第3話 「カタさ」と「コワさ」は防禦壁
以前、ある本の共著者に加わり、
本文とは別に、ヤワラカめの一文をも書く機会に恵まれた。
本文のおカタさを損なわぬよう、精一杯注意して書いたその文章は、
幸いにもおおむね温かい反応で迎えられ、筆者の私も胸を撫でおろしたものである。
しかし、執筆者陣に届けられた謹呈の礼状のなかに、ある知り合いの殿方が私についてお書きになったものがあり、それを拝読して考え込んでしまった。氏曰く、
「職場でお見かけする〔結城の本名〕さんは、近寄りにくく怖い方だと思っていましたが、文章を拝見して、意外に明るく親しみやすい方だとわかりました」と。
職場とは当時のアルバイト先のことだが、時折すれ違い、挨拶する程度の、しかも二十以上はゆうに年上の方からアルバイターにそのようなお言葉を頂戴するとは…。
どうも、普段目にする私の姿と、その文章との間のギャップが大きかったらしい。
――そんなにいつも不愛想だったかな?怖そうだったかな?
――へらへらしながら働けるかい!なんて、そういう問題じゃないか…。
――まあ、あそこ(職場)では平素かなり緊張しているうえ、実際、あの方にお目にかかるのは年度末やなんかで多忙なときだし、私も両眼をサンカクにして働いていたかもねえ。
――にしても、学生時代も級友や後輩から
「最初はとっつきにくかった」「近寄りがたかった」
「仲良くなるとなんてことはないのに、最初のハードルが高かった」
「もっと早くから話かけて、仲良くなっておけば良かったです」
と言われ続けてたなあ。
――やっぱり改善の必要あり?
と、もろもろ越し方を振り返り、反省した次第である。
おそらく若いころ、心身ともに不安定気味だった当時の私にとって、
「カタサ」と「コワサ」は防禦壁であったのだと思う。
そして、神様は世の中をうまく作っておられると感心するのは、
そのあと私はそうそう不愛想でもいられない仕事に就き、
(いや、そうであってもかまわないとは思うが)
たゆまぬ修行(?)の結果、今度は職場で先輩達から
「明るいね」(←実際は笑いでごまかしてるだけ?)
そして、下の世代の人たちから
「最初からはっちゃけた感じで、何だかヤバかったです」
と言われるまでに成長したことである(←これはこれで問題か?)。
そして、しばらく前、兄貴分のような大先輩に、
「この頃一回り大きくなったな」と言われたので
「肥えたんですよ、どうせ」とぶんむくれたら、
「いや、ウツワがね。以前はもっと何というか、
と言われて、ちょっとはオトナになれたかな、と照れた記憶がある。
馬齢を重ねてしまって……と溜息をついて生きてきたが、
「あ~~れ~~」と、コロコロ世間を転がっているうちに、
多少はカドカドも取れて丸くなり、
周りを見回す余裕も生まれてきたのかもしれない。
ちなみに、その先輩は初めて会う十年ほど前に
彼の書いたある文章を読んでいたのだが、
そのキッチリした「楷書」「隙のなさ」っぷりに
謹厳実直・
想像していたところ、実際にお目にかかったら
「ほな、いくで~!!」という、イケイケドンドンかつ
ユーモラスな語り口の御方でギャップに驚いたこともあった。
それでもその後、先輩の内にあるベースは、
やはり「楷書」だったとわかり、「やっぱりね」と得心をしたのだが。
ともかくも、
「楷書」と「行書」と「草書」、
カタイ文章からヤワラカイ文章まで上手く使い分けて、
コワイ話、コワクナイ話、カタイ話、ヤワラカイ話
いろいろ書いてみたい。
私のウツワから、どれだけのものが出せるのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます