第4話 電子戦場のピエール・ベズーホフ
「カクヨム」は個性豊かな作家の方々が色とりどり、味もそれぞれの作物を栽培する豊かな「農場」でもあり、また互いに切磋琢磨し、競い合う「戦場」でもあるらしい。
そんななか、私はまるで、電子戦場に丸腰、私服で降り立った民間人のように思える。
まるで、トルストイ『戦争と平和』第三部、ボロジノ会戦で戦場をウロウロする主人公ピエール・ベズーホフである。さて、私のアンドレイはどこにいる?
そう、戦場。
――実際のところつい先日まで、私自身も私生活では戦場モードだった。
というのも、母が指定難病患者だったので、ここ数年にわたり在宅介護をしていたからである。介護離職への怯え、慢性的な睡眠不足、母が母でなくなっていく悲しみ、病人に時として優しく接することができない罪悪感や苛立ちに、心がささくれがちになっていた。
まさかこの歳で親の介護が始まるとは、と嘆きつつ、それでももっと若い歳頃に親御さんの介護が始まる方もおられるのだから、と自分を奮い立たせて、だが病状の進行に伴いどんどん重くなる負担、自分自身の体調も悪化し、先の見えない介護生活はやはり苦しくて、…そんなこんなで、私は
だが、辛いことばかりではなかった。
何かと気遣い優しい言葉をかけてくれた周囲の人々、頼りになるプロフェッショナルとしてサポートしてくださった福祉関係の方々、職場の配慮、幸いにして私はそれらを得ることができ、本当に共倒れになる寸前で母は施設に入所した。
そして、ワンオペでの介護中は外出もままならぬ私の一つの慰めが、小説を再び書き始めることだった。
以前は漫然と書き散らすだけで完結も何もあったものではなかったが、今度は完結できるように心がけた。
ただ、鬱々としたものを吐き出すように書いたためか、その時の作品は暗い話が多いが、それでも書いていなければ、鬱を内側にため込んでいたままだったかもしれない。
不思議なことに、あれほど時間に追われていた(今でも貧乏暇なしで、時間に追いまくられているけれども)介護期間のほうが、火事場の馬鹿力というか、気力を集中して執筆していたような気がする。
私は今日も、母が入居する施設を訪れた。
最初に、ものを「読む」ことと「書く」ことを教えてくれた、そのひとのもとへ。
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