軌跡(5)

 季節は十月を迎え、すぐそこまでやってきている冬の匂いを感じた。


 逃げも隠れもできず、毎週試合はやってくる。


 第二十八節は序盤でセーフティリードを得られたため、後半から新シフトを試すことにした。が、これが噛み合わないまま、終盤までに一点差までに詰め寄られた。試合が終了するまでほとんど気合いと気迫と根性と、とにかく曖昧で不確かな精神論で逃げ切った。


 ブサイクでも勝ち切って連勝を七に伸ばした。


 リーグ五位である。


 俺たちが連勝している間に、上位チーム同士のぶつかり合いがあって、勝ち点差は縮まっていた。いよいよ、勝負はわからなくなってきた。


 ちなみにTGAは格下の大番狂わせに遭い、現在リーグ四位で足止めを食らったようだ。


 しかしここからのホームゲーム二連戦は、優勝を占う上での大一番である。


 現在リーグ三位の川崎と——。


 まだゲーム前だと言うのに、大歓声に包まれていた。


 リーグ二位の埼玉である。


 相変わらず埼玉サポーターは熱い。十月が運んできてくれた冬の肌寒さを押し除けるほど。アウェイというのにスタジアムの一角が赤一色に染まっていた。負けじとイシュタルサポーターも声を上げるが、押し負けていた。これではどちらのホームゲームか怪しいところである。


 けれど、俺は観客に素晴らしいゲームを見せると誓い、ロッカールームに戻った。


「先発――」


 GK皐月。


 DF彩香、萌、芽。


 中盤、左サイドハーフ紫苑。右サイドハーフ杏奈。アンカーは心実と由佳。攻撃的ミッドフィルダー、環&舞。


 そしてワントップ、香苗。


 3-6-1。


 これが選手たちと話し合った結果、見出した最強の布陣。……のはず。このシフトで前回は一点も取れず二点も取られたが。


「攻撃時、サイドが跳ねてスリートップパターンや、シャドウも前で貼ってファイブトップに動いたり、遅攻の場合、中四人が流動してかき回したり――」


 俺はマーカーを動かしながら、改めてこのシステムの動きを確認した。


「頭が……爆発するで!」


「心配するな、杏奈。君はコートをシャトルランしとけばいい」


「ご無体な! 百二十メートルを走らせるとか、ほんま鬼畜やで! 暴君健在やな! でも飼い慣らされた杏奈ちゃんは、献身的なサイドのヒロインになったるんやで!」


 今日もツインテが決まっている。


「注意したいのは紫苑が切り込んでくる際、舞がクロスして背後に心美が入る。その時、杏奈もたぶん上がってるだろうから、由佳と芽の担当エリアが広がること」


 これまで主に左側を由佳、右を心美で使っていたが、バランス的に守備も悪くない由佳を杏奈の穴埋めとするため、右センターに置くことになった。本当に細かいことだけれども、前回はやはりその小さな隙を突かれたのだ。


 また、途中で入れた真穂がうまく噛み合わなかったこともあった。いつもならウイングで張っているどちらかに縦への選択がすぐにあったが、一列下がっている分、真穂はワンテンポリズムを遅らせなければならなかった。それゆえフィジカルで劣る彼女は何度も急襲にあい、カウンターを喰らう羽目になった。


 ただし、真穂と環が1・5列目に入った際、面白いことが起こる。それを知れただけでも前回試した価値は十分にあった。よって、真穂はバスケで言うところの、流れを変えるシックスマン的立場である。


「さて、行こうか」


 前回は惜敗した埼玉。


 このチーム相手にどれだけやれるかで、俺たちの真価が問われることだろう。


「残り六つ」


 由佳が手を出した。


「常に前進。常に貪欲に。私たちはここにいる。Live and let live !」


「「「We are イシュタル!!!」」」

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