エピローグ(4)

「——さて諸君。俺たちはここまでやってきた」


 この舞台に至るまで楽な試合はなかった。だが俺の集めた最強メンバーは、試合毎に成長を遂げ、決勝まで導いてくれた。


「ここまでで、優勝候補は次々に脱落しました」と夏希マネージャー。「ヨーロッパの強豪を数々撃破してきたセルビアは名将オットン・ハイマー監督の率いるチームです」


 そう、オットン・ハイマー監督は、わざわざビッグクラブからの誘いを断って、この舞台で勝ち上がってきた。


 その意味を俺が理解しないわけがなかった。


「コンパクトな中盤のパスサッカーを主軸に、時に畳み掛けるプレスからのショートカウンターに注意してください。かと言ってそれだけではなく、アンカーの10番にはロングボールがあり、多彩な攻撃を持っています。最も注意すべき選手です。中盤の底にエースナンバーを背負わせるのは伊達ではありません」


「うお!? 佐竹マネが成長してる! めっちゃ、それっぽいこと言うてる!」


 夏希は眼鏡をきりりとあげた。


「私だって成長します。あと杏奈ちゃん。佐竹マネではありません。どうか月見マネと」


惚気のろけか! それは惚気なんか! 自分らだけ幸せになりやがって!」


「杏奈ちゃん、巷じゃ、ツインテお化けの二つ名が知れ渡っています。今日活躍すれば、一層ヒロインとして名を馳せることでしょう」


「うぉぉぉぉ、やったるでぇ! 目指せ国際結婚!」


 乗せるのも上手くなっていた。


「はーい、そこぉ。目的を履き違えないよーに」


「なんか、この空気懐かしいね」


 と、紬。


「煩いだけよ。特にアンコちゃんは」


「でも、またやれて嬉しい。紫苑もそうじゃないの?」


「バカね、そうに決まってるじゃない」


「……紫苑がツンデレない?」


「和んでいるのもいいけどさ」ここで香苗が不安を口にする。「真穂に環に舞の独創的トリオはどこ行ったのさ?」


 皆、周囲に視線を向ける。


 姿は見当たらない。


「ああまた!」


「なんであの子たちはいっつもどこかへ行ってるのよ!」


「探せ! なんとしてでも探し出せ!」


 それから十分後、真穂はスタジアム外の公園で子供たちとサッカーしているのが見つかり、環は蝶々に連れ去られようとしたところを捕獲。舞に至っては、女子トイレで持病のひきこもり症が出ていたらしい。ようやく三人が見つかったかと思えば、腹を空かせた心美が食べ歩きに向かう始末。


 なんやかんやで試合には間に合ったが。


「……あかん、もう疲れたで」


「問題児ばかりで、ほんともう、このメンバーでキャプテンやるのこれっきりにしたい」


「けど、由佳。なんだかんだで楽しいくせに」


「まーね」


 と笑顔を見せてからいつものように円陣を組む。


「じゃあ、切り替えて。行くよ。イシュタルぅ~」


 きょとんとするメンバーたち。


「……………………由佳、それ違う。ここ代表だから!」


 冷静な指摘をした香苗。

 顔真っ赤の由佳。


「このメンバーだから癖で!」


 くすくすと、笑いあい、緊張もほどよく解れた。


「こほん。では改めまして」



 さて、俺たちのサッカーを始めよう。



 何度でも頂へ。

 幾度となく高みへ。

 歴史と伝説を残しに。

 そしてどこまでも遠くに。




「「「行こうGo for it!!!」」」




      (完)

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