第2部
キックオフ
晩秋の風は真夏のように熱気を運んでくる。
紅葉したスタンドは勝利を信じて、声を枯らし声援を送ってくれていた。季節をひっくり返すほどの熱気で。
リーグ最終節、優勝をかけた争い。リーグ三位につける俺たちと、二位につける宮崎ファルコンFCの勝ち点差は2。勝てば自動昇格が決まる直接対決。
俺はスコアボードを見上げ、歯ぎしりをした。
魔法は不発。
時計は九〇分をとうに過ぎていた。
もう……。
諦めが脳裏を過る。だが、真綿で
相手FWがボールを持った。駄目押しゴールを狙う気だ。一人、二人、三人とイシュタルFCの選手は吹っ飛ばされて行く。
まるでトランポリンのように天高く飛び、星になって、帰ってこなかった。
そこでようやく現実ではないことに気づいた。
だが夢の覚め方がわからない。
足元に
ブーイングが雨のように降りかかる。
ペットボトルが投げ込まれ、『帰れ』コールが響く。
背後では
「見てください、監督。私、上手になりました」
なんだこれ……。
「なんなんだよこれェェェェ————————っ!?!?」
——そこで俺はハッとした。
寝汗をびっしょりかいていた。
荒ぶった呼吸を整え、俺は頭を抱える。現実の認識が追いついてきて、夢……か、と心で
まだ外は暗かった。
ざーっと雨の音が響き、たくさんの
まだ梅雨の開けない六月の後半。
ふと見を起こすと、テレビが付けっ放しだった。
——ああそうか。また寝落ちしたのか。
画面には、次のファルコン戦の録画が再生されていた。
正夢にならない保証もなかった。もちろん非現実的なことは起こり得ないだろうが、手も足も出ずに敗北することは案外、簡単に起こり得る。
テレビを消して、俺は冷蔵庫へ向かった。ミネラルウォーターで
ベッドですやすや眠る佐竹さんを
「よお、月見。お前にいい知らせがある」
男の声。
どこかで聞いたことのあるような気もしたが、思い出せなかった。
「えっと、どちら様でしょうか?」
「んなことはどうでもいい。お前を欲しがってるクラブからのラブコールだ。月見、今すぐ荷物をまとめてスペインにこい」
ああ、向こうはちょうどナイターゲームが終わったくらいか。
「二年契約だ。あちらさんはお前のために左ウイングを開けてくれた」
次第に頭の働いてきた俺は「え?」と言葉を返した。
「選手に戻れ、月見。お前の居場所はそこじゃない」
トクン——と心臓が
雨の音が脳にまで響いてくる。
夢じゃないらしい。
古傷がジンジンと
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