この六畳間にはあまり女子を主張する物がないな、と葵はぼんやりと部屋を眺めた。壁に沿うように設置された折りたたみ式のシングルベッド、その隣に漫画しか入っていない本棚、部屋の中央に小さな木のテーブルが置かれている。漫画も少女漫画らしい白と赤は見られず、テーブルの上にはノートパソコンだけがある。ベッドにネコ紛いなぬいぐるみがかろうじて女子の雰囲気があるか、と独りごちてノートパソコンの画面に目を戻した。

 画面には、無料通話アプリの画面が映し出されていた。画面の中央には、通話相手のアカウンド・アイコンが一つ。黒背景に白文字のゴシック体で『全知』とだけ書かれている。通話アプリの背景に混じって、『全知』という文字だけがノートパソコンの画面上に浮かび上がっているようにも見えた。

「うーん、やっぱ女子っぽい部屋ではないかも」

 葵が口元のヘッドセット・マイクにはにかむ。画面上の『全知』がそれに応じるように点滅し、ヘッドセット・フォンに言葉が流れる。

「それでは、女子力は乏しいと言わざるを得まい」

 葵の耳元に、加工された機械音声が流れてくる。通話相手『全知』の声だ。葵は声の様子には気を留めずに『全知』の言葉に賛同した。

 二人は「女子力」についての話をしているらしい。取り留めもない会話。とりあえず話題をこしらえてきたような気楽さで葵は苦笑している。

「まぁ、女子力はボチボチでいいんじゃないかな」

 旗色の悪い会話に終止符を打つようにそう結んで、葵はもう一度部屋をぐるりと眺める。よく見るとベッドの上のネコもそれほど可愛らしくないなと首を傾げた。

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