真賀田コーチと練習試合(7)

 翌日のオフ、俺と真賀田は言い合いを繰り広げていた。

 俺が至って真面目に2バックシステムを採用すると言ったのを猛反発。


 頭が可笑しいのかとか、選手は監督の玩具じゃないとか。


 挙げ句の果てには、意表をつくことばかり考えていたからネタ切れになって選手を辞める羽目になったのだとか。


 散々な言われようだった。


 俺は丁寧に自分の意見を説明した。

 これはあくまでも意識上の形であって、基本は4-3-3の変則系であり、もっとも選手の才能を活かすことのできる布陣だと力説した。


 じゃあ明日、選手自身に意見を聞こうという事になり、俺と真賀田は翌日まで一切口を聞かなかった。


 俺達の様子を察してか、佐竹が必死に仲を取り持ってくれようとして、「こういう時こそ、飲みニケーションです」とか「サッカープレイヤーらしく、一対一で勝負を決めては」とか提案したが、共に突っぱねた。


 どうやら真賀田は頑固者らしい。いや、俺もだろうが。

 そして翌日、練習前に選手達を集めて新システムを発表した。


「月見監督と話し合った結果、次の試合、新システムで戦うことにしました」


 真賀田は未だに納得していない表情のまま、マグネットをホワイトボードに貼り付けていく。


「ファイブバック……?」

「ボックス型の中盤?」


 と選手達は疑問を口にしていた。


「基本形はツーバック、スリートップ」


 選手達は眉を寄せた。


「2-5-3。攻撃的オフェンシブMF二枚に守備的ディフェンシブMFを三枚の中盤」


 細かくいえば、2-3-2-3。

 ただし意識上の基本形だ。


 守備的MFはストッパー兼CBの役目を請け負う。

 守備時には中盤三枚の後ろにSWスウィーパーを二枚置く形。

 そして攻撃時には最終ラインの二人以外の全員が攻撃参加する。


 ポジションによらず、前のFWとOMFの五枚が常に流動して、中盤底の三枚が前線を支える。スペースが空いた時はDMFの両翼が積極的に縦を狙う。


 今まで以上に個々の運動量は上がり、オールマイティな役割を求められる。


「これがこのシステムにおける月見監督の狙いです」

「重要なのはCBの役目もあるボランチ……」


 選手にもこの布陣の核をすぐに理解できるくらいには戦術理解力はあったようだ。


「でもコーチ。スタメンはどうなん?」


 杏奈が素朴な疑問を投げかけた。


 真賀田が俺の目を見たが、俺はどうぞと役目を押し付けた。

 真賀田は淡々とした口調でメンバーを発表する。


 ゴールキーパー岡島真奈美。一瞬の集中力と反応速度が素晴らしいし、昨シーズンもフル出場したことから経験値的に外せない。


 CBはずっとAチームのCBを務めてきた、羽馬愛依と芽依姉妹。朗らかさはチームのムードを和ませる存在だ。しかし頭の方はおっとりしておらず、的確なコーチングとカバーリングの速さがセールスポイント。


 要のDMF中心は大東心実。ゴールデンレトリーバのようにふわりと気品漂う長髪と穏やかな表情に豊穣な胸に思わず目がいく。


 そのプレイスタイルは変わらず堅実だ。Bチームに一度落としたとはいえ、ほかに適任者がおらず戻した。守備力はディフェンス経験者に比べて劣るが、成長してもらわねば困る。チームの舵を取る役目。


 右DMFに庄屋玲奈しょうやれな。十七歳の成長株。プレーに派手さはないが堅実な守備、俊敏性、器用さと三拍子揃っているユーティリティプレイヤー。フランクな言葉遣いに加え、金髪のメッシュ入りの見た目から、俺の中でのあだ名はパンクギャル。


 左DMFは数少ないレフティの斑鳩琥珀。小柄ながらも豊富なスタミナと根性を持つタフネスさ。縦へのスピードは攻撃と守備の両方で活きることを期待している。


 OMFの右は棚町三葉。彼女もまた昨年までBチームに甘んじていたものの、チーム一のスタミナで決して走り負けしない。デコイとしてかき乱し、守備時には中盤を走り回る役目だ。元気さはチーム一。


 そして左OFMには白井真穂。本当はトップ下一枚として使いたかったが、体力面の不安は付きまとう。このことから真穂をもっと活かせるシステムが2-5-3という変則的なものに出来上がったのである。


 つまり、真穂のためのシステムだ。


 次はFW。右が傘折結月。彼女の本来のポジションはボランチだが、ロングボールの精度の高さからウイングとしてクロスを放り込む役目だ。


 左が水鳥杏奈。スピードは言わずもがな。ツインテに関西弁とキャラが濃い。


「よっしゃあ! やったるでぇ~」


 あと声がでかい。


 そしてCFWの発表を前に選手全員に緊張が迸った。

 香苗はぎゅっと膝下で拳を握り締めていた。


 真賀田が最後の一人を発表しようとする寸前で、俺は「ちょっとその前に」と横槍を入れる。


 どっと張りつめていた緊張感がぷつりと切れ、皆が俺の顔を見た。


「香苗にはキャプテンを外れてもらう」


 香苗は血相を変えて、立ち上がった。

 皆のざわめきも当然だ。戦力外通告を言われたようなものなのだから。


「ちゃんと説明してください」

「ああ、説明するよ。だから落ち着いて聞いてくれ」


 俺は選手一人一人に目線を合わせて、俺の話を聞く気があることを知ると口を開く。


「ただし、チームキャプテンは今まで通り香苗で行く。ゲームキャプテンは香苗以外で行くという意味だ。誰にするかはまだ決まってない」


 できれば、守備的MFの三人の中からか、あるいは最終ラインの二人、もしくはキーパーの真奈美の内の誰かに務めてほしいと思っている。


「勘違いしないでほしいのは、香苗がキャプテンに向いていないからという理由じゃない。俺は香苗の負担を減らして、試合に集中してほしいと考えてこうする」


 キャプテンには冷静な判断力と精神的支柱の意味がある。

 確かに香苗には後者の能力は誰よりもあるだろうが熱しやすい。


「このチームは全員守備全員攻撃を目指しているのに、香苗中心にボールを集めるという矛盾を抱えている意味でも、香苗をゲームキャプテンから外す」


 香苗は何かを言いかけたが、俺はスタメンの最後一人を発表するように真賀田に目を向けた。


「CFWは吉村香苗。点取り屋は任ます」


 すかさず真賀田がフォローを入れてくれ、俺はほっと胸をなで下ろした。


 とはいえ、昨シーズンのスタメンほとんどが外れての補欠組リザーブからの抜擢。Aチームで先発だった者といえど、本来のポジションとは違う場所での起用だ。当然選手達は不満の表情を拭えないでいた。


「しばらくこれで様子を見る。二月の残り、二つ練習試合がある。ダメそうだったら修正するが、その場合は昨年と同じような結果になると思っておいてくれ。あと、俺に意見があるやつは残ってくれ。以上、解散」


 と言ったが全員がその場に残り、俺は全員から厳しい追及を受けるのであった。

 女子の団結力とは恐ろしい。


 追及されたというか、一方的に不満を言われ、責め立てられただけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます