第3話 メイキング・オブ・アンコ

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【1D10:6】


 4・9    魔王城にレッツバーリィ


→その他偶数 \ 街で出会いを探す/ ←


 その他奇数 ダンジョンで出会いを探す


 10     熱烈歓迎


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 気の抜けるような電子音。

 2のナンバリングが振られ、再び動画は投稿された。


「おっしゃ! セーフ!」


「ありゃま……残念」


 芝生を掻き分け落ちたダイスを覗き込み、二人はてんで正反対の感想を口にした。いつの間にか六面ダイスが十面にすり替わっているが気にしてはいけない。


 ちなみに動画の再生数は今のところ絶不調で、コメ(非参加者)1、フォロー2の最底辺である。こうしてスタートダッシュに失敗した作品は、動画に限らず巻き返しが非常に難しい。


「ちぇ、折角魔王城行きの魔法陣スターロード書いて置いたのに……」


 横にスライドした画面。芝生を切り取られた一角には、おどろどおろしい瘴気と紫炎の波動を放つ陣が描かれている。

 陣そのものが唸っているのか、地の底より這い出る亡者の呻き声すら聞こえてきそうな負のオーラが、其処には吹き溜まっていた。


「ふっふーん、ダイスは絶対ですからねぇ!

 さぁ、とっとと街へ行きますよ!」


 タカハシは早速と、街へ向け振り歩きだした。一時の勝利に酔ってか、サザエさんのOPの締めみたいに、首と両手足をリズムを刻んで大きく振りながらの行進である。


「ま、いっかー」


 カメラはその背中を駆け足の速度、追い掛けた。



「はい、というわけでどうも、タカハシです!」


「ロキでーす」


 場面は切り替わり、タカハシは町中大通りに立っている。


 白いレンガや石造りの建物が並び立つ通りは石を敷き詰め舗装され、馬車にして二台程は行き交い可能な広さを有している。草原から確認出来たレンガ色の屋根からは煙突が伸び、日中にもかかわらず幾つかの家からは白煙が幾筋と立ち昇っていた。


 道の中央に立つタカハシ。人々は彼の姿を訝しげに一瞥しながら脇を通り抜けていく。背に大剣を背負った剣士や、樫の木の杖を手に外套に身を包んだ魔法使いもその中には含まれていた。


 タカハシのテンションの高さの理由は彼らにある。


「あ、ちゃんとOP入れておいてくれな。著作権ジャスラック煩いからちゃんと素材配布サイトから選んでな!」


「はいほーい」


 ゲーム、とりわけファンタジーで育った彼らの世代は、非現実への並々ならぬ憧れが強い。恐らく次の世代辺りは銃撃音鳴り止まぬ血で血を洗う世界FPSがリスペクトされる事だろう。


 憧れは男にとっては恋に等しい。下半身で考える事のない、純粋な恋だ。

 自己抑制の効かぬ興奮の只中にタカハシは居る。心の性欲チ@@が限界まで滾り、暴発も寸前である。


「おーっし、んじゃあまずは冒険者ギルドだな! 職業何にすっかなぁ、やっぱ剣士かなぁ?」


 つまり、そのウザさはノロケ話をするが如しであり、はたまた前戯を忘れたお猿さんだ。


 周囲を見ない。やたらアピールをする。聞いても居ないことを答える。足だけが前に出て平静を欠いていた。


 大通りの真ん中でパントマイムが如くワチャワチャ動き回るタカハシに、周囲の人々の視線は厳しいものへと変化していった。


「まぁまぁ、それは道すがら考えればいいよー。んじゃ、移動しよっかー」


「おうっ、そうだな! ええと、冒険者ギルドは……と、あっちだな!」


 おあつらえ向きに街を案内する地図が貼られた掲示板が民家の脇に立てられており、これまた都合良くタカハシはその内容を読解し、確認するや駆け出した。


 理屈はさておき文字数制限の関係もあるので神の御業としておく。


「まぁ、本題はソッチじゃないんだけどねー」


 大通りの先、街の中心部に差し掛かると大通りは一転、広場へと変貌する。円形にくり抜かれた空間に、中央には花壇に囲まれた噴水。外周をぐるりと囲うようにまばらながら露天が立ち並び、それなりの活気に包まれていた。


