エントロピー反転円境界線内-50センチメートル

 和才は、死ぬ気で、普通に歩いてエントロピー反転円境界線に入った。事実、誰もこのエントロピー反転円境界線を越えて帰還していないのだ。




 ここに段落がいくつあろうと改行が何行、行われようとなにも起こらなかった。

 和才は、生きていた。

 エントロピー反転円境界線を越えた衝撃も何もなかった。

 拍子抜けとはこのことである。

 さすがの和才もへたり込んでしまった。

 酸素もある。線量計に異常はなかった。各種、有毒ガス検知なし。中で、木々は普通に生い茂っている。というか、別に視界がこの境界線で遮られていたわけではないのだ。

 なんでもない、一歩に続く普通の数歩だった。

 和才の目の前には、岐阜県最北部に位置する標高2000メートル級の三方崩山さんぽうくずれやま

 この境界線半径10キロ内のどこかに富士林教授は居る。

(怖ぇー)

 和才は3年生のとき始めて、富士林教授に怒られたときを思い出した。 

「俺は、大学生じゃないそ」

 和才は、呟いた。

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