17章

おれたちがかんがえたさいきょうのさっかーちーむ(1)

 九月の第一週。


 こよみでは『陰気いんきようやく重なりて、露こごりて白色はくしきなればなり』と言われる白露はくろの季節であるはずだが、夏の駄々っ子は強い存在感を示しており、未だに暑さは尾を引いていた。


 そんなデイゲーム。


 前節を辛勝した俺たちは、ホームで超攻撃的チームの大阪を迎えることになる。


 第二十五節。


 まだ少し時間があったが、なぜかホワイトボード前で仁王立ちの杏奈。


 ツインテールの準備は万端。


「監督、聞いて欲しいことがあんねん」


「な、なんだ……?」


「今日のウチは激速かもしれん」


「そりゃ朗報だ」


「なぜかって、昨日測ったら、おっぱいがワンサイズ落ちとってん!!!」


「……ご愁傷様です」


「この恨み、宿敵に返したる!」


「さらに凹みそだねー」真穂が容赦のない追撃。


「もう知るか! 絶壁板パイも、それはそれで需要があるって聞いたもん!」


 涙目の杏奈。


「俺は好きだぜ。杏奈のツインテ快速」


「つまり無乳になっても拾ってくれるってことやな!?」


「そのためには、クロスの精度とドリブルテクと守備の向上と、決定力と対人戦の強さが欲しいな」


「やること多!」


「ああ、現代のサイドの選手はタスクが過多になりつつある。ここ何節か、ちっぱいランナーに助けられてばかりだった。だからタスクを軽くしようと思う」


「今週試した4-5-1?」と、由佳。


 俺は頷いた。


「杏奈の新しいポジションを命名する」


「お、なんやそれは」


「ウイングハーフ」


「なんやカッコええ響きやん! テンション上がってきたでぇ!」


「これは攻撃も守備も任されるサイドの覇者という意味だ」


「ツインテ快速が支配するウイングハーフ……」


 杏奈は震えて喜んでいた。


 やっぱり扱いやすくていい。


「それから右サイドバックを三岳」


 センターに萌と復帰した芽。左サイドに彩香。


「同じくウイングハーフに紫苑。トップ下に環。他はいつもの場所だ」


「私が中盤ってのは若干不安が残るけれど」


「紫苑にはもっとプレーの幅を広げてもらう。君は中への切り込みと、その得点力が売りだ。そこにクロスが加われば、敵はもっと警戒せざるを得ない」


「それはまあ……構わないのだけれど、守備は期待しないで」


「期待してるぜ」


 やってくれなきゃ困る。


「環はなるべく前線をかき回しつつフォロー」


「忍び寄るにゃんこウォークだにゃん」


「走ってくれ」


 と言った感じで、程よく緊張も解れたところで円陣。


 由佳が出した手の上に選手たちの手が重ねられていく。スタッフ陣が手を重ね、俺も最後に手を重ねた。


 そこには一つとして同じ色のないミサンガが結ばれている。


「もう泣きたくない。もう後悔なんていらない。欲しいのはただ勝利。皆んな、力を貸して」


 由佳はたくましくなった。いや、皆そうなのだけれど、今週、誰も置いて行かれなかったのは、彼女の存在が何よりも大きい。


 試合が始まれば俺がやれることはほとんどない。


 彼女たちが戦うしかない。


「道は自分たちで作るもの。自分も生きLive and自分も活かせlet live!」


「「「We are イシュタル!!!」」」

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