第3話 歩き方は矯正すべし
パンツ穿いた。――ぱんつぱんつと連呼していたら佳織に怒られたのはこの際置いておく。
っつーか何このフィット感。女の子のぱんつってこんなにフィットするもんなの? ちょっと癖になりそう……。これは女物のぱんつを穿く……しかないですよね。どっちにしろ。
そしてブラはつけていない。というかカップ内蔵のキャミソールとか便利なものがあるんだな。
さすがにブラはサイズを測ってもらわないとダメだという話だ。幼馴染の使っている下着を拝めるかと思ったがどうもそうもいかないらしい。
そして下はキュロットスカートというやつだ。てっきりスカートかと思ったが違うらしい。膝上丈だが、慣れないスカートを穿くよりかは幾分かマシだ。上はキャミソールの上にシャツと薄手のセーターだ。
俺より背が高くなった佳織の服のせいか、自分の服ほどではないがちょっとサイズが大きい気がする。
しかしこのキュロットスカートとかいうやつに、自前の靴下がまったく合っていない。さすがに靴下まで合うものを要求するようなことはしないが。
「ところであなた……、お金はあるの?」
しかしさっきから俺のことを「あんた」とか「あなた」とか、名前で呼んでくれないのな。いやまぁ気持ちはわからんでもないが。……まぁなるようにしかならんか。
それにしてもお金か。
「銀行に行けばあるぞ」
もう一度言うが、俺の両親はすでに他界している。今は遺産で生活しているが、現金が自宅にあるわけではない。
ってか、どれくらいお金いるの? よく考えれば、服って何を買うんだ。実際に今着てみて思ったが、全身コーディネイトになるよな。
もしかすると一着だけっていうのもありえんだろう。明日になったら男に戻るんであれば問題ないが、そんな保証はどこにもない。
「……下ろしてから行きましょうか」
「……おう」
年度始まりの四月から大量消費されるかもしれない我が家の経済に、俺はめまいを覚えるのだった。
「ちょっと、恥ずかしいからそんな歩き方しないでよ」
自宅に寄って財布やスマホや銀行のカードなどを持って、大型ショッピングモールへと向かう道すがら、佳織にいきなり注意された。
「歩き方?」
「ぜんぜん女の子っぽくないのよ。そんなガニ股で歩かないでよ」
「いやいや、俺男だけど?」
「見た目が違うでしょ! 男っぽい女子とか男勝りとかのレベルとかけ離れすぎてるのよ! 目立ちすぎてるわよ!」
ヒステリックな佳織の声に、改めて周囲を見回してみる。そんなにツッコミ入れてたら喉がかれるぞ?
言われてみれば注目を集めている気がしないでもないが、そんなに俺って変な歩き方なんだろうか。まったくもって実感がない。
「そう言われてもなぁ。さっぱり実感がないんだが……」
「……そこまで言うならあなたも客観的に見てみなさい。動画撮ってあげるから」
うぬぬ。そこまで言うなら見せて貰おうか。女の子になっちまった俺の歩き方とやらを!
「……ごめんなさい」
自分の歩く動画を見た瞬間、俺は一撃で沈められた。
確かにこれはアカン。こんな奴が一緒に隣で歩いているとか悪目立ちすぎる。いやまぁ、確かに歩き方だけをみればまぁ、他にいないわけでも……ないと思う。ひどいけど。
が、いかんせん……俺が可愛すぎたのだ。まったくもって似合っていない。これが男勝りな雰囲気でも出ているならばよかったのだが、立ち姿だけをみれば、可憐なのだ。
自宅の鏡で見た時とはぜんぜん違う。適当に選んだとは言え、やっぱり服は偉大だな。
「つーか俺、めっさ可愛いな」
「……そうよ。少しは自覚した?」
何か悔しそうな表情で俺にドヤ顔をするという器用なことをやってのける佳織に免じて、歩き方に注意するか……。
しかし意識して歩くというのは難しいな。ふとしたことで他のことに意識を取られるとすぐに歩き方が元に戻る。
「……ひゃいっ!」
そのたびにわき腹を佳織につつかれるんだが、マジ勘弁してほしい。変な声が出ちまうだろうが。
隣を歩く佳織を見上げて睨みつけてやるが、逆に怯むことなく睨みつけられてしまった。お前の睨みなんぞ怖くもなんともないが、相手もそうなんだろう。だって俺可愛いし。
そうだ。ここで改めて佳織の容姿を説明しておこう。
髪はボブカットの色つやのある黒色。身長は百六十はあったかと思う。スリーサイズは先ほど述べた通り、出るところはきちんと出ていてキュッとした体型だ。
少し釣り目気味ではあるが、キツイ性格という印象を与えることはなく、活発さが伺える顔つきとなっていて、友人いわく美人の部類に入るらしい。
そんな幼馴染にわき腹を突っつかれながら二人で歩いているわけだ。
「さぁ、電車に乗るわよ」
「おう」
改めて言われなくてもわかっている。モールまでは最寄り駅から快速で一駅のところだ。
「ちゃんと女の子らしく振る舞ってよね」
「それは無理だ」
「はぁっ!? なんでよ!? 周りにも女の子がいるんだから、空気を読みなさい!」
俺の即答に佳織がキレるのだった。
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