「えぇと、領主の館があっちだから……」


 屋根付きの台車一杯に並んだ色とりどりの花や、香ばしい香りを漂わせる肉の屋台。旅の商人が広げたシートに並ぶ、使い込まれた武具や道具。外れではバスケットを片腕に提げる主婦が井戸端会議を交わし、どこからか弦楽器の音色が曲を奏でている。

 遠く、教会チャペルの鐘が鳴った。


「よし、んじゃあ本題かなー」


 広場に差し掛かり周囲を見渡すタカハシと遠くに捉え、画面には一枚の紙が映し出される。


 1 くっ殺 2 ガチ☆ムチ 3 中二病 4 ろりBBA 5 歩く公衆猥褻僧侶 6 男の娘♂ 7 クーデレ盗賊 8 俺娘武闘家 9 ロバーズキラー 10 熱烈歓迎

 1D10


「こんなとこかなー」

 ずらりと書き殴られた一覧。紙が引っ込むと、今度はロキの手が現れ、手の平のそれをアップに映し出す。

 ダイスである。


「ほい、と」


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 【1D10:2】


 道端にダイスが転がり、数字が示された。

 正確には石畳の隙間に落ち込み隣の数字と際どい所であったが、この結果に大満足のロキは決定を下す。

 ダイスをつまみ上げ、天へ翳した。


 息を一つ吸い込み、


「因果の巡りにピピルピ~」


 口元に展開される魔術空間。唱えられる声は空間に捉えられ、捕らえられ、やがて力場を形作るキーとなる。やがて放たれた力がうねる触手のようにダイスへと伸び絡みつく。そしてダイスは応え、光輝いた。

 ロキの唱えた呪文に、カメラに映し出される一面の青海が混ぜ込んだ絵の具を垂らされたかのように一点からマーブル模様に歪み、淀み、広がった。

 一瞬にして街に夜が帳を降ろし、淀んだ空には七色のカーテンが波打った。


「え? 何だ! どうした! ロキ!? ロキさーん!?」



 それは刹那の光景であった。


 気がつけば街は暖かな日差しに包まれる穏やかな午後の風景を取り戻し、人々は何もなかったかの如く過ごしている。


「な、なんだぁ?」


 カメラはタカハシの元へ辿り着き、狼狽える姿を映す。

「しーんぱいないさぁー」


 トボけた声がタカハシに掛けられ、ロキの姿を認めたタカハシは画面一杯に顔を寄せた。


「何かやったんだなそうなんだな?」


「いやいや何のことやらサッパリですなー。ささ、冒険者ギルドに行くんでしょ?」


 しらばっくれるが、今正にロキの繰り出した神秘は世界を絶賛改変中であった。


 タカハシに出会わせるというただそれだけの為に、一人の人間をタカハシに向かわせるべく、幾人、幾万の事象がタカハシに向けて今ベクトルを操作されている。


 それはその人物を操るという単純なものではなく、あくまで偶然という形を整えるために組み替えられた細かな偶然の改変。

 砂場の砂金の如く、はたまた蝶の羽ばたきが如し小さな出来事の積み重ね。


 膨大な数の小さな事象が今、うねりを上げてタカハシに迫っているのである。



 ガチムチ兄貴をタカハシと出会わせる。ただそれだけの為に。



「すいっまっせーん」


 その場所は比較簡単に訪れる事が出来た。


 この世界に置ける時代は今、冒険者を必要とした背景が存在している。それ故にギルドは利便性の良い土地を確保しており、また活気づき認知度も高い。

 町の人に二度程尋ねた辺りで、タカハシは目当ての建物に到着する事が出来た。


 石壁で覆われた二階建ての建物で、一階は食堂も兼ねる為それなりの広さが確保されている。木の板の内装に、壁に飾られた剣や弓。奥に掲げられる大きな掲示板には無数の羊皮紙が貼り付けられ、見るに、そこで依頼を受ける事が出来るようだ。


