18章
軌跡(1)
ホームゲームとアウェイ戦を一戦ずつ挟んで、アウェイで対戦するはユナイテッド・鹿島。名将榎木監督の率いる優勝候補の一角。
現在リーグトップである。
前半戦でイシュタルFCと鹿島の決着はつかなかった。
この日俺たちが選択したフォーメーションは3-4-3。4-4-2の美学を崩さない鹿島に対する選択だ。相手最終ラインの間にフォワードを配置させ、紫苑と舞のディフェンスにとって嫌な選手を配置する構え。
これにより、左足も使える環が左サイドハーフ。右には杏奈で、中は由佳&心美。ディフェンスは中央が萌の左に彩香、右に芽。ウイングは紫苑と舞。
真穂はまた先発落ちだった。
「何よりも今日の要は香苗、君だ」
「オッス!」
「CB二人を引き付けて、両翼を生かして欲しい。できるな?」
「できません」
「素直でよろしい。ということで、紫苑と舞はウイングというより、センターフォワード寄り。その下をセントラルMFの二人で支える」
この間は17番の対処で仕事をさせてもらえなかった中軸の二人だが、今日はタスク負担を背負ってもらう。
「時にサイドハーフが展開」
俺はマーカーをあげた。
「攻撃時にはファイブトップ。3-2-5で、完全な数的有利を作る。由佳と心美が肝だ」
「言うなればまるでこれは」
宮瀬がお得意の何かを言おうとしていた。
「アウトレンジ戦法と言えましょう。空母機動部隊が展開する、まるで艦載機が自由に縦を跳び回り、相手の懐に奇襲をかける戦法」
「なぬ! なれば今まで快速だった杏奈たんはまさに零戦的活躍を求められるにゃん!」
「チッチッチ、甘いで、おたま。ウチは零戦の後継機、『烈風』と言っても過言ではあらへんのやで!」
こいつらサッカーしかやってこなかったのに、よく知ってるな。
「けど、杏奈たん。烈風は敗戦により開発中止なのだ。縁起が悪いにゃ」
よく知ってるなほんと。
「にゃけれど、時代はジェット機。たまちゃんはF-14トムキャットなのだ! 猫っぽくて可愛いいにゃん。杏奈たんは当然、MiG-31のフォックスハウンド」
「キツネ狩り? ショボない?」
「別名、直線番長にゃん」
「まさにウチのためにある!」
「おーい、お前らー、戻ってこーい」
さてはこいつら、飛行機ゲーでもやってたな。ま、リフレッシュしてくれるならゲームでもなんでも大いに楽しめばいい。
こんな風にゲーム前ムードがいいのは、五連勝という結果が出ていたことだろう。
現在ゲーム差なしの七位。
再び、上位が見えてきた。
後半開始後の連敗や引き分けを完全に取り返したとはいえ、勝ち点差を考えれば、上位との差はまだかなりある。これからの直接対決で上位チームから勝ち点をもぎ取ることが必要だ。
もちろん、リーグ前半時より、どのチームも完成度を上げてきている。
今まで以上に厳しい戦いになるのは必然。
「じゃあ、キャップ」
そう呼ぶと、由佳が手を出し、皆重ねていく。
「私たちは立ち止まらない。一歩ずつ進む。その先が頂へと通じていると信じて。Live and let live !」
「「「We are イシュタル!!!」」」
ゲーム開始前、俺は榎木監督と握手を交わした。
「突き放されても突き放されても食らいついてくる。本当に君たちはしぶといよ。今回の試合、僕は幾度となく君たちを倒す方法を考えた。だが結果は見えなかった。君たちが何をしてくるのかという不安を、まさかこの僕は感じていたようだ。だったら、やることはシンプル。自分たちのサッカーをやるだけ。お互いベストを尽くそうじゃないか、月見くん」
「玉座から引き
「自信ありげと言ったところか。だが、わからんね。あの10番を外すのはある意味で大きな賭けに出たな。まあ、僕が君の立場だったら同じことをしただろうけれどね。彼女には何をやってくるかわからない怖さがある。だけれど、いつも極上のプレイをできるわけじゃない。その点、彼女は大きな武器でもあり、同時に弱点でもある。もしも今回彼女がスタメンだったら、各チームが君たちにやってきた方法をなぞらえて、徹底的にデッドロックするつもりだったが、君は冷酷な指揮官になり始めたようだ」
そこで榎木監督は不敵に笑った。
「ようこそ、戦乱の世へ。歓迎するよ、新米皇帝くん」
そして第二十七節が幕をあげる。
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