもらえるかしら」


 おぅふ。なんてこったい。この柔肌を他人に晒すことがもう訪れてしまうなんて。

 ……なんて無駄に心の中で嘆いていると、スタッフのお姉さんが後ろを向いてくれた。

 いやまぁそりゃマジマジと見つめるスタッフさんはいないか。

 俺はそそくさと着替えるとスタッフさんに声を掛けた。




「……はい。上から80、57、87ですね。バストはCの65ですね」


「あ、はい」


 ふむ。そんなもんか。


「ショーツはSサイズから選んでくださいね」


「わかりましたー」


 またもや着替えてからフィッティングルームを出ると、佳織はいろいろと下着を物色しているところだった。


「終わったぞー」


「どうだった?」


 佳織は興味津々といった表情だ。そんなに俺のスリーサイズが気になるのか。


「上から80、57、87のCカップだって」


「ふーん。なかなかいいスタイルしてるじゃない」


 そうなのか。まぁ数字だけなら佳織とそう変わらないっぽいな。……つまり自分もスタイルは悪くないと思ってるわけか。


「じゃあ選びに行きますか」


 そうしてフィッティングルームエリアから出ようとすると、先ほどのスタッフさんがフィッティングルームから出てきた。


「ふふっ、何かありましたらまたお声掛けくださいね」


「はい、ありがとうございます」


「素直ないい妹さんでしたよ」


 そのままスタッフさんは佳織に一言を残して去って行く。

 佳織といえば、掛けられた言葉がまだ咀嚼できていないのか動きがない。


「――どこがっ!?」


 だが我に返った瞬間には、誰もいない空間にツッコんでいた。

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