 日中とは言えまばらに人気のある食堂を通り抜け、階段の脇のカウンターへ進みタカハシは無人の窓に呼びかける。


「あ、はーい」


 声は背後からした。

 見やると食事を取る一団の中に一人の女性が立ち上がり、口元を隠すように手を当てていた。


「今行きますー」


 もごもごと顔の筋肉を駆使する女性。いたたまれなくなり、タカハシも思わず後頭部に手を当て一礼を返した。

 図らずも食堂中の視線がタカハシに注がれていた。



「失礼致しました。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 ややあってカウンターの向こう、女性が座り微笑む。

 食事時を邪魔されたとは言え、皮肉の一片も感じさせない穏やかな笑顔である。


「ああ、えっと」


 緊張した面持ちでしどろもどろ、タカハシは切り出す。流石に都合よく相手から勝手に1から10までの解説というのは望むべくもない。コミュ症だからと世界がそこまで優しく出来ている筈はないのだ。


「その……冒険者になりたくて、ですね」


 何故か少し照れながらも、何とか主題を伝える事に成功する。

 いや、良く見ればカウンターに腰掛ける女性は美人である。建物中にふんだんに配置される窓からの日差しを受け、透き通る金髪は輝き、白い肌はキメの細やかさが見て取れる様だ。高く整った鼻に形の良い唇。たおやかな仕草の一つとってもサマになる。そして何よりボリューミィであった。具体的言うとThaたわわ・チャレンジ。


「はい、冒険者登録をご希望ですね。ではこちらの用紙にまずご記入をお願いします。それが済みましたら適正の審査がありますので」


「適正っすか」


「はい、例えば魔力の有無ですね。魔力容量や精霊適正が足りないと、流石に魔法使いになられても仕方ありませんので」


 世の中には職業に合わせて適正が付与されるケースも多いが、しかして本人の資質も重要なファクターになりつつある。特に顔付きネームドと言われる存在には兎角個性が求められる。


 ちなみにまぁほぼ流れはリスペクトであるので、わざとやっていると理解頂きたい。


「時にタカハシー」


 と、そこにロキが語りかける。

 カメラに映るその手には、勿論ダイスがつままれていた。


「職業を決めるとしましょうぞー」


「……え、ちょっと待ってロキさん。職業くらい自分で選んでもいいじゃないですか……」


 振り返りそれを見、耳にしたタカハシは目に見えて狼狽えた。


 タカハシが成りたいのは勿論勇者であるからだ。

 んなもん無いのだが、まだタカハシはそれを知らないし、知ったら知ったで無難に剣士辺りを選択するだろう。男の子故。


「まぁまぁ、ここでようやくキャラメイキングですぞー。

 候補はこれっ! どどんっ」


 ロキは紙書かれた一覧をタカハシに突きつける。


「……?」


 カウンターの向こうで女性がキョトンとしている。


 1 剣士 2 戦士 3 魔法使い 4 遊び人 5 盗賊 6 ノービス 7 勇者 8 アサシン 9 ニート 10 熱烈歓迎

 

「こんなトコかなー。他に希望があったら追加するよー」


「お、勇者があるじゃんてそうじゃねぇだろてゆうかニートてなんだ職業か職業なのかこれぇ!」


 ロキから紙をひったくると、引き裂きそうな勢いで力の限り喚き散らすタカハシ。


「……警備業?」


「守ってんの自宅じゃねぇか! てゆうかそもそも自宅ねぇし!」


 最早待たせている女性の事も食堂に残る人々の事も眼中になく、憚らず絶叫する。とは言え所詮冒険者荒くれの集まる場所、多少の騒動は慣れっこである。


「まぁまぁ落ち着きたまえよタカハシー。要はダイスで良いを出せばいいのだー」


「くそっ! というか一番気になるのが最後だ! 何だよ熱烈って」


「パルプ@テ」


「やめろくださぁあああああい!」


 タカハシの今日一番の絶叫が、食堂の歓談を打ち消し建物中に響き渡った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 という訳でまたダイス振ります。

 次は恐らく本日23時。


 細かいフレーバーは次の話中で。


 参加しても別にいいのよ? (チラッ


 いやホント一人相撲は寂しいですたい。



 

 




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