第2話 着替えるしかないよね
「きゃあっ! 何やってるのあなた!」
幸いにして着ているシャツが大きかったおかげか、大事なところを佳織に見られることはなかった。もちろん自分でも見えなかった。残念。……まぁ後でじっくり見ればいいので残念がることでもないか。
「おっと……」
慌ててトランクスとズボンをずり上げるが、ちょっとやべーなこれ……。激しくそそられるシチュエーションじゃね?
……これが自分じゃなければ。
「まぁそんなわけだよ」
「ちょっ、わかったから……、ちょっと待って……」
立っているとズボンを押さえておかないといけないので、俺はそのまま自分のベッドへと腰かける。
佳織はと言うと、項垂れたまま眉間を指で揉んでいた。
「とりあえず服をなんとかしたいんだけど……、どうすりゃいいかな?」
「……服って、もちろん……下着もないわよね……?」
恐る恐る問いかけてくる佳織に、俺は胸を張って答えてやる。
「そうだな。彼女もいない一人暮らししてる男の家に女物の下着なんぞあれば俺は変態だな」
「……あなた、……ホントに圭一、なの?」
「だからそう言ってんだろ。真鍋佳織、誕生日は五月二十八日、血液型はA型、スリーサイズは上から85、60、90もごもご」
俺がせっかく圭一だと証明してやろうと情報を口走ってやったのに、その口を佳織が押さえてきやがった。誰にも聞かれる心配はないはずなんだがな。
「ちょっと! 何でアンタがそんなことまで知ってんのよ! 普通あたしが知られてると思ってること言うもんでしょ!」
「そうだっけ?」
「そうよ!」
肩で息をしている佳織を見やりつつ、なぜ佳織はスリーサイズを俺に知られてないと思っていたのか考察をしてみる。
……あ、俺がこっそり書いてあるのを見たんだった。はい、考察終わり。
どっちにしろこれでちょっとは信じてくれたかな。
「……で、どうしよう?」
俺の言葉に佳織は頭を抱えている。
うん。まぁ最終的には俺の服を買いに行くしかないんだろうけど。
「……ああもう! わかったわよ! ……とりあえずあたしの家に行くわよ!」
半ばやけくそ気味に叫んで俺の腕を取り、連行されるようにして部屋から連れ出される。
いやいや、それにしても佳織の家が近くてよかったわ。
ブカブカの靴に気をつけながら並んで歩いていて改めて実感したが、俺って佳織よりも背が低くなってるな……。
こいつに見下ろされるとか……、ぐぬぬぬ。
「お邪魔しまーす」
三十秒ほど歩いて幼馴染の家へと到着する。我が家の両親は早くに他界したが、佳織の両親は健在だ。
無言で帰宅する佳織を尻目に俺はいつものように挨拶をして家の敷居をまたぐ。
「あら佳織、もう帰ってきたの?」
階段を上る俺たちに、一階のキッチンからおばさんの声が聞こえてくる。
「あ、うん。またすぐ出かけるけどね!」
階段から身を乗り出して佳織が返事をしているが、またすぐ出かけるのか。
今後のことを考えていると、いつの間にか佳織の部屋へと到着していた。
「ほー」
全体的にピンク色で統一された可愛らしい部屋になっている。ぬいぐるみもいくつか置いてあるようだ。
高校に入って初めて佳織の部屋にお邪魔したが、まさに女子の部屋という感じだ。
「ちょっと待ってなさい」
幼馴染の部屋をぐるっと観察していると、佳織が奥のクローゼットを漁りだした。
次々と服がベッドへと放り出されるが、つまりこれは俺が着る服の候補ということだろうか。
ってかまじか、俺スカートとか穿くのかよ。勘弁してくれ。……っておいおい、あれはぱんつか? 幼馴染のぱんつ……、いや封をされているから新品か?
変な妄想へ飛びそうになったが、寸でのところで踏みとどまる。このぱんつが開封された状態ででてきていればやばかった。
「とりあえず着替えなさい。そんなカッコじゃ外歩けないでしょ」
「普通に歩いてここまで来たけどな」
「うるさいわね! いいからとっとと着替えなさい!」
「……ここで?」
「何言ってるの、当たり前じゃない。リビングとかで着替えたければそれでもいいけど」
「うぬぅ」
おばさんに裸を晒すとかなんの罰ゲームですかね。小学校低学年まではよくあった気はするが。まあしょうがない。
「何で新品のパンツとかあんだよ」
「……それは緊急用よ」
「ふーん」
緊急用ってなんだろ。まぁいいか。中古を渡されるよりはいい。
……むしろ中古がいいという意見もあるだろうが、それはこの状況に興奮できる場合だろうか。
自分のおっぱいを揉んだ時もそうだったが、今はまったくもって何も感じない。
……解せぬ。
とりあえずぱんつを袋から取り出して目の前にかざして確認してみる。
どっちが前だ? あぁ、こっちか。男物なら取り出す穴が開いてるからすぐわかるんだが。
ふと目の前にいる幼馴染へと視線を戻すと、こちらを穴が開くほど凝視している。
「……着替えを見られて喜ぶ趣味は持ち合わせていないんだが」
「――なっ! ばっかじゃないの! あたしにもそんな趣味はないわよ!」
俺が遠慮がちに述べると、佳織は頬を染めて慌てて後ろを向いた。
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