第8話 『翠浪の白馬、蒼穹の真珠』を書き終えて

 今回、初の長編ネット小説にして中華風ファンタジー『翠浪の白馬、蒼穹の真珠』(以下『翠浪』と略称)を書き終えて公開した。幸いにして、更新を追ってくださった方、感想や応援をくださった方々に恵まれ、本当にありがたいことである。

 

 それで、作者は基本的には「言いたいことは作品で語ればそれで充分」というスタンスなのだが、執筆の自己目標と到達点、また頂いたご感想やコメント等からも気が付いたこと、勉強になったこと、反省点が幾つかあるので、それらを本人の備忘録として書きとめておきたい。ただ、思いついたままに順不同で並べてあるので、その旨ご了承されたし。また、思いっきりなネタバレはしていないが、真っ新な気持ちで本編を読まれたい方や、私同様に「言いたいことは作品で語ればそれで充分」な方は、回れ右されるべし。



「はっきりこうだ!これが目標だ!!」と力んでいるわけではなく、何となーく考えていた程度のものだが、「執筆の自己目標らしき」ものは以下の6点だった。


 〇地に足のついたファンタジーを目指す。

 〇男性でも、女性でも読めるものを目指す。

 〇漢字だらけでも「つるつる読める」作品を目指す。

 〇設定を細かく書き込むよりも、まず世界観を明示する。自分の創作世界ではどのような価値観で動き、社会規範や倫理が守られているのか、また逸脱されているのかをはっきり示す。特に、本作では終盤で行う主役二人の選択が読者に納得していただけるかは、この世界観がきちんと提示できたか否かにかかっているので、主にレツィン(他文化の人間)や弦朗君(当該文化の住人)を通して語らせた。おかげで弦朗君が「話の長い人」状態に…。

 〇爆発的に読まれることはないだろうけど(弱気)、一度追っかけてくださった読者には物語の最後までお付き合いくださるように、語り手は「物語を手放さないこと」を肝に銘じる。

 〇上記、偉そうにごちゃごちゃ言っているけど、要は「自分の読みたかったものを書く」。これが最優先!!


 〇中華ファンタジーは漢字が多く(各話の画面が黒い)、難解な語彙も増えるので、それをいかに読ませるか。『翠浪』は『螺鈿の鳥』ほど漢文を思わせる文体ではなく、よりなだらかな文体で書いているが、それでも一定の文章のリズムは守りたいわけで、語句の説明を入れながらだと、場合によってそのリズムが崩れてしまう。

 そこで、まずそのまま使う単語と、訳して使う単語の区別をつけた。たとえば寝台は「牀」という言葉があり、「牀前月光を看る」と学校の漢文の授業で習うので、漢語のなかでは知られた語句だが、本作ではあえて「寝台」を採用。逆に「命官」は「朝廷より任命された官僚」のことだが、「命官」のままにした。基準は……私の好み?だろうか。何となく字面でわかる語句はあえて説明せず。ただ、後から難解語句の幾つかは各回に脚注をつけることにした。また、ルビで説明するやり方も少し使ったが、多用はしないようにした。


 〇短編と違って、手の回らないところ、眼の行き届かないところが出てしまったこと。一番良くわかるのが、誤字の多さ。短編でも皆無ではなかったが、更新分を公開した後になって誤字に気が付いたこともしばしば。


 〇人物。

 意外に思われるかもしれないが、レツィンははじめ自分では掴みがたかったキャラで、上手く描けているかどうか全くわからなかった。活発な武芸者のヒロインという役どころは珍しくないので、他の作品とどう差異化を図るか。敏もヒロインの相手役としては少し地味かなあと思っていた。以前、別作品についての公募の選評で「ヒロインとヒーローの魅力に欠ける」と言われたのが、地味にトラウマになっているのかもしれない。でも、公開前に読んでくれた友人から「レツィン好き、敏も好き、二人が互いにツンツンしているところが好き」と言ってもらえて安心した。

 承徳はちゃらんぽらんな性格に見えて繊細な部分を持っているという設定だが、この人は割とイメージを掴みやすかった。

 弦朗君は、脇役ではあるが、この人の書き方を失敗したら物語が成り立たなくなると思っていた。性格の造型については個性を出しやすい反面、制約された立場の人間でもあるので、動かすのは難しい。それに、部下達が騒ぎを起こして物語が進むのでその隙を作ってやらねばならないが、これがなかなか……。また、こうした人物は一定の人気を得るだろうなとは思っていたが、蓋を開けてみたら男女問わず読者さんにかなり人気が出た。しかも男性読者さんに「格好いい」とまで仰っていただけて驚いたが、嬉しかった。レツィンといいこの弦朗君といい、同性の読者さんに「カッコいい」「好き」と受け入れてもらえると胸を撫でおろす、そんな感じ。


〇中国古典小説『紅楼夢』の作者である曹雪芹については第6話で書いたが、もともと彼は友人から執筆を勧められ、貧窮のうちにあっても『紅楼夢』を書き続けた。生前は家族や友人に見せるだけだったというが、彼が薄い粥を啜ってでも書き続けた理由は、もちろん本人の創作意欲が第一であろう。ただ、その意欲を持続させたのは友人の感想や批評だったのだろう、と今ならわかる。感想をいただくとやはりモチベーションが上がる!なので、今抱えている実生活の案件がひと段落したら、私も「ヨム」を充実させよう。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054883089882/episodes/1177354054883115451


〇次回作は、弦朗君が主人公となる。本来脇役であるべき彼を主役に持ってくるのは、『翠浪』シリーズをこれから書き続けるにあたり、第一作『翠浪』と第三作(顕錬の時代)の二つの時代を繋ぐ主人公として最適と判断したため。ただ、異性の主人公で長編を書くのは初めてなうえ、上記のように微妙な立場の彼に恋愛も絡んでくる、おまけに、一般的にシリーズの二作目というのは重要な位置を占める、ということでその辺りを上手く描けるかどうか、今から緊張している。というか、『翠浪』よりも明らかに構成の難易度も上がっているので頭を抱えている。とはいえ、尻込みしてはいつまでもハードルをクリアできないので、失敗を恐れず頑張って書こう。

〔追記〕結局、第二作は別の作品(『手のひらの中の日輪』)となり、弦朗君主役のは第三作に掲載予定です。ご了承ください。


〇最後に、読了した友人の感想に曰く、「『したいこと』より『すべきであること』を常に優先して生きていくのはツライですね。でもこの作品の登場人物はみな重荷を背負い、『すべきこと』をしながら一歩ずつ歩いていますね」と。重荷を背負っているけど重さを感じさせないほどひたむきに生きている、そういう人たちの群像劇を描けたらいいな、と思っている。

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