第3話 猫をじゃらす

 優輝はとぼとぼ歩いていた。

 高校の部活の途中気晴らしに昼飯を買いに抜け出し、コンビニで牛乳やサラダや菓子パンを買い込んで帰る途中。気が重かった。

 文化祭に向けての打ち合わせで軽音部の連中と衝突した。意見が合わなすぎる。

 コピーバンドで行くか、オリジナルの曲をやるか。両方か。そこから意見が分かれた。

「無難な曲じゃなきゃ皆聴いてくれないでしょ」

「でも、自分たちのオリジナル曲を大勢の前でやるチャンスなんてなかなか無いんだから、やってみたい」

 それは優輝の意見。

 とりあえず、コピーの練習しよう…と皆が好みの音源を持ち寄ったが、見事にばらばらだった。

「今は、コレでしょ、ヤバT」

 と言うギター。

「そんなマニアなんじゃなくて、誰でも知っているGReeeeNじゃね?」

 と言うベース。

「GUNS N' ROSESが良い」

 と言いだすドラム。

「そんなレベル高すぎる!」

 と泣きが入った。

 優輝は

「どれでも良いよ。それと、自分たちの曲をやろう」

 …と提案し続けた。

「このバンドに何を期待しているんだよ!」

 と言われた。

「お前らこそ、何も期待していないのかよ!」

 別にプロに…って思っているわけじゃ無いけど、だからこそ、こんなチャンスにやってみたいじゃ無いか。

 そんな話し合いが続いて、練習もままならない。

 疲れた…優輝は何度もため息をついた。つい下を向いてしまう。

 そしたら、足元で、ミーミー言っている物体を見つけた。二匹の仔猫。黒とキャリコ。じゃれ合って、そのままくっ付いて丸まって眠った。

 何だこいつら…平和だな…猫になりたい…そう思った。

 しばらく見ていたけど、歩き出そうとした時、バサバサっと羽音がして、目の前の柵に黒いカラスが止まった。

 あ…こいつら、狙われてる…?呑気に寝てるから…このまま離れたらどうなる?せめて目を覚ますまで…とその場に留まった。

 鼻をヒクヒクさせて何かを探しながら眠っている。腹減ってんのか…そう思ったから、しょうがねぇなぁ…とサラダの蓋を引っぺがして波波にミルクを入れて鼻先に置いてみた。

 悪いけど、こいつらのことは諦めてくれない?代わりに、俺のパンやるからさ…と、カラスの止まった柵の下に昼食のパンを投げてやる。カラスがちらりと視線を送った気がした。

 何て呑気な奴らだ…ずるずると、眠ったままミルクに突っ込んで来た。面白すぎるぞお前ら。競うように飲み続け、そして、目を覚まして。急に見上げられびっくりした。これ、動いたら負けなやつ?と思って動けないでいると、指先を舐められた。うひゃあ。どうしたら良いんだ。動物を飼ったことがない優輝は焦った。でも二匹が競うように寄って来るので、何か期待に答えなくてはいけない気がして来た。 投げた棒をとって来るのは犬だよな。猫は何だ?あ。猫じゃらし?そう思い付いたので、側にあった枝を地面すれすれで揺らしてみた。

 あ〜猫じゃらしって、こういう事なんだ…と感心するくらい、喰いついてきた。

 暫し遊んでいたけど、学校に戻らないと敵前逃亡したと思われる。幸いカラスもしびれを切らしたのかパンを掴んでいなくなった。契約成立かな。

 お前ら、少しは生存本能見せろよ?と言い残し、歩き出した。

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